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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第89話 仲良しの騎士

 木の実のことは木の実屋に任せる、ということで、マギーラが作成したコリスのマークをヘラル渡したトーリは、商業ギルドでの手続きなどは彼に託した。


「よい投資家は、資金だけ提供してあとはおとなしくしているものですよ」


「す」


 トーリは投資などしたことがないのだが、そこはネットで拾った知識でいかにもわかっている風に言っている。

 ちなみにリスも投資についてなど知らないのだが、やっぱりわかったふりをする。


「そうそう、これはヘラルさんたちの冒険ですからね。なんでもかんでも僕たちが手出しをすればいいってものじゃあないんです」


「す、す」


「そうですね、困ったことがあれば、彼らは僕たちに声をかけてくれるでしょう。それくらいには信頼されていると思いたいです。それまでは、僕たちは僕たちの冒険を楽しみましょうね」


「す!」


 肩に乗せたリスと話をしながら歩くトーリを、町の人々は『あー、アレが噂のリスとエルフかー』と少し離れたところから見守った。

 どうやら彼の評判は『残念エルフ』あたりに定まっているらしい。


 そんな彼らに声をかける男性が現れた。


「トーリ、最近はどうだ?」


「ラジュールさん!」


「す!」


 初めてこの町にやって来た時に知り合った、騎士ラジュールである。

 真面目で、どちらかというと近寄りがたい雰囲気の騎士なのだが、実は意外に面倒見がよい性格をしていて、見た目が弱そうな美少年エルフがこの町でトラブルに巻き込まれるのではないかと気にかけてくれていた。


 最近では、どうやら見た目と違ってタフなエルフだということがわかり、別の意味でトラブルの種になるのではないかと気にかけているのだが。


「あのですね、ラジュールさん! 実は今日、僕たちは新しい武器を手に入れたんですよ。ちょっと見ていってくださいよ」


 トーリはラジュールを道の端に連れて行くと、そこでナイフを少しだけ抜いて見せた。町中でむやみに刃物を抜いてはいけない、という決まりがあるためだ。


 トーリはラジュールのことをこの町で初めてできた友達だと考えており、いつもビシッと騎士服で決めたラジュールのことをなんて格好のいい人だろうと憧れているのだ。

 ラジュールも、裏表のない人懐こいトーリには良い印象を持っている。

 あと、リスが可愛い。

 会えば頭をそっと撫でるほど、リスが可愛い。

 ベルンも頼りになるしリスに優しいラジュールのことは気に入っているので、顔を合わせるたびに木の実をわけてあげるのだ。


「ほら、すごく綺麗なナイフでしょ? 日に透かすとわかりますが、なんと、半透明なんです。これはデスウィンドマンティスの鎌で作ったナイフで、風魔法を乗せると斬れ味も上がってしかも刃こぼれをしないという、大変な優れものなんですよ」


「ほほう、デスウィンドマンティスか。それはいい材料で作ったな」


「ベルンとふたりで森の奥まで行けるようになったから、たくさん狩れたんです。狩りすぎちゃってこんなには要らないって、鍛冶屋のガンジョーさんに言われちゃったんで、残りは冒険者ギルドに卸そうかなと思ってるんですけど、ラジュールさんは要りますか? あっ、もっといい剣を持っていそうですね」


「うむ、まあな」


「それでね、うちのベルンにもカマキリで片手剣を作ったんですよ。僕たち、お揃いなんです」


「す」


 リスがラジュールに、ちらりと片手剣の刃を見せた。


「リスに剣が使えるのか?」


「細めの丸太を一撃で斬り落としてました」


「……それは、すごい腕だ」


 リスは『まあね』と鼻の下を指でこすった。


「ラジュールさんもカマキリのナイフ、作りませんか? そうすると三人でお揃いになるんですけど」


「いや、ナイフは間に合っているな」


「やっぱり、すごいナイフを持ってるんですね!」


「トーリもダンジョンに行くようになると、すぐに素材を集めて作れるだろう。金を貯めて買うよりも素材を持ち込む方が早くできるし、価格も安くしてもらえる」


「わあ、楽しみだなあ!」


 にこにことご機嫌で話すトーリに、ラジュールは『この子どもは、冒険者になってまだそれほど経っていないはずなのに……ソロで森の奥に到達し、デスウィンドマンティスを多量に狩ることができるのか。末恐ろしいな』と思った。


 そして『俺とお揃いにしたいなどと言っているが……それは嬉しいことなのか? よくわからんが、変わったエルフだ』とも思っていた。


 真面目で堅物で腕っぷしが強い騎士ラジュールは、親しみやすい人物とは言えないので、割と他人に遠巻きにされがちなのだ。


「僕たちはこれから、新しい武器を試しに行って来ます」


「そうか。もうすぐに日が暮れるだろうから、あまり遠くまでは行くな」


「はい。子どもは遅くまで外にいちゃ駄目だって、門番さんに叱られちゃうんですよね」


「そうだな。冒険者ランクが上がったとしても、子どもが遅くまで働くのは好ましくない。それがここの領主の考え方なのだ」


「ミカーネン伯爵、でしたっけ。きちんとした立派な方だってお聞きしています」


「そうだな。俺も立派なしっかりした方だと思ってお仕えしているのだ」


「……やっぱり、貴族のお方も、なんというか、人によっていろいろなんですか?」


 トーリが小さな声で尋ねると、ラジュールは「俺の口から言うことはできないな。だが、俺がトーリならば、ミカーネン伯爵は縁を繋ぐのにふさわしい人物だと考えるだろう」と小声で答えた。


 トーリが笑顔を消して「なるほど……」と言ったので、ベルンも「す……」と重々しく言った。


「それじゃあ、僕たちは行きますね」


「気をつけて。早めに戻れよ」


「はーい」


「すー」


 そのままラジュールと別れると、トーリは町の外へ出て行った。

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