表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう一度、やり直せるなら  作者: 青サバ
3章 それぞれの変化
18/68

3-6 動くしかなかった

 美生は夕飯の買い物を済ませ、駿君の家へと向かっていた。


 昨日よりも、足取りが重い。


 理由は分かっている。


 それでも、考えないようにして歩いた。


 

 玄関に靴があるのを見て、胸が小さく沈む。


 ――やっぱり、いる。


 

 居間へ入ると、結ちゃんがテレビを睨んでいた。


「結ちゃん、今日も駿君は部屋?」


「そうですよ。どれだけ凄い揉め事したのか知りませんけど、こっちまで気分悪いです」


 昨日よりも棘がある。


 心配と怒りが混ざっている顔だった。


「私、行ってくるね」


「今行っても無駄だと思いますよ?」


「それでも」


 小さく息を吸う。


「放っておけないから」


 

 ドアの前に立つ。


 中は静かだ。


「駿君。悩んでること、話して。何でも聞くよ」


「……ありがとう。でも今は、一人で考えさせてくれ」


 即答だった。


 昨日と同じ言葉。


 胸が少しだけ痛む。


「昨日からずっとそれだよ? 話せば、少しは楽になるかもしれない」


「いいから、ひとりにさせてくれよ!」


 珍しく荒い声。


 一瞬、足がすくむ。


 けれど、そのままノブを握り、勢いのまま、扉を開ける。


「今のままでいいの?」


 駿君が振り向く。


「果奈ちゃんが悲しんでるのに、彼氏がここで立ち止まっててどうするの」


「分かってる!」


 ベッドから立ち上がる。


「俺だって行きたい。そばにいたい。でも、どう接すればいいか分からないんだよ!」


 声が震えている。


 胸が締めつけられる。


「分からなくていいよ」


 気づけば、声も少し震えていた。


「完璧な彼氏なんていない。今の果奈ちゃんは、駿君が隣に立ってるだけで救われるの」


 駿君が黙る。


「それで、果奈ちゃんと付き合っていけるの?」


 言ってから、はっとする。


 強すぎた。


「ごめん。今のは違う」


 目を逸らす。


 駿君はゆっくりと息を吐いた。


「……そうだよな。何でこんな単純なことに気づかなかったんだろ」


 小さく笑う。


「俺、彼氏失格だな」


「そんなことないよ。果奈ちゃん、駿君と付き合ってからずっと楽しそうだったし、毎日を大事にしてた」


 駿君の目に光が戻る。


「美生、果奈の家、分かる?」


「うん。あとで教えるね」


「……ありがとう。叱ってくれなかったら、多分このままだった」


「この前、私も駿君に励まされたから。お互い様」


 

 居間へ戻ると、結ちゃんが駆け寄ってきた。


「兄さん、大丈夫なんですか?」


「結、ごめん。無視して」


「今度からはやめてください。私だって心配したんですから」


 その光景に、ほっとする。

 


 台所に立つ。


 ハンバーグをこねる。


 手の中の温もりが、妙に熱い。


 焼き上がる音が、いつもより軽く聞こえた。



「いただきます」


 駿君が一口食べて首を傾げる。


「今日、なんかうまいな。何か入れた?」


 少しだけ考えて、笑う。


「うん、ちょっとね」


「ずるいです! 私のにも入れてください!」


「今度ね」


 

 夕食後。


 帰ろうとすると、駿君が呼び止める。


「最後にひとつだけ」


「なに?」


「隠し味って何だった?」


 一瞬だけ、言葉を選ぶ。


「勇気」


 微笑む。


「頑張ってね、駿君」


 

 玄関を出た瞬間、夜風が頬を撫でた。


 胸の奥が、じわりと熱い。


 嬉しいのか、苦しいのか、分からない。



 それでも。


 立ち止まらない。


 駿君が果奈ちゃんの隣に立てるように。


 

 そのためなら、私は――


 ぎゅっと、バッグを握りしめた。


 

 夜は、静かだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ