3-12 気遣い
昼休み。
駿は購買でパンを買い、倉庫裏へ向かった。
先に来ていた果奈が、壁に背を預けて空を見上げている。
「待った?」
「ううん。今来たところ」
本当は少し前から居たのだろう。けれど、それ以上は聞かない。
座れるところまで移動し、並んで腰を下ろす。
校舎のざわめきが、ここまで来ると遠い。
「……教室で一緒に食べるのは、流石に無理だよな」
ぼそりと呟く。
果奈はすぐに顔を上げた。
「無理。絶対無理」
「そんなに?」
「だって、見せつけてるみたいで嫌」
少しだけ頬が赤い。
その横顔を見ながら、小さく笑ってしまう。
「でもさ。場所はどこでもいい。こうして隣にいられるなら、それだけで良い」
言ったあとで、少しだけ気恥ずかしくなる。
果奈は一瞬固まり、そっぽを向いた。
「……急にそういうこと言うの、ずるい」
「変なこと言った?」
「言った」
その声は小さいが、嬉しさを隠しきれていない。
その時だった。
――ガサ、と足音がする。
二人同時に振り向く。
「……誰かいる」
立ち上がり、音のした方へ歩み寄る。
角を曲がった瞬間、背中が見えた。
「直己!」
呼ばれた本人はぴたりと止まり、ゆっくり振り返る。
「……バレたか」
申し訳なさそうに片手を立てて近づいてきた。
「何してんだよ」
「いや、その……ちゃんと元通りになってるか気になって」
呆れて、ため息が出てしまう。
「親かよ」
「悪かったって。後で、ジュース奢るから許してくれよ」
そこへ果奈がやって来る。
「どうしたの?」
事情を聞き終えた果奈は、じっと直己を見た。
「最低」
直己は固まる。
だが、次の瞬間。
「……でも、ありがとう」
「え?」
「私がいない間、駿の背中押してくれたんでしょ?」
直己は目を逸らす。
「別に、大したことしてねぇよ」
「してるよ」
果奈ははっきり言った。
直己は観念したように笑う。
「もう覗かない。約束する」
「次やったら本気で怒るからね」
「はい」
軽く手を振って、直己は去っていった。
静けさが戻る。
少しだけ、空気が柔らかい。
「直己の親友として、今回の事はごめん」
「確かに、鈴木君がやっていた事は許せない」
「でも、私達の関係を見守ってくれる人が居るってことが知れて少し嬉しかった」
「いい友達だね」
「ああ」
チャイムが遠くで鳴り始める。
教室へ戻る道すがら、ほんの一瞬だけ指先が触れた。
握るわけでもなく、離れるわけでもない。
昼の光が、二人の影を短くしていた。




