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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第95話 到着

「トーリの初ダンジョンは、わたしが親身になって教えてやるのだ。先輩としてな!」


 無表情なのに圧が高いイザベル。


「えー、僕は変人エルフじゃないと思います。とても常識的な社会人ですよ。いい歳をしたおっさんだし」


 笑顔を絶やさずに、いつも通りほんわかしているトーリ。


「同じ一族なのだからこれは当然のことだ。異論は認めないぞ。だからトーリの仮入場許可証をよこすのだ」


「真面目が取り柄だってよく言われてたんですよね。冒険者デビューしたんだから、もう少し若者らしく弾けてもいいのかなあ。おっさん臭が身についているから難しいんだよね……入場許可証くださいな」


「おまえら、ちょっと黙れ」


 シーザーはエルフたちを放置して、デリックに「どういう話になってんだ?」と尋ねた。


『烈風の斬撃』のパーティーリーダーであるデリックはひとつ肩をすくめてから、常識人のかがみのような態度で「トーリがソロでダンジョンに入るつもりらしいから止めたんだ。最初は俺たちがフォローするってことになった。資格テストをするならうちが引き受けるけど、どうだ?」とシーザーに説明した。


「おう、そうしてもらえると助かる。じゃあ仮の許可証を出すからな」


「シーザーさん、お願いします」


「す」


 常識的なエルフとリスがお礼を言った。




「イザベルさん、近いです」


「す」


 ギルドの部屋の隅で待っていると、トーリにべったりと貼り付こうと、美人エルフがあからさまに距離を縮めてこようとする。


「すっ、すっ」


 保護者のリスが尻尾で追い払っている。


 それを見た冒険者が「ええっ、イザベル、そんなやつがいいんだ? 見た目はいいけどそいつはおかしなやつだぜ。俺にしておけよ!」と声をかけるが、彼女はひと言「殴るぞ」と答えた。

 黙っていればスタイルもよく顔も整っているイザベルは、性格に難があってもかなりモテるようだ。次々に声をかけられる。


「イザベル、子どもをたぶらかすなら俺をたぶらかせ!」


「殴るぞ」


「やめとけやめとけ、坊主も遠慮しろ。いい女をはべらすにはガキすぎるぞ」


「殴るぞ」


「むしろ蹴って」


 トーリとベルンは「特殊な性癖?」「す?」と、汚物を見る目で男を見た。

 すると、男が顔を赤らめたので、エルフとリスは『うへえ……』と顔を見合わせた。


「貴様、子どもの教育に悪いぞ!」


 イザベルが素早く男を殴り倒した。男は嬉しそうな顔で気を失った。

 こちらも教育に悪い。


「イザベルは、朝から騒ぎを起こすな」


「騒いでいない。静かに沈めた」


「黙らせればいいってもんじゃねえ。そら、仮許可証だ。一回ダンジョンに入ったら、報告に来い。その結果で判定する」


 トーリは書類を受け取った。


「わかりました。取ってくる魔石が多い方がいいとか、なにか条件がありますか?」


「いや、ダンジョンでの基礎的な動きができてりゃいい」


 トーリの実力は充分わかっているので、シーザーは「危ないようなら落とす。無茶はするな」とだけ注意した。


「さて、どうする? 俺たちはもうダンジョンに入るがトーリは午後から行くか?」


「今すぐでも出発できますよ」


 時間があれば森に狩りに行こうと考えていたので、準備は整っている。


「ダンジョンには走って行くんですか?」


「ああ。ついて来られそうか?」


「持久力はありますから、問題ありません」


 ダンジョンまでは距離があるので、馬車や馬を使う冒険者もいる。マジカバンを持っているなら荷物は少ないので、大抵は歩くか走る。

 Eランクの冒険者ともなると、身体強化も使いこなせるし、身体能力も高い。

 経済的にも裕福なので、体力がなければ魔導具のアクセサリーを使って底上げもできる。


「なら、行くか」


「わたしが背負って走ってもいいぞ? トーリ、お姉ちゃんがおんぶしてやろう」


 彼は丁重にお断りした。




 斥候のリシェルが身軽なのは当然だが、大剣を背負ったマグナムも意外に走れた。

 重さを筋肉でカバーしているようだ。

 先頭を走るリシェルが面白がってスピードを上げるので、デリックが途中で「飛ばし過ぎだぞ!」と注意した。


「まあ、予想通りってとこね」


 ダンジョンの入り口まで息を切らさず、むしろ軽々走ってきたトーリに、リシェルが言った。


「走り方の癖を見ればだいたい実力がわかるわ。トーリは魔力の使い方に無駄がないし、足音をほとんど立てずに長時間走り続ける技術にも優れているわね」


「脚には自信がありますよ。走るのは得意です」


 彼は余裕でにこにこしている。

『暁の道』との合同狩りでは、魔物を引いてくる役目で走りっぱなしだし、ソロで活動する時にも常に動きながら攻撃をしている。体幹が安定しているので、ジャンプしながら正確に矢を射ることもできるのだ。


「問題なければダンジョンに入るぞ」


 正式な許可証は冒険者ギルド証に印字されているので、『烈風の斬撃』のメンバーはダンジョンの管理をしている職員にカードを見せた。

 トーリが仮許可証を渡すと、じっくりと本物である確認をしてから「ダンジョンは外とは勝手が違います。充分に気をつけて行ってきてくださいね」と声をかけられた。

 ベテランと一緒なので、子どもでもそれ以上の注意はない。


「初めてだから、浅いところで狩りをしてみよう」


 デリックが言った。


「わたしが先に行くね。ダンジョンには宝箱という物も落ちているけれど、罠だったり変装した魔物だったりする場合もあるから、トーリは手を出さないでね」


「わかりました」


 リシェルの言葉に素直に頷く。


「イザベルも手を出さないでね! 殴り壊さなくていいからね。鍵を開けるのがわたしの仕事なんだから」


「……わかった」


 絶対に、殴った方が早いと考えている。


 イザベルはトーリに「ダンジョンの魔物は倒すと魔石を残して消える。運がいいと、アイテムを落とす。だが、身体に汁がつくとそれは消えないから注意するのだ。目に入ると、見えなくなることもあるからな」とアドバイスをした。


「運悪く口に入ると、おなかを壊すし口の中がとても臭くなる」


 トーリとリスは『汁には充分に気をつけて狩ろう』と思った。

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