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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第86話 武器ができた

 そして、翌朝。


「おはようございます、ベルン。いい朝だね」


「す」


 ベッドに寝転がったまま挨拶をするひとりと一匹……いや、ふたりは、今朝も仲良しだ。


「僕はいつか旅に出るけれど、ベルンも森に戻らずについてきてくれますか?」


「す」


「そう言ってくれると思ってましたよ! 可愛い可愛い」


 トーリは手の上にリスを乗せると、嬉しそうに頬ずりをした。


「あのね、この世界は楽しいことばかりで、毎日が夢みたいなんですよ」


「す」


 リスはトーリの胸の上に座り、小首を傾げる。


「ほら、僕は前世で日本にいた時には、人は誰も関わってくれなかった……というか、僕の顔を見て逃げちゃったでしょう? あれね、もしかすると僕の性格が悪いせいなのかなって、時々思っていたんですよ。だって、顔が怖いだけであんなに嫌われるなんておかしな話でしょう」


「す……」


「でも、それは違ってました。すべては僕の顔に取り憑いていた変なもののせいだったんです、僕のせいじゃなかった。この世界に来たら、親切にしてくれる人がたくさんいるし、友達もできたし、素敵なリスの仲間もできました」


「す…」


 リスはちょっと照れた。


「僕自身が、ものすごく嫌な人じゃないってわかったから、安心したんです。あまり贅沢を言っちゃ駄目かなって思ったんですけど……この町にいれば、安定した収入もあるし、穏やかで平穏な暮らしができるとは思うんですけど、やっぱり冒険をしてみたいんです」


「す」


「ベルンはリスだから、危険な目に遭うかもしれない旅に出るのは嫌かなって思ったけど……来てくれると嬉しいです」


「す!」


 リスは『任せろ!』と胸を叩いて見せた。そして、トーリの顔に飛びついた。リスの柔らかくてモフモフしたおなかに顔をうずめ、あまりの可愛さに彼は身悶えた。


「ああ可愛い、可愛い、ベルン可愛いよベルン、好き好き大好きー」


「すー」


 朝からいちゃいちゃするエルフとリスであった。






「シーザーさん、おはようございます」


「すー」


 朝食を取り身支度を整えたふたりは、冒険者ギルドに行っていつものようにギルドマスターに挨拶をした。


「よお、トーリ。さっき伝言が貼られてたぞ」


「えっ、やった!」


 彼がいそいそと連絡用掲示板に向かう様子を、シーザーは微笑ましげに眺める。


「ギルマスがすげえ顔をしてるぜ」


「あれは悪そうな顔だなあ」


 こそこそと話す冒険者に向かって、シーザーは「うるせえぞ!」と怒鳴った。


「カマキリのナイフができたって。ベルン、行こう」


「す!」


 それは武器屋のガンジョーからのもので、注文していたデスウィンドマンティスの武器が出来上がったという連絡だった。楽しみに待っていたふたりはそのまま武器屋に向かった。




「こんにちはーっ、武器くださいなー」


「すー」


「そのまぬけなやつはよせ。ここはお菓子屋ではないぞ」


 武器屋の奥からドワーフのガンジョーが出てきた。手にトーリのハンティングナイフとベルンのちっちゃな片手剣を持っている。


「そら、これでどうだ」


「ありがとうございます!」


「す!」


 ふたりは嬉しそうに武器を手に取った。


「うわあ、すごいや! 半透明の緑色なんだ。風魔法が乗りやすいね」


「す、す」


「ちょっと日に透かしてみよう」


「す」


 ふたりは店の外に出ると、武器を空に掲げた。


「太陽が透けて見えるね。綺麗だね」


「すー」


「なんか宝石でできているみたい。強い武器ほど綺麗なのかもしれないね」


「す」


 ふたりは色ガラスを日に透かす子どものように刃を眺めて、しばらくわーいわーいと喜んでから店の中に戻ってきた。


「ガンジョーさん、とてもいい武器ですね!」


「す!」


 喜ぶふたりをみて、ガンジョーは「おいおい」と突っ込んだ。


「普通、新しい武器を手にしたら、試し斬りをして喜ぶもんなんだが、おまえらはやらんのか?」


「あっ」


「すっ」


 親切なガンジョーは、ふたりを店の裏手にある試し用のスペースに案内しながら「なんか調子が狂うんだよなあ」とぼやいた。


「重心を確認するために、ちょっとこの木を斬ってみろ」


 穴に細めの丸太を差し込んで、ガンジョーが言った。


「はい」


 トーリは肩にリスを乗せたまま、丸太の前でナイフを振るった。すると、すっぱりと斬られた丸太が落ちた。


「とても使いやすいです」


「そうか。断面も綺麗だし、きちんと魔力が乗っているな。で、リスの方は……」


 剣を手にしたベルンは肩からするするとおりると、半分になった細い丸太に剣を振るった。


「いきなりそんなやつは斬れんだろう。手を痛めるぞ……って、おおっ」


 なんと、こちらもすっぱりと斬れていた。それを見たガンジョーは、トーリに「おい、このリスは何者だ?」と尋ねた。


「ベルンは普通のリスです」


「普通のリスが、いくら剣の斬れ味がいいからといって、こんな木を斬れるわけないだろうが。さては訳アリなんだな。頭もいいようだし、神獣か魔獣が変身した姿なのか? それとも呪いにかかった人間とか?」


「いえ、本当に普通のリスなんですよ」


「こんな普通のリスがいるかよ! なんなら、教会に行ってスキルを調べてもらってきたらどうだ?」


「ベルンのスキル、ですか? あっ、そうだ」


 トーリが「僕が鑑定すればいいんじゃないですか?」と言うと、ガンジョーは「おまえは鑑定までできるのかよ!」とまた驚いた。


「できますよ。たまに冒険者ギルドで鑑定の依頼を受けています」


 冒険者ギルドの裏の方で、いわくありげなアイテムとか、使い方が今ひとつわからないアイテムなどを鑑定して、レポートなど書いている。けっこういい報酬がもらえるのだ。


「ベルンの鑑定をしてもいいかな?」


「す!」


 ベルンの許可が出たので、トーリは『神鑑定』をかけた。


種族 才能が豊かな普通のリス

名前 ベルン

賞罰 なし

加護 森の精霊ピペラリウム

特殊技術スキル 

 気配察知 気配遮断 忍び足 剣術 モフモフ いい匂い


「すごい! 才能が豊かな普通のリスだそうです。剣術のスキルも持ってます」


「す! す!」


「それは普通って言わねーよ!」

 

 ガンジョーの突っ込みは「ベルン、モフモフといい匂いの才能がありますよ」「す!」「ベルンの素敵なおなか、いい匂いがしますからねー」「す!」と盛りあがるふたりの耳には入らなかった。

 


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