表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

77/244

第76話 招かざる……

「驚いたぜ、本物の『烈風の斬撃』だった」


「やっぱ、カッケーな! マジ、カッケーな!」


 マーキーとギドは顔を赤くして、小さな声でそんなことを言いながら銀の鹿亭をあとにした。


 ちょっとそこまで送ると言うトーリに「質問とかしなくていいの?」と聞かれたが「レベルが違いすぎて、なにを聞けばいいのかわかんねーし」「会えただけで嬉しいぜ」と下を向いた。


「ふたりとも意外だな。もっと積極的に……たとえば、稽古をつけてくれたか頼むのかと思っていたよ」


「うえっ、そんなだいそれたことはできねえって」


 ギドが照れながら頭をかいたので、トーリはおかしそうに笑った。


「じゃあね。また一緒に狩りに行こうよ。予定がわかったら、ギルドに伝言をしておいて」


「わかった」


 アルバートに言われたトーリは頷く。


「そうか、マーキーが銀の鹿亭に来たら、連絡するのも簡単になるよ。いつ頃来るの?」


「二人部屋なら空いているらしいんだけど……ギドはどうするんだ? もう来るなら、一緒の部屋に入れるけど」


「おう、それなら俺もこっちに移らせてもらうぜ。今は懐があったかいしな」


「俺たち、だいぶ狩れるようになったよな」


「トーリのおかげだよね」


 ジェシカが笑顔で「ありがとね」と言ったので、マーキーとギドとアルバートも「ありがとな」とお礼を言い、トーリは「違うよ、みんなが努力したからだよ! でも、そんな風に言ってもらえると嬉しい」と笑った。


「そうだ、ふたりがこっちに泊まるようになったら『烈風の斬撃』と毎日会えるね」とにこにこしたら、マーキーもギドも嬉しそうな顔をした。そして「トーリに会えるのも嬉しいんだぞ」「そうそう、よろしくな」と言われてしまい、今度はトーリが顔を赤くしたのであった。




 マーキーとギドは翌日、銀の鹿亭に移ってきた。

 彼らはジョナサンと奥さんに挨拶をし、ロナに「マーキーお兄ちゃん、ギドお兄ちゃん、いらっしゃいませです」と歓迎されて、「よろしくなー」と言いながらロナの頭を撫でた。

 ロナは、お兄ちゃんが増えてご機嫌だ。


「す!」


「おう、ベルンもよろしく頼むぜ」


 リスは偉そうにサムズアップをした。どうやら子分がやって来たと考えているらしい。


 その晩、トーリは先に軽く食事をしてから治療院の夜勤に出かけた。これを無事に終えると、ようやく見習いではなくなる。

 そして、朝に戻って来ると、鍛錬のために早起きをしていたマーキーとトーリと共に朝食をとることになった。


「お疲れさん。眠くない?」


 マーキーに声をかけられて、トーリは答えた。


「順番に仮眠を取ったから、なんとか。朝ごはんを食べたら昼まで眠るつもり。ふたりは眠れた?」


「ぐっすりだぜ! この宿はいいな。寝具もちゃんとしてるし清潔だ」


「うん。なによりごはんが美味しくていいわー」


「ギドはそこが大事だね。あ、ジョナサンさん、ありがとうございます」


「おう、たんと食えよ」


 同じテーブルで運ばれて来た朝食を取りながら、トーリがマーキーに「で、マーキーのおじさんは大丈夫だった?」と尋ねた。

 ギドは食事に夢中で話を聞いていないようだ。


「すごくうるさかった。『どこに金を隠してたんだ、全部出しやがれ』なんてことを叫んでたけど、とっとと出てきたわ」


 マーキーはカラカラ笑った。


「この町にいて、銀の鹿亭のジョナサンさんのことを知らないやつはいないからな。この宿には近寄らないだろう。行き帰りに気をつけておけば大丈夫だと思う」


「そっか。あのおじさんは、どのくらいの腕の持ち主なのかな? いきなり剣を抜いて襲いかかられたら危険だから、ひとりでいないようにしてね」


 そこまではしないと思いたいけれど……と心の中で考えるが、この世界の常識は日本とは違う。


「ああ、わかった。外にいる時は油断しないようにするぜ。たぶん、ソロで草原の真ん中程度の腕だと思うけど」


「ちゃんと仕事してないのかな」


「ちょっとはしてるけど、自分で働くよりも俺から巻き上げたいと考えてるのが丸わかりだ。ああいう冒険者にはなりたくないな」


 マーキーは真面目な顔で言ってから、パンをわしわし食べた。




 そして数日後。

 トーリはパーティ『あかつきの道』を結成したマーキーたちとまた一緒に狩りをすることになった。


「今日は、ドクヒョウと戦ってみようよ。二匹か三匹、僕が釣ってくるから、ジェシカは可能なら最初に数を減らして」


 ドクヒョウを倒せるかどうかで、森での狩りができるか否かが決まってくる。


「了解! 『追撃の火矢』を使えるようになったから、さっそく試してみるよ」


 真面目なジェシカは、火魔法に風魔法を合わせる訓練を根気よく続けて、とうとう獲物を追撃する火を出せるようになったのだ。


「連射もできるの?」


 トーリが尋ねた。


「『追撃』は一度しか打てないけど、追撃と火の玉は連続で撃てるよ」


「すげえなあ、火力を上げてきたな」


 ギドが感心して言った。


「それじゃあ、今日はまず、カマネズミの群れでジェシカの練度を上げていこう。安定したら、ドクヒョウ狩りだ」


「おう!」


「よっしゃ!」


 アルバートは相変わらずこのパーティの頭脳役らしい。マーキーとギドも素直に従っている。


 五人は草原の奥まで走って進むと、カマネズミの群れを見つけて足音を消した。彼らは気配を感知する力も、魔物に見つからないコツも、確実に身につけてきている。


「ジェシカ、やってみて」

「うん。火魔法、中央に行くよ。『追撃!』『ファイア!』」


 ジェシカは魔法を二発、綺麗に打ち込んだ。不意を突かれたカマネズミを、火矢で一匹、威力が増した火の玉で二匹倒した。


「弓行くよ、右手」


 トーリはエルフの弓を構えると魔法の矢を連射して、三匹のカマネズミを倒した。

 残りのカマネズミは六匹。マーキー、ギド、アルバートの三人が危なげなく倒す。


「うん、余裕があるね」


「ジェシカはどう?」


「問題なくできるよ」


 彼らはそれぞれのナイフで魔石をほじくり出した。魔石を失ったネズミの身体は、跡形もなく消えていく。

 と、その時。

 トーリは町の方角から敵意を感知した。


「す」


 リスのベルンも気がついたようだ。小さな指で町の方向をさしている。


(魔物じゃないですね。これは……)


 彼はエルフの特性で、とても目がいい。『鷹の目』というスキルらしい。

 立ち上がった彼の目に映ったのは、マーキーの困ったおじさんが、片手剣を抜いてこちらに向かってくる姿であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ