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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第80話 トーリ流訓練法

 子どもたちで構成された冒険者パーティ『暁の道』の大躍進は、ミカーネンダンジョン都市の冒険者たちに刺激を与えた。


 中でも、彼らを教え導いたとして名を上げたのは、グレッグだ。

 最後にカタコブイノシシをけしかけるというドッキリ付きの初心者講習は大人気になり、初心に返って受け直したいという駆け出しの冒険者たちもたくさん現れた。


「シーザー、そんなに予定を詰め込まれても困るんだが。いったい俺は、いつになったらダンジョンに潜らせてもらえるんだよ」


 スケジュールのほとんどを新人の指導に占められてしまい、グレッグはギルドマスターに愚痴った。

 だが、普段から地道な訓練で冒険者たちの実力をつけて、死亡者を減らしたいと考えているシーザーは、機嫌のいいにやにや笑いを止められない。


「よお、天才教官のグレッグじゃねえか! 特別ボーナスを支給していいと、サブマスから許可が出たぜ、おめでとう」


「ありがとう。じゃなくて、腕がなまる前にダンジョンで一狩りしてきたいんだが」


「それじゃあ、一日くらい休みの日を設けるから、その日に行ってこい」


「なんで休みの日まで働かなきゃなんないの……」


 がっくりと肩を落とすグレッグ。しかし、弟子たちの活躍を喜んでいないわけではないのだ。


「グレッグの兄貴!」


「よう、マーキー。『暁の道』は順調に森を攻めているそうだな」


「はい! トーリがいなくても、森の中ほどまでなら無理なく入れるようになったんだぜ! じゃなくて、なりました」


「そうかそうか」


 グレッグに頭をぐりぐりと撫でられた。

 アルバートが礼儀正しく言う。


「グレッグ教官、僕たちはしばらくの間、森で力をつけていきたいと思っています。そして、ダンジョンに挑戦できるようになります。その時には、グレッグ教官にダンジョン講習をしてもらいたいんです」


「頼むよ兄貴! 俺としてはガンガン攻めていきたいんだけどさー、アルバートがさー、自分を過信した挙げ句に大怪我をして引退した冒険者がたくさんいるんだから、無理してもいいことないって言うんだぜー。ちょっとじじむさくない?」


「誰がじじむさいって?」


「ぐえっ」


 アルバートがギドを遠慮なくどついた。


「ギド、冒険者として上に行く奴はアルバートと同じ考えをする奴だぞ。冒険者なんて、死んだらそこで終了だからな」


 グレッグは『もしかすると、あまり怪我もなくやって来たから、こいつらは魔物の恐ろしさを体感していないんじゃないか?』と眉をひそめた。


「ギド、うちのパーティのモットーは『長く活躍する冒険者』でしょ? 突撃して体当たりしたいなら、またトーリに『勝ち抜きハード訓練』をしてもらうといいよ」


 ジェシカがそう言うと、ギドは明らかに顔色を悪くして「い、いや、あれはさー、もうやりたくないかなー」と汗を流した。


「なんだそりゃ? 聞いたことがない訓練だな」


「グレッグ教官、トーリにしかできない特別な訓練なんです」


 ジェシカが真面目な顔をして、グレッグに説明をした。


「トーリが引いてくる魔物を、ソロでひたすら倒していくんですよ。疲れてくるとけっこうな怪我をするんですけど、トーリがアクアヒールを投げてくれるから命に別状はないし、ドクヒョウの毒攻撃も傷口が焼け爛れてすごい激痛に襲われるけど、これもトーリが浄化すればすぐに治るし……ってことで、倒れるまで魔物をヤり続ける、効果があるけど心身ともにハードな訓練なんです。ね、ギド?」


「俺、アレ嫌い。確かに強くはなるけど、口から魂が何度も飛び出ちゃうんだぜ! もうやだよ」


 ギドはジェシカに向かって口を尖らせる。

 グレッグは『こいつら、想像以上に無茶なことしてやがった!』と口元をひくひくさせた。


「トーリがすっげえ笑顔で『わあ、これはざっくりいってるねー、アクアヒール! はい、治ったから次の魔物行くよ、二匹にしちゃおっと』なーんてこと言うんだぜ! そりゃあもう楽しそうに治すんだ。いや、確かに、治してもらって文句を言うのは間違ってるけどさ、もう少し気の毒そうにとか、楽しそうじゃないやつにして欲しいんだよな!」


「トーリは、たくさん回復魔法が使えるから嬉しいんだよ。怪我人がいないと訓練できないもんね、気持ちはわかるな」


「わかるなよジェシカ!」


「ギドが無茶してでも強くなりたいって言うから、トーリがいい方法を考えて付き合ってくれたんでしょ。まだガンガン攻めていきたいなら、その気持ちを落ち着かせるためにギドだけまたやってもらいなよ」


「いや、もういいですよジェシカさん。俺は落ち着いて安全に狩りをする男、棍棒のギドですからっ」


 はははと乾いた笑いを漏らすギド。


「なになに、ギドはまたハード訓練やりたいの? 僕、あれ楽しいな」


 トーリがひょいと顔を出すと、ギドは「ぎゃーっ、出たーっ!」と悲鳴をあげて走り去ってしまった。よほど辛い思いをしたらしい。


 マーキーが「トーリ、あんまりギドをいじめてくれるなよ」と言ったが、本人は「えー、全然いじめてないよ。やり甲斐がある訓練だから、また試してみない?」と笑顔でマーキーを地獄に誘うのであった。

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