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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第69話 今日の目当ては

「おはよう、トーリ」


「おはよう」


 アルバートとジェシカがやって来た。

 アルバートは真面目な性格で、時間にもうるさそうだ。ジェシカは彼と同じ村の出身で同じ宿に泊まっている。しっかり者のジェシカと真面目なアルバートはウマが合うようだ。


「おはよう、アルバート、ジェシカ。今日の予定は決めてる?」


「そうだね、少し強い魔物にチャレンジしてもいいかなって思うよ」 


「わたしも」


 トーリは頷く。


「やっぱり? 僕もそう思ってたんだ。みんな戦闘に慣れてきているし、ジェシカは前回、風と火の複合攻撃も試してたよね?」


 トーリとマーキー、ギド、アルバート、ジェシカの五人は、共に初心者講習を受けた縁で何度かパーティとして狩りを行っていた。


 草原での狩りが安定したところでシーザーから「おまえらはもう、見習いじゃなくてGランクな」と正式な冒険者として認められている。

 トーリだけは「悪いが、治療院の手伝いに関しては、もうちょい見習いだな」と言われているが、こちらもひとりでの治療を五回行ってレポートを提出するという条件で、近々『見習い』の冠が取れそうである。

 治療師として一人前になるにはいろいろな課題をクリアしなければならないのだが、トーリは以前、木の実屋の妻であるアリスを回復魔法と上級回復薬を用いて治療したという経験が認められたので、他の治療師見習いの者よりも早く正式なGランクになれそうだ。


「この前は複合攻撃の成功率が低かったけど、今日はかなり練度を上げてきたんだよ。使う魔力量も減ってきているから、魔物にバンバン撃ち込みたいな」


 ジェシカは誇らしそうに言った。冒険者ギルドにある練習場で鍛錬して、風で酸素を送り込み火の玉のエネルギーを増大させて、火力攻撃の威力を上げてきたらしい。

 もちろん、体内の魔力量も日に日に増えてきている。


「すごいね、ジェシカ。僕もがんばらなくちゃ」


 にこにこしながら言うトーリに、ジェシカは「そんなこと言って、ひとりで森に入って魔物を引っ張って来られるトーリにはかなわないよ」と肩をすくめた。


「気配察知、上げてるんでしょ?」


「うん。たぶん、隠密とか潜伏とかそっちの能力も伸びてると思うよ」


「前衛も後衛も斥候もできるのか! 安定してソロ狩りができるっていうのもトーリの強みだよね」


 アルバートも感心して言った。


「ダンジョンに入ったら、罠の看破とか得意になりそうだね」


「エルフは森とかダンジョンに向いてるかもね。でも、アルバートだって、雷を乗せた槍の攻撃力がかなり増しているし、頭がいいからダンジョンの迷路に強そうだよ。方向感覚がエルフ並みに優れているしね」


「うん、とっさの判断ができる頼れるタイプだもん。アルバートは冷静に魔物の弱点を突くから、安心してとどめを任せられるよ」


 トーリとジェシカに言われて、アルバートは嬉しそうに「えへへ」と笑った。


「よお、みんな早いな」


「おはおはー」


 マーキーとギドも、ちゃんと鐘が鳴る前にやってきた。こういう約束事が守れないようだと、パーティを組んでくれる人がいなくなるのだ。


「おはよう。一応今日の目当てを考えてきたんだけど、聞く?」


「おう、頼むわ」


「トーリのそういうところがすげえな」


「す」


 頭の上に乗ってギルド内を見張っていたリスが、さりげなく胸を張った。


 トーリは頷くと、バッファローバードとマッドボアをメインに狩っていきたいことと、その理由を説明した。


「それから、大丈夫とは思うけど万一に備えて、解毒薬を最低ひとつずつ用意して欲しい。ちょっとお金がかかるけど」


 ドクヒョウの危険は知られているため、トーリの意見はすぐに賛成された。


「だって、毒にやられたらもっと金がかかるじゃん。解毒薬は日持ちするから無駄になるものじゃねえし、全然準備するわー」


「今日はたくさん儲ける予定だから、買うぞ」


 ギドもマーキーも承諾し、アルバートとジェシカももちろん同意したので、五人は冒険者ギルドから少し歩いたところにある雑貨屋に向かった。冒険者に必要なものはたいてい揃っている、便利な店だ。


「そういえば、有名なパーティがこの町に来たんだってよ。知ってるか? 『烈風の斬撃』ってパーティだけど」


「あーそれ、CランクとDランクの冒険者の四人組だろ? 出逢う魔物を片っ端からぶった斬って、すごい速さでダンジョンを潜っていくらしいぜ。カッコいいなあ」


「グレッグの兄貴の知り合いかなあ。会わせて欲しいなー」


「初心者の俺たちじゃ無理かなあ。でも、冒険者ギルドでちらっと見れるかもしれないぜ」


 ギドもマーキーも、瞳をキラキラさせながら話している。

 そして、それを聞くトーリは顔をひきつらせている。


「そ、そんなに有名なんだ」


「そうだな……ミカーネン出身のパーティとして、この町以外でも名前が通っているらしいぞ。だから、あちこちに移動してはそこのダンジョンを攻めてるんだって聞いた」


「俺たちも後に続くぜぃ!」


「おー!」


 ギドとマーキーはテンションあげあげになり、ジェシカは「男の子は仕方ないね」と温かく見守り、アルバートはトーリの表情を見てなにかを察した。


「トーリ、『烈風の斬撃』のメンバーに、エルフがいるんだって聞いたんだけど」


「……」


 空気を読めるアルバートは、それ以上はなにも聞いてこなかった。

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