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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第40話 実地講習

 ギドに顔を揉みくちゃにされたのがよかったのか、肩にリスを乗せたトーリの口調から無事に敬語が抜け落ちた。


「今日はよろしくね」


「うん、よろしく。俺たちは恵まれているよな。こうして全員が自分の武器を持っているんだから」


 マーキーは自分の剣を見せて言った。


 確かに、マーキーは鋼の剣、ギドは金棒のような棍棒、アルバートは先が鉄でできた槍、ジェシカは魔法使いの木の杖を持っている。どれも新品ではないが、よく手入れがされていた。

 トーリはエルフの弓という、魔力で矢が生まれる高性能な弓に、ナイフもある。

 

「初心者用の武器でも、新しいのを買おうと思ったら、金属製なら小金貨八十枚から金貨一枚はするよね」


 ジェシカの言う通り、武器や防具は高価だ。日本円に換算すると八十万円から百万円くらいになる。


「出発前に一応、武器を見せてもらおうか」


 手続きを終えた教官のグレッグがやってきて、ひとりひとりの武器をチェックする。ここで駄目出しされたら実習に参加できないので、子どもたちは鋭い視線で確かめるグレッグを見て緊張した。

 幸いなことに、剣も棍棒も槍も杖も、合格ラインに達したようだ。


「武器は命を預けるものだ。異常がないか常に観察して手入れを怠るなよ。次、弓……自動修復機能付きのトーリ専用のエルフの弓、か」


「よくわかりましたね」


「エルフの弓使いがたいてい持っている武器だ。火や雷の属性付きの弓に持ち替えることもあるが、実力と共に成長するエルフの弓は高ランク冒険者も使えるいい武器だぞ」


「すげえな! トーリはおぼっちゃまなのか?」


「なんか高そうな弓だなあ」


「エルフは誕生と同時に弓を作るための木を植えて、育てていくんだっけ?」


「魔法の武器よね」


 マーキー、ギド、アルバート、ジェシカが羨ましそうに弓を見た。


 グレッグは「周囲の魔素を吸い込むエルフにしか使えない武器だ」と言って返してから、ナイフも手に取った。そして「……ふむ」と微妙な表情で頷いてから「合格だ」と言った。

 目利きの彼は、女神アメリアーナが用意した武器が初心者向けではないことを見てとったようだ。


 ナイフをトーリに返したグレッグは「では、これから草原に移動する。三十分ほど歩いた浅い場所で、連携の取り方を学ぶぞ。お前たちは個人の狩りについては経験を積んでいそうだからな」と予定を話す。


 彼は「冒険者は少人数でパーティを組むことが多いし、強大な魔物が現れた時には百人以上で力を合わせてのレイド戦になる。今のうちから動き方を覚えておけ」と彼らに指導した。





 草原のごく浅い場所にはほとんど魔物がいないので、植物を採取する駆け出しの冒険者がいた。


「戦うだけが冒険者の仕事ではないが、腕を磨けばやれることも増えてくる。ランクを上げて活動するには、日頃から実力を身につける努力が必要だぞ。採取専門の冒険者になりたければ、ギルドにはそういう講習もあるが……お前たちは違うな?」


「採取の腕も磨きたいけれど、狩りもやっていきたいです」


 最初に答えたのはトーリだった。


「いろいろな経験をしながら、自分に合ったものを探したいと思っています」


「そうか、がんばれよ。さっきギルマスが言っていたが、トーリは回復魔法が使えるんだな」


「はい、回復魔法はまだ実用には程遠いんですけど、解毒はそこそこできます。あとは浄化も毎日使っているので、伸びてきました」


「トーリはすごいのね!」


 ジェシカは自分も魔法を使うので、驚いて言った。


「でも、まだ上手く使えなくて、この前加減がわからなくてひっくり返っちゃったんだよ」


 トーリが言うと、グレッグは「危険な場所でそれをやったら命取りだぞ。今日は調整しながら魔法を使う練習もしていこう。ジェシカもな」


「はい!」


 トーリとジェシカはいい返事をした。


 十五分も歩くと、丘や低木の茂みなどが増えてきた。草も、浅い位置ではせいぜいくるぶしまでだったのに、膝上の高さに生えている場所もある。


「ここまで来ると魔物が隠れる場所があるので、気がつかないうちに群れに近づいてしまう場合がある。探査能力をつけるために、身体全体で気配を感じるようにしろ。それでは簡単な連携の練習をするぞ」


 グレッグは、前衛として片手剣のマーキー、棍棒のギド、槍のアルバートを前に出した。


「ジェシカとトーリは後衛だ。一番気をつけなければならないのは、攻撃を味方に当てないこと。最初のうちは声をかけてから攻撃するんだ。前衛もだぞ。自分が何をしようとしているのかを、仲間に伝えながら戦う練習をする」


 トーリは『声に出すって、どういうことでしょう?』と不思議に思った。ゲームの中では、攻撃は敵にしか当たらなかったのだ。


 視線を感じ取ったグレッグは、トーリに指示を出した。


「草むらにウサギがいるのがわかるか?」


「はい」


 ミツメウサギがもぞもぞ動き、こちらを見た。まだロックオンはされていないようだったが、ベルンは殺気を感じたのかトーリの背中に張り付いて隠れた。


 グレッグは前衛三人を立たせて、その後ろにトーリとジェシカを配置した。


「トーリが『弓、前方のウサギ』と言ったら、前三人は弓の射線から退避しろ。よし、やってみろ」


 トーリは弓を持つと「ええと、ゆ、弓、前のウサギ?」と言って構える。マーキー、ギド、アルバートが素早く横に移動したので、トーリは矢を放ってミツメウサギを仕留めた。


「そんな感じだ。慣れたら簡潔に情報を伝達しろ。自分が戦っている時にはいっぱいいっぱいになりがちだが、連携の初心者は仲間の声を常に気にして動くように心がけるんだ。背中が火あぶりになったり、矢が突き抜けたりするのはごめんだろう?」


「ひえっ」


 ギドが想像したらしく、変な声を出した。

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