3-9 ライバルであり、最高の友
目覚ましが鳴る十分前、駿は自然と目を覚ました。
天井を見つめる。
胸の奥に、昨日まであった重さがない。
ゆっくりと息を吸う。ちゃんと、空気が入ってくる。
――大丈夫だ。
朝食をとっていると、結が眠たそうな顔でリビングに入ってきた。
「兄さん、おはよう。今日は部活行くの?」
「行くよ。部内戦近いし」
「気持ちは?」
「吹っ切れた」
短く答える。
結はじっと自分の顔を見てから、小さく息を吐いた。
「ならいいけど」
少し棘のある言い方。
でもその奥にある安心は、隠せていなかった。
「心配かけたな」
「ほんとです。兄さんは元気なのが1番なんだから」
それ以上は何も言わない。
それで十分だった。
学校に着き、部室の扉を開ける。
そこにいたのは隆二だった。
目が合う。
互いに逸らす。
ロッカーは隣。
普段なら自然と会話が始まる距離なのに、今日はやけに遠い。
隆二が先に準備を終えた。
一度、深く息を吸う。
その仕草だけで、駿は察する。
「浅村」
「どうした、隆二」
なるべくいつも通りに返す。
「……あの日、お前が早川の手引いて走ってくの、見てた」
声が少しだけ低い。
「なのに俺、何も出来なかった。それどころか、その前は……付き合ってんのに、勝手なこと言って。悪かった」
頭を下げる。
一瞬だけ、言葉を探した。
「俺も悪かったよ。ちゃんと言ってなかったし、あの時は……感情のまま言い返した」
同じように頭を下げる。
顔を上げた瞬間、目が合った。
数秒。
どちらからともなく、笑う。
「あー……やっぱ無理だわ」
「別に」
隆二が肩をすくめる。
「浅村とギスギスしてんの、やっぱ無理」
「俺も」
その一言で、空気が戻る。
しばらくして、隆二がふと聞く。
「なあ、どっちから告白したんだ?」
少しだけ視線を逸らしながら。
「俺から」
「……そっか」
一瞬。
本当に一瞬だけ。
隆二の目が揺れた。
「緊張した?」
「緊張したし、告白する時以外も告白する為に早川さんに話しかけた時も緊張した」
「色々と苦労があったんだな……」
でもその奥に、微かな棘が残っている気がした。
「正直さ」
隆二が小さく呟く。
「悔しかった。けど……ちゃんと決めた浅村の方が、かっこいいわ」
冗談めかして笑う。
「揶揄ってんのか?」
「普段ならな」
視線がぶつかる。
逃げない目だった。
「そろそろ行くか。久々の練習だからって、手は抜かないからな」
「望むところ」
部室を出る。
コートへ向かう足取りはいつも以上に軽かった。




