第93話 親切な先輩たち
「『烈風の斬撃』はその格好をなんとかしてこい。ここはメシを食う場所だぞ」
ジョナサンに注意されて、ベテラン冒険者たちはおとなしく部屋に戻った。
パーティーリーダーのデリックがトーリに「ちょっと話があるから、待っててもらえるか?」と声をかけて行ったので、トーリは「もうこれ以上エールは飲めないなあ……」と、マジカバンの中から果物をいくつか取り出してジョナサンに切ってもらえるように頼んだ。
「余ったのはジョナサンちの家族さんと従業員さんたちで食べてください」
「ありがたくもらうぞ」
アプラ、ブルーバ、リバンバン、パナプル(りんご、ブルーベリー、マンゴー、パイナップルに似た果物である)と次々に渡されたジョナサンは「もう出すな」とトーリを止めて、厨房に戻った。
「マジカバンに時間遅延がついていると便利だな」
「狩った魔物が新鮮なまま卸せるから、買取り価格が上がるし、高いけど買った分以上の儲けが出るよな」
マーキーとギドが言ったので、トーリは「時間遅延付きを買えたの?」と尋ねた。
「ああ。サイズも大きくできた」
マーキーとギドと、アルバートとジェシカが組んでいるパーティー『暁の道』では、最初に買ったマジカバンを二回買い替えて大きくしたらしい。
収入が増えたら装備を整えて、次の収入アップにつなげる。
そして、ランクアップを目指す。
これを行うには、大金を前にして浪費に走らないとか、地道な鍛錬を怠けることなく続けるとかができる、目標に向かう強い意志の力が必要なのだが、現状に満足して努力をやめてしまう冒険者も多いのだ。
もちろん、命がけの冒険をやめて、余裕のある狩場で安定した稼ぎ方を続けるという生き方もあるし、そのような道を選んだFランク冒険者もギルドには必要だ。
だが『暁の道』のメンバーは、幸いなことに全員が、上を目指して進み続けることを選んだ。
そして、そのためにはどうしたらいいのかを、ギルドマスターやグレッグ教官、『烈風の斬撃』のメンバーに素直に相談して、できることは実行している。
自分たちはまだ子どもだから、ということもあり、先輩に教えてもらうことに変なプライドを持たないし、失敗や間違いもして当たり前という、ある意味ふてぶてしさを備えていたのもよかったのだろう。
マジカバン買い替え作戦は、稼ぎを増やすテクニックとしてトーリが教えたのだが、彼がなぜ必要かを説明したらすぐに納得した彼らは、お金を貯めてまず小さなマジカバンを購入した。
「今度のカバンは、小屋三つ分くらいの大きさだから、森の中で一日中狩りをしても余裕があるんだぜ」
「三倍になったんだね。それだけ大きいなら、カタコブイノシシとかバッファローバードみたいな大型の魔物もけっこう入れられるね」
大物は持って帰るのが大変なので、大きなマジカバン持ちでないと難しい。イノシシも牛鳥も肉が美味しいため、高い値段で引き取ってもらえるから、マジカバンを買い替えた出費もすぐに回収できるはずだ。
トーリは『うまくやっているようでよかった』と思う反面、『『暁の道』には、もう僕は必要ではなさそうですね』という寂しさも感じていた。
むいた果物をしゃくしゃく食べながらなんだかんだと話していると、『烈風の斬撃』のメンバーが着替えて食堂にやってきた。
「ジョナサン、俺たちのメシも頼む。いつものやつだ」
厨房に声をかけると「おう」と返事が聞こえて、すぐに従業員のミゼッタとアンナがエールと食事を運んできた。ふたりは食堂が忙しい時間だけやってくる、いわばパートの主婦なのだ。
ジョナサンの方針で、若くて綺麗なお姉さんは雇わないらしい。ここは酒場ではないし、お姉さん目当てにやってくる客はお断りなのだそうだ。
「待たせたな、トーリ」
デリックは、テーブルにつくと、トーリに隣に来るように呼んで言った。
「いえ。話ってなんですか?」
「許可証をもらえたら、一度、俺たちと一緒にダンジョンにも入ってみないか?」
突然のことに無言でデリックの顔を見ると、彼は目を逸らして、代わりにイザベルがまくし立てた。
「トーリはもう森の奥まで狩りに行っているのだろう。となると、ダンジョンに入るのは時間の問題だ。トーリなら大丈夫だとは思うが、ソロでダンジョンに挑戦して命を落とした者がたくさんいることは知っている。だから、わたしの目の届くところでダンジョンに挑戦してくれ」
「気を配ってくださってありがとうございます。でも、イザベルさん、それは過保護じゃないですか?」
「過保護ではない、適切な保護だ!」
トーリがデリックを見ると、また視線を逸らされた。
仕方がないので身体の大きなマグナムを見ると、彼は運ばれてきた料理に夢中でこちらのことは気にしていない。
斥候のリシェルを見ると「トーリくん、いい子だからエールを冷やしてね」と立て続けに三杯のエールを冷やす羽目になった。
彼は『このパーティー、大丈夫なのかな?』と思った。リスのベルンを見ると「す」と可愛らしく肩をすくめてみせた。
「いいなあ、『烈風の斬撃』と一緒に戦う機会があるなんて羨ましいぜ」
マーキーが、ため息まじりに言った。
ギドも「俺も羨ましい」と言った。
「トーリは才能があるし、強いのも知ってる。狩りも上手い。だけど、手助けしてもらえるっていうならその手をつかんでもいいんじゃね? って思うぜ」
「俺たちとレベルが合わなくなっても、トーリは一緒に狩りに行って、いろいろ教えてくれただろう? トーリだって教えてもらうことがあってもいいよな」
「え、でも、それは、僕がやりたいからやったことだし……」
イザベルはトーリの言葉を遮ると「わたしもやりたいからやるのだ」と言った。
「トーリはたぶん、今までなにか嫌な経験があって、そのせいで人の好意を受けとるのが怖いんじゃないか? その気持ちはわたしにもわかるぞ。この外見に釣られるのか、下心や悪意を持って近づいてくる者がたくさんいたからな。ちなみに今もいるが、そのような時には落ち着いた気持ちでぶっ飛ばしている。そんなことだから、人とはあまり近づきたくなかったし、しばらくはソロで活動していた。だが、そうじゃない者もちゃんといることがわかって、こうして仲間ができたんだ。だから今、トーリも心を開け。開くのだ!」
肉を頬張ったマグナムが「珍しくイザベルがまともなことを言ってる」と余計なことを呟き、リシェルにどつかれた。




