2-7 不穏な動きと悩み
駿は足早に、果奈が待つ倉庫裏へ向かっていた。
けれど、頭の中からはさっきの隆二とのやり取りが離れない。
言い過ぎた言葉。
噛み殺した、本当の気持ち。
振り払うように歩みを速め、待ち合わせ場所に着くと、果奈がひとりで立っていた。
「ごめん。練習、長引いてさ」
咄嗟に出た嘘だった。
「私も練習が長引くことあるし、それくらい大丈夫だよ」
そう言って微笑む果奈に、胸がちくりと痛む。
「……うん」
本当の理由は言えなかった。
隆二のことも、自分の中のぐちゃぐちゃした感情も。
並んで歩く帰り道。
いつもなら自然に弾むはずの会話が、今日はどこか空回りしている。
果奈の声を聞きながら、別のことを考えている自分に気づいてしまう。
楽しいはずなのに、心が追いついてこない。
やがて、別れ際の場所に着いた。
「それじゃ、また明日」
「……うん。また明日、果奈」
果奈も、どこか元気がないように見えた。
それが自分のせいなのか、確信が持てないまま別れる。
背を向けた直後、ふと視線を感じた。
風が抜けただけかもしれない。それでも、肌がざわつく。
振り返ってみても、そこには誰もいなかった。
――気のせいだ。
そう自分に言い聞かせ、隆二のことを考えながら家路についた。
家に帰ると、台所から美味しそうな匂いが漂ってきた。
美生と結が、並んで夕飯の準備をしている。
「駿君、おかえり」
「兄さん、おかえり〜」
「ただいま。俺も手伝うよ」
いつものように準備に加わる。
その時間だけは、少しだけ頭が空っぽになれた。
夕食を終え、風呂の準備をしようとしたところで、美生が声をかけてくる。
「駿君」
「なに?」
「今日、学校で何かあった?」
一瞬、心臓が跳ねた。
隆二の顔が、頭をよぎる。
「……別に、何も」
「本当に?」
美生は、じっとこちらを見る。
「今日の駿君、ちょっと元気なかったよ」
「……そう見えた?」
「うん。あんまり無理しないでね」
それだけ言って、美生はそれ以上踏み込まなかった。
何も話していないのに、胸の奥が少しだけ軽くなる。
気づかれていることが、救いになることもあるらしい。
その夜は、なかなか寝付けなかった。
翌日の放課後。
隆二の顔を見たら、どんな顔をすればいいのか分からないまま部活に向かった。
けれど、隆二の姿はなかった。
いつもより、少しだけ広く感じるコート。
ラケットを振るたび、昨日の言葉が胸に引っかかる。
集中できない。
ミスが続き、思うようなプレーができなかった。
気分を切り替えようと、コートの端で一息つく。
そのとき、女子テニス部の方から活気ある声が聞こえてきた。
視線を向けると、大会出場をかけた試合の最中だった。
その中に、美生の姿がある。
ラリーが続き、ポイントを取り合う接戦。
思わず、心の中で応援していた。
――けれど、結果は敗戦。
声をかけようとして、一歩踏み出しかけて――止まる。
今は、練習に戻るべきだと自分に言い聞かせた。
ラケットを握り直し、コートに戻る。
けれど、手に力が入らない。
結局、その日も本調子には戻らないまま、練習は終わった。




