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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第70話 森の魔物と戦う

「森の近くまでは走って行こうぜ」


 マーキーが言うと、ギドも元気に「おう!」と同意した。


「トーリが容量の大きなマジカバンを持ってるから今回はいいけど、持てる獲物には限りがあるから油断したらいけないね」


「うん、なるべくお金になりそうな魔物を狙う習慣をつけていこう」


 マーキーたちは、正式なパーティになると決めている。力を合わせて資金を貯めて小さなマジカバンを購入するのが今の目標なのだ。


 子どもたちは、身体強化をかけながら軽くランニングをして、草原を奥へと進んだ。この辺りはウサギやスライムなどの弱い魔物が一匹で現れるので、避けながら走る。


 トーリは、みんなにアドバイスをした。


「こういう時にも気配感知を心がけると、早く技術が身につくよ。と言っても、この辺は見晴らしがいいからなあ……」 


「草むらが増えてくる、あのあたりからやってみるよ」


 トーリの勘の良さや斥候としての適性を知っているので、アルバートとジェシカは積極的に取り入れようとするのだが、腕力で勝負をしたいマーキーとギドは面倒がってすぐに飽きてしまう。

 だが、トーリに「先制攻撃ができると、華やかでカッコいいよね」と乗せられて、彼らもやる気を出すのであった。


「トーリはやっぱりパーティに入らないの?」


「僕は狩りの他にもやりたいことがあるから」


 トーリもパーティ加入を誘われているのだが、治療院での修業や鑑定魔法を使っての活動、そしてこの世界についての知識を身につけることなど、やろうと考えることがたくさんあって足並みを揃えることができないのだ。


「でも、僕もダンジョンに潜れるようになるのが目標のひとつだから、たまにこうして一緒に活動してもらえると嬉しいな」


「もちろんだぜ!」


 マーキーに「俺たちは友達だしな!」と背中を叩かれて、トーリは少し照れながら「うん、友達だしね」と答えた。


「あのね、今日の夜、銀の鹿亭でごはんにしない?」


 トーリは『今日の稼ぎでみんな懐があたたかくなるはず』と考えて、打ち上げに誘った。


「おっ、いいね! あの宿のごはんは美味いんだよなー」


 食いしん坊のギドはもちろん、みんなの賛成をもらったので、打ち上げの場所が決定した。あとの楽しみがあるとなると、狩りも余計にがんばれるのだ。


 気配感知の練習をしながら、一行は森の近くに着いた。途中でギドが「先制攻撃ーっ!」と何度もウサギの群れに飛びかかったので、マジカバンにはすでにたくさんの獲物が入っている。ネズミの方はいつものように魔石だけ取り出してある。


「じゃあ、さっそく森から魔物を連れてくるよ」


「頼む」


「気をつけて」


 トーリは頷くと、背中にリスを隠して森に入って木に登った。そして、音もなく木から木へと飛び移りながら、魔物を探した。


(ええと、バッファローバードかマッドボア……あれはカタコブイノシシだからやめて……いましたね)


 さほど奥まで行かない場所で、一羽で行動するバッファローバードを見つけた。


 トーリは木から降りると弓をかまえて、バッファローバードの胸に軽めの一矢を当てた。姿を見せるように気をつけたので、牛の頭がついた鳥はすぐにトーリの方に向かって駆けてきた。


「よしよし、こっちですよー」


 他の魔物を引っ掛けないように気をつけながら、地面を走ったり木の枝を渡ったりして、怒るバッファローバードを森の外へと誘導していく。


 この巨大な鳥は身体が重くて飛ぶことはできないが、強い下半身を持つのでジャンプからの蹴り攻撃をしてくる。だが、トーリはこまめに方向転換することで、バッファローバードが跳ぶタイミングを崩すようにして、それが余計に魔物の苛立いらだちをつのらせていた。


 身体にまとわりつく小枝や葉っぱを払う余裕も与えずに、トーリは鳥の魔物を森の外まで連れ出した。


「来たよ!」


「火魔法!」


 ジェシカの声を聞いたトーリは真横に飛び退いて地面を転がった。


「ファイア!」


 風魔法で充分な酸素を送り込まれて、暗い赤から明るい黄色へと色を変えた火の玉がバッファローバードの顔面に襲いかかった。

 叫び声をあげた魔物は、目を焼かれたためその場に止まり、敵の気配を感じ取ろうとした。だが、着弾と同時に飛び出したギドが鳥の脚を狙う。


「せいっ!」


 全力で殴られた鳥の右脚が砕けた。左側の脚の付け根に、アルバートの槍が刺さる。


「雷撃斬!」


 肉の焼ける臭いがして、バッファローバードは倒れた。

 その首に剣が迫る。


「だァァァァーッ!」


「火魔法!」


 マーキーの片手剣が、魔物の喉笛を切り裂いた。そして、マーキーがそのまま前方に回転しながら距離を取ると、その傷口に火の玉がぶち込まれた。


 大きな爆発音がして、鳥の首は折れ、そのまま魔物は動かなくなった。


「やったか?」


「カバンにしまうね」


 トーリが用心しながらバッファローバードに触れると姿が消えた。マジカバンに収納されたのだ。生きた魔物は入れられないので、こうするととどめを刺したかどうかがわかるのだ。


「やったー! 大物だぜ!」


 みんなは大喜びする。


「全然余裕だったよな」


「危なげなく倒せたね。僕の出番はなかったよ」


「トーリが森からおびき出してくれたからだよ、本当に助かる」


「うん、まだ僕たちは森での戦闘は難しいからね」


「森の魔物を倒せるのは美味しいぜ!」


「食べても美味しい、食いたいぜ!」


「ギドー」


 何度かパーティで狩りをしているので、連携もばっちりだ。ギドの食欲もばっちりだ。


「じゃあ、次のも連れてくるね」


「おう、よろしく!」


 トーリは森に入ると、新たな獲物を求めて木の上を忍者のように飛び移った。


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