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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第90話 試し斬り

『普通の森』まで、新しい武器の試し斬りにやって来たトーリとベルンは、木の枝に乗って魔物を探知した。

 トーリは自分を鑑定していないのだが、おそらく気配察知のスキルがかなり伸びているはずだし、ベルンもリスでありながらその特殊技術スキルを獲得している。

 これはトーリと共に狩りをする時に、責任感の強い保護者(と、自分では思っているらしい)のリスとして、危険を避けるために魔物を探知してきたためだろう。


 さらにベルンはトーリと行動しているうちに、自分の気配を魔物に悟られないようにする気配遮断というスキルも身につけている。これもトーリの得意技だ。


 この森には、探知能力が優れた強い魔物はいない。そのため、トーリとベルンはマイペースで狩りをすることができた。


「あっちにマッドボアがいますね。六匹か……僕が弓で数を減らします」


「す」


「わかりました、連射したのち、破裂矢ですね。ではいきますよ」


 彼はマジカバンから弓を取り出すと、魔力の矢を引き絞った。今では命中機能付き、つまり狙った場所を外さない矢をほぼ同時に五本、連続して射ることができるまで成長している。


「シッ! シッ! シッ! シッ! シッ!」


 小さく気合を込めて放った矢は、マッドボアの核がある喉、つまり急所を確実に射抜き、五頭のマッドボアはその場に崩れ落ちた。


 最後の一頭が『ぶもおっ!』と怒りの声をあげたが、トーリの放つ爆発矢を顔面に受けてしまい、その場に立ちすくんだ。


 その隙に、トーリの肩から降りて枝から枝へと飛んで走ったリスがマッドボアの上に飛び降りて、小さな片手剣で喉を切り裂いた。


 切れ味がよい刃はあっさりマッドボアを切り裂き、完全に離れた頭がぽとりと落ちる。


「うっわ、すごいなあ。お見事ですよ」


 こちらも枝から枝へと飛び移りながらやって来たトーリが、「す」と誇らしげに剣を天にかざすベルンを褒めた。


「武器を持たせると、普通のリスでも魔物を狩ることができるんですね」


 いや、できない。


「それじゃあ、イノシシをしまって次の獲物を探しましょう」


「す」


「ベルンは、魔法は使えないんですよね?」


「す……す!」


「なるほど、今は使えなくても将来はわからないんですか。でも、魔力を乗せなくてもそんなに斬れるなんて、さすがはデスウィンドマンティスの武器ですね。いいものを作れてよかったです」


 彼はマッドボアをすべてバッグにしまい込んだ。


「血で汚れずに済むのは助かりますね」


 心臓の代わりに、核が魔石から魔力を引き出して全身に回すので、魔物には血液がない。そのため、肉は血抜きをしなくても美味しく食べられるし、傷みにくいのだ。


「今夜は肉をジョナサンさんに渡して、料理してもらいましょうか」


「す」


 リスは木の実があれば満足なのだそうだ。


「次はあのカタコブイノシシを、僕がやってきますね」


 トーリは枝にリスをおろすと、巨大なイノシシの魔物のところまで木の上を走り、背中に飛び降りた。突然自分の背中になにかが乗ったので、カタコブイノシシは頭をあげて身体を震わせようとしたが、トーリはするりとイノシシの身体から降りながらその無防備な喉を切り裂いた。


 カタコブイノシシの太い喉はぱっくりと口を開けて、その奥にある青い卵型の核が破裂して消えた。


「わあ、よく斬れるなあ」


 どうと倒れるイノシシの横で、トーリはにこにこしながら刃こぼれがまったくないナイフを観察する。


「風魔法を通すようにすると、魔力が刃の表面を覆って細かく振動するのかな? 刃が直接触れないから、磨耗しないでいつまでも使えそうですね」


 トーリは『よくできているなあ』と感心する。そして「遠距離攻撃の風の刃が出ないかな?」と付近の木に向けてナイフを振るったが、残念ながら魔力のかまいたちが飛び出すことはなかった。


 それから彼らはブラッドハウンド、ドクヒョウ、バッファローバードなどの魔物を危なげなく倒していった。

 初めて剣で戦ったベルンは数をこなしていくうちに大きく成長し、目にも止まらぬ速さで魔物の核を的確に壊していき、トーリを驚かせた。


「うちのリスが暗殺者アサシンになっちゃった件?」


「す」


 リスはニヒルに肩をすくめた。すごく可愛い。


(これが普通のリスなんですか? 僕の中での『普通』の意味が崩壊していくんですけど)


 彼は改めて『異世界はすごいなあ、日本での常識にとらわれないようにしないといけないな』と心構えをした。




 結局彼らは、向かうところ敵なしといった勢いで森の奥まで進み、ヒドラドレイクという手強い魔物とも戦った。


 この魔物は頭と尻尾が三つある巨大なトカゲの魔物で、ドラゴンの劣化版のような姿をしているのだが、動きも素早く三つの頭が同時に噛みつき攻撃をしてくるのでなかなかあなどれないのだ。


 だが、遠距離からの攻撃を受けてダメージを受けたところに、素早い切り裂き攻撃で急所を攻められたヒドラドレイクは、ひとつずつ頭を減らして意外にあっさりと倒された。


「核が三つもあるなんて、びっくりですよね。口から火を吐かれたりしたらかなり面倒になるけど、動きがそれほど速くないから全然対応できたよね」


「す」


 無傷でヒドラドレイクを倒してしまったこのふたりは、自分たちが異常に素早いことに気がついていなかった。


 このような調子で狩りをしたふたりは、たくさんの獲物をカバンに詰め込んで町に戻り、買取り所に卸しにやって来た。


「とうとうヒドラドレイクまで狩ってきましたか。トーリさんが狩ったあとには、草も生えないんじゃないですか?」


「あははは、草で思い出しましたが、薬草も採取してきたんでした」


 トーリは、薬師のベルナデッタが欲しがっていた以外の薬草類を買取り所に卸して「これでたくさんの薬が作れますね」と喜ばれた。


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