第71話 順調な狩り
トーリが釣ってきたバッファローバードとマッドボアを、マーキー、ギド、アルバート、ジェシカは危なげなく倒していった。
午前中だけでも『こんなに稼いでいいのだろうか』と思うくらいに狩り、早めの昼食を取ることにする。
「予想以上に順調だね。ってことは、もっと強い魔物を目標にしてもいいのかな。みんな着実に腕が上がってるよ」
草原の中程に戻ってきて火を起こし、魔物除けの玉を使ったので、彼らは座って軽く食事をした。
ここならミツメウサギとカマネズミとスライムしかいないので、魔物除けの玉を火にくべておけばかなり安全なのだ。そして、トーリの頭の上には頼りになる見張りこと、リスのベルンが立っている。
「この五人でなら、森に入ってもいけるかな?」
肉を挟んだパンをかじりながら、トーリが言った。
「浅い所ならそんなに木が生えてないし、足元もそれほど悪くないよ」
「うーん、トーリがいるならギリありかな。でも、抜きだと難しいから、僕たちの強さに合った狩り場とは言えないかもね。やっぱり木があると動きが制限されるし、ジェシカの火魔法は延焼しないけれど、障害物に当たると消えちゃうよね」
「うん、木に当たったら駄目だから、草原以上のコントロール力か、追尾のスキルを身につけなくちゃって思うよ。それに、魔物が隠れるところが増えるから、気配察知力をあげないと危険だと思う。本当に入り口くらいなら大丈夫かも」
アルバートとジェシカが冷静に判断する。
調子に乗ったパーティが背伸びをして再起不能になったり全滅したり、という例をたくさん知っているので、子どもたちは慎重だ。トーリは『やはり、命がかかった戦いを小さな頃からやっているから、考え方がしっかりしていますね』と感心した。
「俺の防具も、森に入るならもっといいやつにしたいしなー。俺、大盾を持とうかと思うんだ」
ギドは足腰がしっかりした粘り強い攻撃をするので、パーティの盾役に向いているようだ。
「じゃあさ、一度森の浅い所にバッファローバードを連れてきてもらって試さねえか? やばかったら草原に引っ張って倒せばいいじゃんか」
マーキーが言った。
「いい案だと思うよ。じゃあ、午後はそれで行こう。ドクヒョウだけは警戒しようね」
「解毒薬をすぐに使えるように準備して進もう」
昼食を終えて森の近くに戻った子どもたちは、幸いドクヒョウに遭遇することもなく森の中での戦闘経験を積んだのだった。
町に戻ったトーリたちは、さっそく買い取り所の第二受付に行った。ここは大物や多量の魔物を引き取ってもらう場所なので、子どもばかりのパーティは目立っている。Gランクやマジカバンを持たない冒険者は多く、その羨ましそうな視線が彼らに向けられていた。
「こんにちは。引き取りをお願いします」
「こんにちは、トーリさん」
顔馴染みの職員が台車を用意してくれたのだが、トーリが「今日は大物がほとんどなんです。バッファローバードとマッドボアなんですけど」と話すと「それでは、直接奥に持ってきてください」と中に通された。
「こちらに出してください」
トーリは指定されたテーブルに次々に魔物を出していき、職員に査定してもらう。カマネズミの魔石とウサギもケースに入れた。
「状態がいいし、人気の魔物なので良い値がつきますよ」
なんと、総額で金貨二百枚超えになったので、子どもたちは大喜びだ。ギルドカードに入れてもらって、さっそく銀の鹿亭での打ち上げに向かうことにする。
トーリは手早く、全員の身体に浄化をかけた。生活魔法は使えば使うほど上達するので、今は上半身と下半身に一回ずつで済むようになっている。
もちろん、可愛いリスにもかけて、いい匂いになってもらった。
「マジカバンが買えそうだね」
「まずはマジカバンだな。明日買いに行こう」
「よし、買ったらパーティ登録もしようぜ」
「カッコいいパーティ名を考えてこなくちゃね」
ようやく正式にパーティ結成できそうだ。
「僕も、借金が少し減らせるよ……」
トーリも満足そうにため息をついた。
「なんの借金?」
「この服だよ。言ってなかったっけ? 特殊効果がたくさん付与されてるから、すごく高かったんだ」
皆はフリル付きのブラウスやおしゃれな紫色の刺繍入りベストを見て「え? それっておしゃれ服じゃなかったの?」「トーリは普段着のまま狩りに行ってるんだと思っていたよ」と驚いた顔をする。
「エルフのファッションへのこだわりはすごいんだなって感心していたんだよ? なんか、王子様みたいでカッコいいし」
ジェシカにそう言われたトーリは、尖った耳を赤くして「違うんだよ、フリルも刺繍も付与魔法のためにつけられてるんだよ、これは仕方がないんだ」と言い訳をした。
「そんなに変かな?」
「いや、全然変じゃないよ。似合ってるし」
「まあ、ギドが着てたら大丈夫か? って思うだろうけどさ、トーリなら納得かな」
「いいんじゃねえの、確かに俺なら着ないけどさ」
皆は心の中で『変わり者のエルフだからだと思っててごめん!』と思いながら慰めたのだった。
「おい、おまえら。ちょっと待てや」
「今日も景気が良さそうだな」
楽しく会話をしていると、道の前方を塞がれた。冒険者ギルドでたまに見かけるパーティのメンバーだ。彼らはなかなかGランクから上がれないようで、ずっと草原の中程で狩りをしている。
「なにか用ですか」
アルバートが対応したが、五人の若い男たちは「そのエルフに用事があるんだ。おまえらは消えてろよ」とにやにや笑った。




