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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第65話 変な美人エルフ

 一日を終えて、夕方の分の炒った木の実を、にこにこ顔のヘラルから受け取ると、トーリは銀の鹿亭に戻った。


「トーリお兄ちゃん、おかえりなさいー」


「ロナちゃん、ただいまー」


 トーリは、銀の鹿亭の勤労幼女であるロナの頭を撫でた。


「す」


 トーリの肩で木の実をかじりながら、リスのベルンもただいまの挨拶をする。


「ベルンちゃんは、いつも美味しそうに木の実を食べているのね。うちのお父さんのごはんは、お口に合わないですかー」


「ロナ、俺はリスの餌は作らない主義だぞ」


 娘の声なら厨房にいても聞き取れる親バカなジョナサンが、夕飯の仕込みをしながら奥から叫んだ。


「お父さんはリスに意地悪なの?」


「違うぞ! 意地悪なんてしないぞ!」


「じゃあ、なんで作らないの?」


「動物のごはんは奥が深いですから、難しいんですよ」


 ロナに意地悪だと思われたショックで料理のレベルが落ちると困るので、トーリは助け舟を出すことにする。


「動物によっては、親切な気持ちで食べさせたものが身体によくないことがあるんです」


「そなの?」


「はい。病気になっちゃったりね」


「ベルンちゃんは大丈夫?」


「野生の動物は、食べてはいけないものが本能でわかるから、大丈夫ですよ」


 トーリは『犬に玉ねぎを食べさせてはならないとか、猫は腎臓を壊しやすいから塩分は極力控えるとか、人には大丈夫でも動物には命に関わる食べ物がありますからね』と、心の中で考える。


「そうだ、ロナちゃんのおやつに木の実を差し上げましょう」


 妻のアリスがすっかり元気になり、トーリに感謝しているヘラルは「お願いですから、もっとたくさん木の実を持っていってください」と多めに渡してくれるので、店の宣伝がてら知り合いに順番に食べさせている。

 おかげで、ベルナデッタもラジュールもこの木の実のファンになった。

 誰に食べさせても恥ずかしくない、美味しい炒った木の実を売るヘラルはもっと商売の幅を広げた方がいいのではないかと思い、お金を貯めてそのための投資をしたいものだとと考えている、人の良いトーリである。


「わあ、ありがとうです!」


 ロナは、リスが一推しの木の実を嬉しそうに受け取った。ベルンも「す」と鳴いて木の実を勧める。


「どれ、俺にも味見を……」


「これはロナの木の実なのよ」


 ロナはおやつを取り上げようとする敵を見る目で、ジョナサンをじっと見つめた。


「……」


 娘におやつを死守されて、少し寂しそうなジョナサンを救ったのは、リスのベルンである。


「す」


 リスは綺麗に殻をむいてから木の実を差し出した。


「いいのか?」


「す」


「なんて優しいリスなんだ」


 銀の鹿亭の主人あるじは、木の実を「すまん」と受け取り、口に入れた。満足げに頷くベルンは、さりげない心遣いができるリスだ。


「……おお、これは美味いな! これを売っている木の実屋は、なにか木の実に関わるスキルを持っていそうだな」


「ジョナサンさんもそう思いますか。絶対に、特別な美味しさですよね」


「うむ、神に祝福された美味しさだな」


 トーリは『やっぱりヘラルさんに投資しましょう。店を大きくして、美味しいものをもっとたくさん売ってもらいたいものです』と決心した。





 部屋に戻ったトーリは、自分とリスに浄化魔法をかけて綺麗にした。日本にいた時と違ってなかなか毎日は入浴できないのだが、こうしてまめに浄化をすると清潔を保てるし、魔法の技術も上がっていくのだ。


「身体が臭くなると他人に不快感を与えてしまうし、魔物に見つかりやすくなりますからね。ベルンもいい匂いのリスでいましょう」


「す」


 ベルンは飛び上がると、トーリの顔に張りついた。強制リス吸いである。

 モフモフした柔らかなリスのお腹の感触に、トーリは「可愛い……最高に可愛いリスです」と喜びに震え、リスの背中と尻尾を撫でてモフモフを満喫したのであった。




 銀の鹿亭は、冒険者ギルドのシーザーがお勧めする優良な宿屋で、お値段も良心的なのでたくさんの冒険者が利用している。主人のジョナサンが少しでもおかしいと思う客は断るし、鍵もしっかりしているので安心だ。


 冒険者は、ダンジョンに潜るようになると報酬の額が跳ね上がるので、Eランクくらいになるともっと高級な宿に移ることが多い。だがアットホームな雰囲気を好む者は、ダンジョンの中層に潜れるようになっても銀の鹿亭に泊まることがある。


 トーリが下におりて夕飯を食べていると、弓を背負った背の高い女性が銀の鹿亭にやって来た。


「ジョナサン、部屋は空いている?」


「イザベルじゃねえか、久しぶりだな」


「そうだね」


 長い銀の髪に緑色の瞳をした美しい女性は、トーリと同じように尖った耳をしている。だが、いつも機嫌がよさそうににこにこしているトーリとは違い、冷たく無表情だ。


「で、部屋は?」


「空いてるぞ」


「一週間」


 彼女はそう言うと、カウンターにいるトーリの隣に座った。


「おまえ、どこの部族だ?」


「?」


 肉をもぐもぐ噛みながら、彼は首を傾げた。


「純粋なエルフだということはわかっている。わたしはイザベル、栄える月のイザベルだ。おまえも名乗れ」


 トーリは『食事中にいきなり隣に座って名乗れとか……嫌な感じですよね』と思ったが、自分の顔をじっと見るイザベルを見返すと笑いかけた。

 日本にいた時には、彼の顔を恐れて女性は目を合わせてくれなかったのだ。そう思うと、美人のイザベルに見つめられるのは悪くない。というか、ありがたい。見つめてくれてありがとう、なのだ。


 彼は肉をよく噛んで味わってから飲み込むと「今夜のお肉も美味しいですよ」とエルフの美女に言った。


「……もしや、おまえは頭が弱いのか?」


「す!」


 大事なトーリの悪口を言われたと思ったリスのベルンが、イザベルに向かって怒りの木の実の殻攻撃をする。

 だが、彼女はリスが投げた殻を親指と人差し指でつまんで止めた。


「あのですね、イザベルさん。夕食を楽しんでいるのにその邪魔をして、いきなり名乗れとか言い出すのって、お行儀が悪いです」


「なに?」


「ちゃんとした人のすることじゃありません」


「……」


「自分も一緒にごはんを食べるか、僕が食べ終わるまで待ってから改めて話しかけるのがすじじゃないですか?」


「……」


「イザベル、俺もそう思うぞ。人がメシ食うのを邪魔するんじゃねえ」


「……なるほど」


 彼女は素直に頷くと、ジョナサンに「食事付きの宿泊にするから、わたしの分の夕食を出してくれ」と頼んだ。


 そして、トーリの隣で食べると「うん、肉の味がいいな」と話しかけてきたので、彼は「そうですね」と笑ったのであった。

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