第49話 回復薬
翌日、トーリとベルン(起き抜けにトーリの顔面に乗り、モフモフのリスのお腹を堪能させるという朝の大サービスをしてくれた)は朝食を済ませて、冒険者ギルドへと向かった。
昨日はお風呂には入らなかったが、浄化の魔法を使ったのでひとりと一匹は臭わない。爽やかなエルフとリスだ。
「今朝も木の実を買って行きましょうね」
「す!」
リスのベルンは、炒った木の実にすっかりハマっていた。特に、ティアとお父さんの店の木の実が一推しらしく、他の店を覗こうとすると、トーリの耳を引っ張って阻止するほどだ。
「ベルンはグルメなリスですね。賢い賢い」
トーリは人差し指でふわふわなリスの頭を撫でる。リスも「す」と目を細めて、満更でもない様子だ。
「あれ? 今朝はまだお店が開いていないみたいですね。もしかしてお休みなのかな?」
狩りに出かける冒険者が軽食代わりに木の実を持っていくので、いつも朝早くに開店する木の実屋なのだが、今朝は無人である。ベルンは『ガーン!』というように両手を振り上げてから、トーリの肩で丸まってしまった。
可愛いので、トーリは球体と化したリスを両手に入れて頬擦りし、ついでに匂いを嗅いでから肩に戻す。しっかりと浄化してあるのでいい匂いがするのだ。
「まさか……病気のお母さんになにかあったわけではないでしょうね?」
不安を抱きながらも、トーリは冒険者ギルドに行き、中に入ると総合受付のシーザーの元へと進んだ。
「おう、トーリ」
「おはようございます、シーザーさん」
「……す」
肩で丸くなっているベルンが、弱々しく片手をあげて挨拶したので、シーザーは指を伸ばしてつつきながら「おーい、大丈夫か?」とリスの心配をした。
「好物が買えなくて落ち込んでいるだけですよ」
「そうか。食いしん坊なリスだな」
「す!」
気を悪くしたのか、ベルンはシーザーの指を小さな手でぺしっと叩いたが、可愛いだけであった。
「教えて欲しいことがあるんです。上級回復薬、病気に効き目がある薬ですね、それを手に入れたい場合にはどこへ行けばいいのでしょうか?」
「上級か。それなら魔女ベルナデッタの店に行くのが早いぞ」
「魔女、ですか?」
「ああ。腕のいい薬師だ。このダンジョン都市の周りや普通の森、迷いの森、ダンジョンで手に入る珍しい植物目当てで、ここに引っ越してきたんだと。まあ、変わり者だな」
シーザーは笑った。
「下級と中級の回復薬や解毒薬は、薬も扱う雑貨屋に卸しているが、上級となると使い方に注意が必要だから、ベルナデッタから直接指導を受けなければ買うことはできない」
「確かにそうですね。強い効果がある薬は身体を害する劇薬にもなりますし……回復魔法も傷を消すのではなくて、治癒力を亢進させることで治すみたいですからね。負担が大きいのでしょう」
「俺は難しい話はよくわからん。トーリならベルナデッタの言ってることが理解できるかもしれないから、一度会っておくのもいいだろう。一筆書いてやろう」
シーザーは紙を取り出すと、ベルナデッタにトーリを紹介する旨をさらさらと書いた。
「おまえさんは、狩りの才能以外にもできることが多い。なんなら見習い期間を延長してやるから、今のうちに経験を積んでおけよ」
「はい、ありがとうございます」
彼はギルドマスターのシーザーにお礼を言うと、冒険者ギルドをあとにした。
町外れの静かな住宅地に、ベルナデッタの屋敷兼店舗があった。二階建ての木造建築で広い庭があり、手前に突き出た形で店舗の建物がある。
「これは立派なお屋敷です。薬屋さんというよりもカフェかサロンといった雰囲気ですけど……僕なんかが来ていいのでしょうか」
門はなかったので、トーリは庭の小道を進み、店舗の扉の『営業中』という札の横にある呼び鈴を押した。すると、どこからか女性の声が聞こえた。
『いらっしゃい、エルフの坊や。誰かのお使いで来たのかしら?』
(防犯カメラかな? 魔法か魔道具のセンサーで来客がわかるシステムのようですね)
「こんにちは、突然お邪魔をして申し訳ありません。本日は回復薬についてお聞きしたくて参りました。僕は冒険者のトーリと言います。冒険者になったばかりの見習いです。こちらのことは、冒険者ギルドのギルドマスターから紹介してもらいました。紹介のお手紙があります」
『まあ、ずいぶんときちんとした方ね。貴族のご出身なのかしら。シーザーさんの紹介の冒険者ですか。そう、わかりました。扉を開けるからお入りなさい』
「ありがとうございます。あの、僕の相棒のリスも一緒でいいですか?」
『ええ、よろしくてよ』
笑いの混じった返事が聞こえてから、金属製の枠にステンドグラスで白い花が描かれている、おしゃれな木製の扉がゆっくりと開く。
「お邪魔します」
トーリが中に入ると、そこは可愛らしいアンティーク風の家具が置かれた店だった。カウンターの向こう側にはガラスの扉がついた薬棚があり、たくさんの瓶が並んでいる。
『すぐにそちらに行きますから、おかけになってお待ちくださいな』
天井からぶら下がった鳥籠の中で、作り物の小鳥が女性の声で喋ったので、リスは「す!」と言って飛び上がり、トーリの背中に隠れてしまった。
「大丈夫ですよ、ベルン。スピーカーが内蔵された魔道具のようです」
リスは恐る恐る顔を出してから『別に全然驚いていないし』という余裕を見せながらトーリの肩に戻った。




