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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第73話 困ったおじさん

「まあ、いや。飯食いに行こうぜ……」


 マーキーが途中で口をつぐんだので。みんなでいぶかしげに彼を見る。リスも見る。


「おお、マーキー。今日の狩りが終わったんだな」


 にこやかに近づいてきた中年の男に、マーキーは力なく「はい、おじさん」と答えた。


「どれくらい狩れたんだ?」


「草原の半ばで、ウサギとネズミをたくさん狩れました」


「そうか。駆け出しのGランクでよくやっているな。ちょっと財布を見せてみろ。ほら!」


 マーキーは、渋々といった様子で財布を出して、男に渡した。


「……ふふん、子どもがあまりお金を持っていると危険だからな。そら、銅貨は残しておいてやる」


「おじさん、回復薬や解毒剤も必要なんですよ! せめて銀貨を残してください!」


「そんなの、薬草でもかじっておけ。ネズミくらいならたいした怪我もしないだろうが」


「でも……」


「あんまりうるさいことを言ってると、出て行ってもらうぞ? あん?」


「……すみませんでした」


「わかりゃあいいんだよ」


 男はマーキーに財布を投げつけると、ぶらぶらと歩いていった。その後ろ姿を見送るマーキーの肩が震えている。


「マーキー、大丈夫?」


「……くっ」


「泣いてるの?」


 心配するトーリの顔を見て、マーキーは「いや、笑ってる」とサムズアップした。


「大丈夫。あいつ、馬鹿だろ。俺がまだネズミで手こずっているって思い込んでるんだぜ」


「そうみたいだね。で、どうなってるの?」


「あいつは、叔母さんの旦那の弟っていう親戚なんだけどさ、村から俺をこの町に連れてきた。もちろん、金を取ってな。自称冒険者なんだけど、今までもなんだかんだ言って人から小金を巻き上げて暮らしていたみたいなんだ。このダンジョン都市に、愛人と子どもを住まわしてて、俺はそこんちの屋根裏部屋で暮らしてる。だけど、もうあいつらとは縁を切ろうと思ってるぜ」


 マーキーはくっくっと笑いながら「ギルマスに頼んで、俺のギルド口座にはお金が入ってないって言ってもらってるから、あいつ、俺には金がないと思ってるんだけどさ。そろそろ銀の鹿亭に移ろうかと思うんだ」と言った。


「ええと、つまり、マーキーの稼ぎを搾取する悪いおじさんってことなの?」


「そういうこと」


 アルバートが「なるほどね」と頷いた。


「パーティ費ってことで僕にお金を預けてたのも、あの人に取られないための措置なんだね」


「そういうことさ」


 ジェシカも「リスクの分散ね。賢い手だわ」と笑った。そして「す?」と首を傾げるベルンに「リスじゃなくて、リスク、だよ。財布を渡して全財産だと思わせて、お金を他の場所に分けて隠してるの」と説明した。


「すー」


 ベルンも、よく場所を分けて木の実を隠しているので、マーキーに『それは賢いな』と言うようにサムズアップする。


「あいつ、はなから俺のことをガキだと馬鹿にしてるからな、稼いでいることが全然バレないんだぜ」


「おじさんも冒険者なんでしょ?」


「うん。でも、たいしたことない奴だ。俺から取り上げる大銀貨数枚で儲かったと思って、まったく冒険者の仕事をしてないし、ギルマスに聞いたら『ありゃ駄目な大人だから、さっさと縁を切れ』って言われたよ」


「そっかー」


「子どもがひとりで旅をするのは難しいから、ここまで来るのには助かったからな。まあ、これ以上いいようにはされないつもり。パーティを結成すると名前が知れるだろうけど、その時は手出しできないように強くなってるぜ」


「マーキーは熱心に鍛錬してるからな、あんな奴はもう叩きのめせるんしゃねー?」


「ギド、相手は大人だからね? 身体も大きいし、油断すると危ないから、焚きつけちゃ駄目だよ」


 アルバートが諌めた。


「そのうち、森で狩れるようになったら、パーティで家を借りる? 冒険者だと割引があるから、Fランクくらいで借りてる人が多いって聞いたよ」


 ジェシカが言ったので、トーリも「森にはお金になる魔物が多いからね、いいんじゃない?」と同意した。


「トーリもどう?」


「もちろん、一緒に住むだろ?」


 誘われて、トーリは「うーん……」と返事を濁した。


「実は僕、力がついたらこの町を出て旅をしてみようかと思ってるんだ」


「ええっ、そうなの?」


「うん。この世界のいろいろな場所を回ってみたいんだ。だけど、家を借りたらお泊りはしてみたい! いい?」


「もちろんいいよ」


「そうしたらさ、美味しいお土産を買ってこいよ。その土地の名物とかさー」


「ギドは食いしん坊だね」


「食べられる時に食べておかなきゃ、なにがあるかわかんないじゃんかー」


「それは一理あるな」


「今夜の夕飯も楽しみだね、絶対美味しいもん」


「あ」


 トーリが突然立ち止まったので、子どもたちは「どうしたの?」と一緒に立ち止まる。


「言い忘れてたけどさ、銀の鹿亭に『烈風の斬撃』が泊まってるよ。会いたいって言ってたよね?」


「……ええっ? ええーっ!」


「マジかよ! 本当の『烈風の斬撃』がいるのか! ひょーっ!」


「聞いてねーよーって、言ってねーもんな、あははは」


「わあ、すごい偶然だね。やっぱりいい宿だからかな? 女の人もいるんだよね」


 アルバート、マーキー、ギド、ジェシカがわいわい騒ぐ。


「でね、イザベルさんって人がいるんだけど……この人、いい人なんだけどね、なんか、同じエルフってことで親切にしてくれて……ちょっと過剰に親切だけど、気にしないでね」


「す」


「え? 親切ならいいじゃん?」


「別に、よくない?」


「気にしないでね!」


「す!」


 トーリとリスに強く念を押されて、子どもたちはよくわからないながらも「う、うん、わかったよ、気にしない」と約束したのだった。

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