4-1 熾烈な選抜戦
土曜日。
果奈との穏やかな日々とは対照的に、男子テニス部の空気は張り詰めていた。
地区大会へ向けた選抜戦。
上位七人だけが、コートに立てる。
朝のミーティングで、今江先生が前に立つ。
「例年よりも時期は遅れたが、その分仕上がっているはずだ。この二日間、悔いのない試合をすること。以上」
「はい!」
声が反響する。
駿はラケットを握り直した。
グリップの感触が、いつもより固い。
初戦、二戦目、三戦目――
足は軽い。
打球は伸びる。
四戦目を終えた時点で全勝。
汗が額を伝い落ちる。
息は荒いが、身体はまだ動く。
「どうだ、調子」
隆二が隣に腰を下ろす。
「悪くない。隆二は?」
「俺も全勝。ここからだな」
隆二が拳を向けてくる。
「ああ」
隆二の拳に自分の拳を当て、コートへと戻る。
まだ強い相手と当たっていない。
本番はここからだ。
次の相手は祐希。
「よろしくお願いします、浅村先輩」
「こちらこそ」
六月の陽射しが強い。
コートが白く光る。
試合開始。
序盤は主導権を握った。
サーブが決まり、リターンが深く入る。
だが、祐希は崩れない。
一球一球、確実に返してくる。
ラリーが長くなる。
足の裏がじりじりと熱を持つ。
スコアは拮抗。
タイブレーク。
ポイントを取り、取り返される。
観戦している部員たちの息遣いが、背中に刺さる。
祐希のマッチポイント。
胸が強く脈打つ。
――ここで終わるわけにはいかない。
果奈の顔が、一瞬よぎった。
負けたままでは、いられない。
サーブ。
渾身で叩き込む。
乾いた音が弾ける。
祐希が、辛うじて返す。
浮いた。
甘い。
踏み込む。
身体が前に出る。
ラケットを振り抜く。
スマッシュ。
決まった――そう思った。
だが。
祐希のラケットが、ぎりぎりで触れる。
弱く、しかしコートの奥へ。
わずかに、判断が遅れた。
取れると思った一瞬の緩み。
足が止まる。
ボールが、ライン際に落ちる。
乾いた音。
静寂。
膝が、わずかに震えた。
ネットを挟んで、祐希が深く頭を下げる。
「ありがとうございました」
「……ああ。強いな」
本心だった。
「最後の追い上げ、凄かったです。何か、理由でもあったんですか?」
視線を逸らす。
「別に。ただ、必死にプレーしてただけ」
「誰かのため、って感じでしたけど」
図星を刺された気がして、思わず苦笑する。
「気のせいだろ」
祐希は小さく笑う。
「そういう顔してましたよ」
先輩に呼ばれ、祐希は走っていく。
一人、コートに残る。
ラケットを握る手が、まだ震えている。
取れたはずの一点。
勝てたと思った一瞬。
慢心。
勝てると、どこかで思った。
その甘さが、足を止めた。
大きく息を吐く。
胸の奥に、悔しさがじわりと広がる。
――次は、止まらない。
空を見上げると、陽射しがまぶしかった。
まだ、終わっていない。




