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もう一度、やり直せるなら  作者: 青サバ
3章 それぞれの変化
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3-7 絶対に悲しませない

 次の日の朝、目覚ましの音と共に駿は目を開けた。


 ここ数日で一番、頭が澄んでいる。


 カーテンの隙間から差し込む光が、久しぶりに眩しかった。


 逃げるためじゃない。


 向き合うために、今日は動く。


 スマホを手に取り、部活の顧問・今江先生に電話をかける。


「おはようございます、浅村です。今日も部活を休ませてください」


 一瞬、沈黙。


「……分かった。最後に一つだけだ、浅村」


「はい」


「明日から来れるな?」


 問いかけというより、信じている声だった。


「はい!」


 即答だった。自分でも驚くほど、迷いがなかった。


「待ってるぞ」


 通話が切れる。


 胸の奥に、小さな火が灯る。


 

 身支度を整え、美生に教えてもらった住所を頼りに果奈の家へ向かう。


 インターホンを押すと、すぐに声が返ってきた。


「入っていいよ。家族は出かけてるから」


 少し掠れている。


 それだけで、胸が締まる。


「お邪魔します」


 玄関を上がると、果奈が立っていた。


 髪も整っている。制服ではないけれど、きちんとした格好。

 まるで、"自分が来ること"を知っていたかのように。


「果奈、あの時は――」


「いいから、上がって」


 少し強い声。


 部屋へ入る。


 白を基調とした空間。大きなぬいぐるみが壁際に並ぶ。


 どこか、守られた世界みたいだった。


「俺が守れなかったせいで、怖い思いさせてごめん」


「謝らないで」


 即答。


「駿が目の前に立ってくれたの、嬉しかった。恋人で良かったって思った」


 胸が熱くなる。


「でも――」


 果奈が一歩近づく。


 次の瞬間、左肩に顔をうずめた。


「怖かった……」


 震える声。


「辛島先輩も怖かった。でも、それより――駿との関係が途絶える方が怖かった」


 言葉が、真っ直ぐ刺さる。


「あの一件以降、駿から連絡が全く来なくて、このまま駿と元通りの関係に戻れないことを考えると怖かった。私も駿のメッセージを見て、電話しようと思ったんだよ。でも、何を話せば良いのか分からなくて、電話出来なかった」


 自分も怖くて、逃げていた。


 傷つけるのが怖くて。


 失うのが怖くて。


 ゆっくりと、背中に手を回す。


「ごめん。俺も怖かった。でも、逃げない。俺はここにいる」


 果奈の肩が小さく震え、やがて力が抜けた。


「うん……」


 涙の跡が残ったまま、笑う。


 その笑顔は少し歪で、でも眩しかった。


 

 しばらくして、果奈が顔を上げる。


「私たちの関係、バレちゃったね」


「うん」


「クラスの皆に変な目で見られるかもしれないよ?」


「それでもいい。隠して不安になるより、堂々としてた方が楽」


「……強いね」


「強くないよ。でも、一人じゃない」


 果奈の手を握る。


「一緒なら、何とかなる」


 果奈が小さく笑う。


「駿の言葉、信じる」



 帰る時間。


 玄関で振り返る。


「月曜、学校で」


「うん。でも無理しないでね」


 背を向ける。


「駿」


 呼び止められる。


「今日は、本当にありがとう」


 満面の笑み。


 涙の痕がまだ薄く残っている。


「俺も。来てよかった」


 

 外に出る。


 無意識に、左肩に触れる。


 さっきまでの温もりが、まだ残っている気がした。


 

 二度と、あんな顔はさせない。


 でも。


 “守る”って、何だろう。


 拳を握る。


 答えはまだ分からない。



 それでも、隣に立つと決めた。

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