3-5 真っ暗
次の日。
駿は、昨日のことを何一つ整理できないまま、学校へ向かった。
教室に入り、無意識に果奈の席を見る。
椅子はきちんと机の中に収まったまま。
机の上には何もない。
――いない。
胸の奥が、じわりと冷たくなる。
しばらくして担任の田中先生が来た。
「早川は今日、休みだ。日直、学級日誌に書き忘れるなよ」
やっぱり。
分かっていたのに、改めて言葉にされると重い。
果奈は、今どんな気持ちでいるんだろう。
考えるだけで、胃のあたりが締めつけられる。
なのに。
何をすればいいのかが分からない。
昼休み。
今日もコートに立てる気がしなかった。
顧問の今江先生のところへ向かう。
「浅村、今日も体調悪いのか」
視線が鋭い。
「大会近いんだから、早く戻せよ」
「……すいません」
自分でも分かっている。
体調なんかじゃない。
逃げているだけだ。
教室に戻ると、直己が待っていた。
「今日も休むのか?」
「ああ」
「で、帰ってどうすんだよ」
返せない。
何も、思いつかない。
沈黙が重く落ちる。
直己は小さく息を吐いた。
「なあ。駿、落ち込む気持ちは分かるけど、早川さんは今、駿を必要としているんじゃないんか?」
心臓が跳ねる。
「分かってる」
声が掠れる。
「分かってるけど……どう接すればいいのか、分からないんだよ」
言いながら、自分で情けなくなる。
直己は少しだけ柔らかく笑った。
「完璧じゃなくていい。隣にいるだけでも、違うんじゃねえの」
その言葉が、胸に残った。
放課後。
家に帰ると、静まり返っている。
昨日と同じはずなのに、今日はやけに広く感じた。
制服のまま、ベッドに倒れ込む。
天井が白い。
何も答えてくれない。
果奈の顔が浮かぶ。
泣いている顔。
怒っている顔。
笑っている顔。
全部、守りたいはずなのに。
――守れてない。
玄関の音。
「ただいまー。兄さん、今日も帰ってきてるの?」
結の声。
返事ができない。
「……もう、知らない!」
足音が遠ざかる。
胸がちくりと痛む。
静寂。
時計の針の音だけが響く。
ゆっくりとスマホを手に取った。
果奈とのトーク画面を開く。
キーボードを開く。
――ごめん。
打ち込む。
画面に浮かぶ四文字。
違う気がした。
全部消す。
――大丈夫?
打ち直す。
これも、違う。
消す。
指が震える。
直己の言葉が、よみがえる。
完璧じゃなくていい。
深く息を吸う。
――会って話せる?
送信ボタンの上で、指が止まる。
心臓の音が、うるさい。
……ええい。
タップした。
既読は、つかない。
それでも。
何もしないよりは、ましなはずだ。
そして、願うように、静かにスマホを握りしめた。




