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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第54話 ティア、帰る

「すごいすごい、トーリお兄ちゃんは駆けっこが速いのね! 飛んでるみたいにピューッてしてる!」


「す! す!」


 トーリの背中のティアと肩にしがみつくリスは、草原の道を町へ向かって走るトーリのスピードに驚き、大喜びをしている。

 継続的に身体強化をかけられるようになったトーリは、疲れを感じることなく走り続けていた。エルフの特性で、周りの魔力を吸収しながら使うことができるので、人間のように魔力切れにならないのだ。


「あんまり喋ると舌を噛んじゃうよ、ティアちゃん! そうしたら美味しい木の実が食べられなくなっちゃうよー」


「それは困るの」


 ティアがほっぺたにえくぼを作って口をきゅっと結んだ。

 トーリとティアは仲良くなり、彼女の希望で『よそよそしい喋り方』は禁止になっていた。


 ティアは生まれてこの方こんなに速い乗り物(?)に乗ったことがなかったので、気分が盛り上がって子どもらしく無邪気にはしゃいでいた。


(病気のお母さんのことが心配な毎日を過ごしていたんでしょうね。少しの時間でも、元気になってよかった)


 そんなことを思い、より一層張り切って走ってしまうトーリであった。


 ミカーネンダンジョン都市に行く道を、旅人や馬車を追い越しながら風のように走り抜け、門に着くと、門番に止められた。


「おい、後ろに並べ……って、おまえは薬草の採取に行ったエルフの坊主じゃないか」


「朝の門番さん、ちょうどよかったです。この子は迷子になって捜索されていたティアちゃんです、たまたま僕が見つけて背負って連れて来ました」


「おう、そうなのか」


「ちなみに、捜索隊の騎士のラジュールさんと会って、ここに連れてくることは連絡してあります」


「お、おう」


「冒険者ギルドで、ティアちゃんのお父さんが心配しながら待っていると思うので、連絡してもらえますか?」


「いや、迷子が見つかったならこのまま連れて行ってやれ。特別に先に通行を許可するぞ!」


 門番が声を張ると、トーリに抜かされた人々も「かまいませんよ」「迷子だったんだ」「親御さんに顔を見せておやりよ」と口々に言った。


「皆さん、ありがとうございます。では、冒険者ギルドに向かいますね」


 トーリはぺこりと頭を下げて、町の中を走り出した。




「ただいま戻りました!」


「す!」


 女の子を背負ったトーリは元気よくギルドの建物に入ると、部屋の隅に立ってそわそわしている木の実売りの前に行った。


「ティアちゃんを見つけました」


「お父さん、ごめんなさい!」


「ティア、ティアーッ!」


 木の実売りは胸に飛び込んできた娘を抱きしめた。

 その様子を『よかったなあ』『す』とひとりと一匹が眺めていると、ギルドマスターのシーザーが「おーい、トーリ、こっちこーい」と総合受付で手招きをした。


「よくやった。だが、なんでおまえが?」


「ええと、迷いの森の近くにたまたま通りかかって、ええと……エルフの勘? で見つけました。えへへ。運がよかったですよね」


 いたずらっ子のように笑うトーリを、シーザーは呆れたように見た。


「おまえなあ、なんでも『エルフ』で済ませようとしてるんじゃなかろうな?」


 シーザーの大きな手で頭をぐりぐり撫でられて、トーリは「えへ?」と笑ってごまかした。


「危険なことはしてないと思いたいが、おまえは予想外なことをやらかす傾向があるからなあ」


 シーザーはトーリにお説教を始めそうだったが、ティアを抱いた木の実売りが割り込んできた。


「ありがとうございました、エルフのトーリさん、ほんっとうにありがとうございました! このご恩は忘れません!」


「いえ、お気になさらず」


「気にします! シーザーさん、トーリさんへのお礼ってどうしたらいいでしょうか? あとになりましたが、ギルドに依頼を出せばいいですか?」


「ええと、木の実売りさん……ティアちゃんのお父さん、本当に気にしなくても、あっ、そうだ!」


 トーリはいいことを思いついたと瞳をキラキラさせた。


「実は僕、怪我や病気の治療について勉強したいと思っているんです。もしよかったら、ティアちゃんのお母さんに回復魔法をかけさせてもらえませんか? それで経過を観察させていただけると助かるんですけど」


「え? そんなことがお礼になるんですか?」


 木の実売りがきょとんとしていると、シーザーが「それはいいかもしれんな」と口を挟んだ。


「このトーリはまだ見習いなんだが、回復魔法系の使い手で、治療院からも有望株だと言われているんだ。一度怪我人の治療も経験しているし、よかったら経験を積ましちゃくれないか?」


「トーリお兄ちゃん、ティアのお母さんを治してくれるの?」


 ティアが驚いて言った。


「僕はまだ、お母さんの病気を全部治すのはできない。でも、できるだけのことをしてみるよ。ティアちゃんも、できるだけのことをしてね」


「うん、ティアのできることをする、お母さんを看病するの」


「がんばろうね」


「がんばろう」


「……トーリさん、ありがとうございます」


 木の実売りがティアを抱っこしたまま頭を下げたので、トーリとティアのおでこがこつんとぶつかった。


「それじゃあさっそく、様子を見に行きましょうか。ギルドマスター、ちょっと行ってきますね」


「おう」


「お兄ちゃん、ティアが案内するからおんぶしてちょうだい」


「うん、お願い」


 トーリが背中を向けるとティアがひょいとおぶさり、その頭の上にリスが立って「す!」と行く手を指さす。


「しゅっぱーつ!」


 子どもたちはそのまま外に駆けて行ってしまい、置いて行かれた木の実売りは「あれ? あっ、お邪魔しました、お世話になりました、ティア、待ってー」と慌ててあとを追ったのであった。

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