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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第74話 打ち上げ

「ただいまー」


「トーリお兄ちゃん、お帰りなさいです」


 銀の鹿亭の看板幼女のお迎えで心が和む。


「ただいま、ロナちゃん」


 くりくりくり。頭を撫でるのまでが決まりである。リスもロナの肩に飛び乗ると、ほっぺたをちっちゃな手で撫でる。


「す」


「えへへ、ベルンちゃんの手、可愛いね」


「すー」


 可愛いと言われて機嫌のいいリスが、トーリの肩に戻って来た。

 男の子たちは恥ずかしいのかなにも言わないが、ジェシカは「なにそれ、すっごく可愛い! ロナちゃんもベルンちゃんも可愛すぎて辛い!」と杖をつかんで身悶えた。


「トーリ、よく息していられるね!」


「大丈夫? ちゃんと息してね? 死んだら僕のアクアヒールでも治せないからね」


「ちょっと胸が苦しいかも」


「アクアヒール!」


「ふう、危なかったよ……」


 ジェシカは死なずに済んだらしい。


「おっ、今日も早いな。お疲れさん」


 賑やかな声を聞いて、厨房から宿屋の主人が出てきた。


「子どもは早く戻ってこないと、門番さんに怒られちゃうんです。ジョナサンさん、今夜は友達も連れて来たんでよろしくお願いします」


「よろしくお願いします!」


 子どもたちは声を揃えて主人に挨拶をする。

 彼らはトーリのコミュニケーション方法を見て、きちんとした振る舞いをすると大人に信用されるし、可愛がられることを学んだ。さっそくそれを生かして暮らしているのだ。


 子どもが冒険者になるのは大変なことだ。しかも彼らは採取専門でなく、狩りをする一端の戦士ファイターとして、である。苦労を乗り越えて実力をつけ、ミカーネンダンジョン都市を目指してやって来ただけあって、彼らは年齢よりもしっかりしている。


「今日もいっぱい狩れたのか?」


 元冒険者のジョナサンのことを尊敬している子どもたちは、そう尋ねられて「うん、今日はね、初めてバッファローバードを狩ったんだ!」「すごく大きかったんです。あんな大きな鳥、見たの初めて」「でもさ、飛べないんだぜ! 脚をぶん殴ったらコケてた」「ドクヒョウは来なかったからよかったんだ。毒消しを持ってても怖いから」と子どもらしい素の姿でぴよぴよ話すものだから、可愛く思ったジョナサンは笑いながら「おお、そうかそうか。大物も倒せるなんてすごいじゃねえか、その調子でがんばれよ」と全員の頭を大きな手でぐりぐり撫で回した。


「今夜は美味い飯をたらふく食っていけよ。お勧め定食でいいのか?」


「はい!」


 お勧め定食はボリュームがあるし美味しくてお得なので、子どもたちは全員でそれを頼む。


 おなかがぺこぺこの子どもたちを座らせると、ジョナサンは厨房に戻って行った。


「ジョナサンさんは、Cランクの冒険者だったらしいよ」


 トーリがロナから得た情報を披露すると、子どもたちは「C! パーティを組んだら、ダンジョンのかなり奥まで潜れるんじゃねえか! すげえなあ……」「あれだけガタイがいいから、きっとすごい攻撃力なんだよ。武器はなんなの? やっぱり大剣かな?」「素手かもしんねえぞ! 身体強化を極めた拳闘士の拳は武器を持つよりも破壊力があるって聞いたぜ」「ええと、包丁かもしれないよ」「巨大な包丁を持って魔物を追いかけるのか……うん、なんか納得」と言いたい放題で盛り上がっている。


 そうこうしているうちに「エールを一杯くらい飲むか?」と、返事も聞かずにエールを五杯、持ってくる。この世界では、小さい子どもも薄めたエールを飲むし、アルコールへの耐性もあるから十歳くらいから普通にエールを飲む。

 トーリが一番酒に弱いのだ。


「二杯目からは水を飲めよ」


 銀の鹿亭で酷く酔っ払うことは許さないジョナサンが、子どもたちに釘を刺した。


「はい」


 さっそく乾杯しようとするところを、トーリが「待って、今冷やすから」と止めて、生活魔法の応用でそれぞれのエールを飲み頃に冷やす。


「冷たい方が絶対美味しいからね」


「おまえは便利なやつだなあ。なんでもできるんだな」


「なんでもじゃないけどね。いろいろできると楽しいから、練習してるんだ」


「さ、のものも。かんぱーい!」


「かんぱーい!」


 子どもたちはエールを飲んで「うまーい!」と叫んだ。




 今夜の定食は、じゃがいもやレンコンやごぼうなどの根菜とキノコがたっぷり入ったバッファローバードのシチューに、マッドブルピッグという豚と牛の間のような魔物のステーキだった。玉ねぎやニンニクが効いたスパイシーな味付けで、噛むと肉汁が溢れ出す旨味の強い肉は、分厚いのにいくらでも食べられてしまう。


「く、食い過ぎたー」


「おなかいっぱいで幸せ」


「すごい美味しかった!」


「俺、ここんちの子になる」


「ギドは食いしん坊だなあ、でも気持ちはわかるよ」


 マーキー、ジェシカ、アルバート、ギド、トーリは満足そうなため息をつく。


「こういう美味しいものを食べると、仕事をがんばろうって気持ちになるよね」


「嬢ちゃんはいい子だなあ」


 ジョナサンが、果物の盛り合わせを持ってきて「ほら、こいつも食っとけ」と勧めた。


「サービスだ。他のやつには内緒だぞ」


 いつもトーリに果物をもらうので、お返ししてくれるようだ。見慣れたアプラやリバンバンの他に、オレンジのような果物もある。


「これは初めて見ました。なんですか?」


「ラージェという、ダンジョン産の果物だ」


「ダンジョンで果物も取れるんですか!」


 トーリは驚いた。ジョナサンは「年に数回、特別室ってやつがダンジョンの中にできるんだ。そこで魔物を倒すとどういうわけか種が採れてな、そいつを畑に撒くと、いろんな食べられる植物が育つんだぞ」と説明してくれた。


「種は、どういうわけかそのダンジョンから離れた土地では育たなくなる。というわけで、自然とその土地の名産になる。こんな感じでダンジョンがある領地は栄えていくのさ」


 ミカーネンのラージェは味が濃くて甘味も強く、生で食べてもジャムにしても美味しい素晴らしい果物であった。

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