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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第64話 今日の売り上げ

 ソロ狩りを安全に行うには、体力に余裕があるうちに引き上げることが必須である。パーティ活動と違って、不測の事態におちいった場合に助けを求めることができないので、安全マージンをしっかり取りリスクを最小限に抑えるのだ。


「さて、今日はこのくらいにしておきましょうか」


 決して森に足を踏み入れずに、トーリは狩りを終えた。

 森に適した身体能力を持つエルフのトーリは、もう少し先に進んでも充分やっていけると感じていた。借金を抱えている身なので、正直、お金をできる限り稼いでおきたい。


 だが、ここはゲームの世界ではない。

 命を落としたらそこでおしまいだし、たとえ相手が弱い魔物であっても、向こうはる気で飛びかかってくるわけだから、危険を伴うのだ。


 伊達に39年も生きていない、彼は引き際をわきまえた大人の男なのだ。


「走るからつかまってね」


「す」


 常に丁寧に話すトーリだが、リスのベルンに心を許してきたのか、たまにフランクな喋りになる。


 彼は油断なくナイフを構えると、肩にリスをしがみつかせて町に向かって走り出した。広い草原には、今日もあちらこちらでまだ森には入れない冒険者たちが狩りをしている。


 ダンジョンがあり、きめ細かな新人冒険者へのケアがあるという評判のミカーネンダンジョン都市は人口が増え続けていた。トーリのあとにも何人か新人がやって来たし、よそから移ってきたパーティもいる。

  

 トーリは女神アメリアーナの計らいでもともとのスペックが高いし、日本で生きていた時に散々ゲームをやっていた関係で、冒険者の基礎知識(装備の特性や必要な持ち物、そして戦い方)も持っている。

 マーキーたちはそれぞれ故郷で動物を狩ったり、武技を習ったりしていたので、ある程度の戦闘能力がある。


 だから、初心者講習でも森の近くまで行くことができたし、大物もなんとか倒せるのだが、そうではない本当の初心者もなんとか一旗あげようと、身体ひとつでこのダンジョン都市にやって来る。


 草原でがんばっているメンバーは、無理なく狩りに慣れながら資金を貯め、武器や防具を揃えて少しずつ強くなっていくのだ。


「シーザーさんは、仕事が丁寧で面倒見がいいギルマスですからね。運営も上手いし、この町のお母さん的な存在かな」


 シーザーが聞いたら顔を真っ赤にして否定しそうなことを言いながら、身体強化をかけたトーリは町に向かって疾走する。

 こうして長時間、身体に魔力を通すことによって魔力の回路のようなものが鍛えられて、魔力酔いをしにくい身体が作られるのだ。





「こんにちは。今日も買取りをお願いします」


 冒険者ギルドの隣にある買取り所に行くと、大量の魔物をおろす人専用の受付へと向かう。


「トーリさん、好調のようでなによりです」


 台の上に出したウリボアとトカゲゴブリンを受付の男性が数えながら台車に乗せると、担当者が解体場に運んでいく。


「このウリボアはコブ付きですね。清算は明日で大丈夫ですか?」


「はい」


「それではカードをお預かりします」


 カード状の冒険者証は謎のハイテク仕様があり、トーリの情報だけでなく、ギルドに預けたお金のデータやそれまで引き受けた依頼の実績、倒した魔物の数まで事細かに書き込まれているのだ。


「昨日の分が入金されていますので、こちらをお確かめください」


 職員はタブレットくらいの大きさの金属板にカードを乗せて、そこに現れた数字をトーリに示した。

 だいたい二十万円が、昨日の稼ぎのようだ。


「現金も用意しますか?」


「小金貨一枚分を、大銀貨と銀貨でお願いします」


 職員がその分をカードから引くと、大銀貨九枚と銀貨十枚をトーリに渡した。


「常時依頼が達成されていますから、ギルドの受付で手続きをしてからお帰りください」


「はい、ありがとうございました」


 買取り所から出たトーリはそのまま冒険者ギルドのカウンターに向かった。総合受付のシーザーに「ただいまー」と手をひらひらさせてから、通常の受付の女性にカードを渡す。


「買取り所に卸してきました」


「お疲れさまです」


 カードを確認した受付嬢に「達成報酬は、大銀貨五枚になります。現金で受け取りますか?」と聞かれたので「預けます」と答えた。


「トーリ、ちょっと来い」


 大きな身体で総合受付の椅子に座っているシーザーが、トーリを手招きする。

 強面こわもてのギルドマスターを怖がらないし、「年下なんだから、シーザーくんって呼ぼうかなあ」などということまで言い出す怖いもの知らずの美形エルフを、シーザーは気に入っているのだ。


「どうだった?」


「草原の様子ですか? 他のパーティも無理のないペースでやってましたよ。突然変異の魔物もテリトリーから大きく逸脱した魔物も出ていません。森の浅いところにけっこうな数のウリボアが群れていたので、合計で五十は倒しました。でも、五、六頭以上の数では森から出てきませんでしたから、さほど脅威ではないと思います。トカゲゴブリンも大量発生の兆候は見られません。ウリボアとトカゲゴブリンは、マーキーたち四人でも余裕で狩れるんじゃないかな」


 すらすらと報告をするトーリに、シーザーは満足そうに頷いた。


「明日はあいつらと組むんだろ?」


 トーリは『よく知っていますね』という顔をしてから頷いた。


「ウリボアとトカゲゴブリンと、それからもっと大物も森から引いてきて狩る予定です。カタコブイノシシを何頭か倒したいかなー。僕が少し奥に入って魔物を釣り出したいんですけど……」


「そうだな、おまえさんのここ数日の狩り具合からすると、無謀ではないと思うぞ。だが、自己責任だからな、充分に気をつけろよ」


「はい」


 ギルドマスターから森の奥の方まで行く許可をもらえたので、トーリは笑顔で頷いた。

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