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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第218話 みーがーわーりーのーひーもー

「ギルドカードを確認しますね」


 トーリが渡すと、担当の職員はカードを機械に通して表示を読んだ。


「ええと、Dランク冒険者のトーリさんですね。普段はソロで活動中ということでよろしいですね。ちなみにこのレイドには、治療師として参加されるんですよね?」


 冒険者たちの話を聞いて、彼が優れた腕を持つ治療師だと考えたギルド職員が、トーリに確認した。


「そうしましたら、冒険者ギルドではなく治療院での編成の方に参加した方がよろしいかと思います。こちらから連絡を入れておけば、参加報酬はこの冒険者ギルドカードの方にまとめて入れることが出来ますよ。もちろん、冒険者としての達成案件としても扱われますので、貢献度が上がりますから……」


「いえ、僕は戦闘に参加します」


「え? どうして戦闘? トーリさんは治療師さんですよね?」


「回復魔法が得意ですけど、本職は冒険者なんです」


「す」


 肩のリスが、キリッとした表情でサムズアップした。


「今回の敵は固そうだし、ワイバーンもいるらしいから、近接よりも弓で参加しようと思うんですよ」


 当然のことながらトーリの弓の腕前を知らないギルド職員は、ううむ、とうなった。


「正直に申し上げて、それは、もったいないと言いますか……せっかく回復魔法の才能をお持ちなのですから……怪我で苦しんでいた冒険者たちが一気に復帰できたのは、トーリさんの最新式の治療法のおかげだと聞いていますし、今回のレイドでもその技術を活かしてもらえたらと、ギルド的には考えているのですが」


「もちろん、回復もしますよ! そこは任せてください。前線に出ていれば、誰かが負傷したらすぐにヒールを飛ばせるから一石二鳥なんですよね」


「前線で攻撃しながらヒール? そんな変態……いえ、器用なことができるとは、正直思えないのですが」


 ふたりの会話を近くで聞いていた冒険者たちは『今、変態って言った……』と内心でつっこんだ。


「もちろん、応急処置だけして、あとは治療院のチームに任せることになると思いますけどね。でも、被害を極力抑えるためには早めの処置が大切なんですよ」


「それはまあ、わかりますが」


「大丈夫、僕の手に負えないと判断すれば、後ろに下がりますし。別に僕は、英雄になって殉死したいわけじゃないんです」


 ギルド職員はにこにこ顔のエルフをしばらく見つめていたが、勢いや偶然だけではDランクの冒険者にはなれないことはよく知っている。

 そして、本人ができると言うのだから、それは可能なことなのだろうと判断する。


「わかりました。それでは、トーリさんには弓での攻撃で参加をお願いします。くれぐれも無理のないようにお願いします。自己責任といっても、冒険者ギルドは冒険者の命を極力守りたいと考えている組織です。場合によっては、参加の継続をお断りすることもありますので、ご了承ください」


「はい。僕、危ないことはしませんから!」


「す!」


「……信じてますからね?」


 職員はカードを返しながら言った。

 エルフとリスは、純粋な光に輝く瞳で『信じて』と職員を見つめた。


 元気いっぱいにお約束をするお子さまとリスに、職員は『誰か、ベテラン冒険者に依頼して、お目付役になってもらいましょう』と決意しながら、受付名簿に『要注意人物』と書き込んだのであった。




 というわけで。


えあるトーリのお目付役に選ばれた『雷の伝承ライトニング・レジェンド』のDランク冒険者、ゴリアテ、参上!」


「同じくDランク冒険者のヨーレイシャ、参上!」


 お馴染みのふたりがギルド職員に頼まれて、トーリのお守りをしにやって来た。ビシッ! とポーズをつけるふたりに、トーリは気の抜けた顔で「えー、大丈夫なのにー、過保護だよー」と口を尖らせた。


「僕はエルフだから若く見えるけど、実際は三十九歳のおっさんなんですよ。落ち着きのある大人なんですから、無茶はしませんって」


 ゴリはニヤリと笑うと「エルフはみんなそう言うが、中身はちゃんとガキンチョだって知ってるからな。エルフあるあるってやつだ」と言った。


「エルフって、年齢なりの知識はあるんだけど、精神構造的にはやっぱり幼い傾向があるよね。それでも自分が大人だって言い張るところが可愛いんだ」


「ヨロさんー」


 ヨーレイシャに頭をくりくり撫でられて、トーリは不満そうに頬を膨らませたが、その姿はまさにお子さまである。


「す、す」


 トーリの肩に乗るリスが『可愛いリスを撫でる人はいませんか?』と見上げてきたので、ゴリアテも指先でリスの頭をくりくり撫でた。リスは嬉しそうに目を細めた。


「まあ、おまえさんが伊達や酔狂でDランクまでのぼれたわけじゃないってことは、重々わかっている。だが、経験の浅いところはサポートを受けた方がいいと思うぞ。無茶をしたら可愛いマリンが泣くからな、それは頭に入れておけよ」


「あ……」


 トーリは、ミカーネンの町で騎士ラジュールに『自分を大切にしないと、トーリを大切に思っている人を傷つける』と諭されたことを思い出した。


(僕になにかあったら、友達の気持ちを傷つけてしまう。リスのベルンもそうだ。この身体は僕ひとりのものではないってことを、心に刻んでおかなくてはなりません)


 トーリは、魔物を甘く見ないでちゃんと『身代わりの紐』を巻いておこうと決心した。

 即死しなければ大丈夫、という考え方が問題なのだが、そこはトーリだから仕方がない。


「そうだ、せっかくだから出撃するみんなにも『身代わりの紐』を巻こうかな。即死さえ免れれば、あとはなんとかなるし」


「おい、なにを物騒なことを言ってるんだ。それに、『身代わりの紐』なんてそれほど出回ってないし、値段も結構するぞ」


「でも、けっこう稼いでいる冒険者なら、それくらいの出費はそれほど痛くないかな。危険な場所に立つのはそういう手練れだから、あれば買うだろうね。あれば、の話だけどね」


「僕、実はたーくさん持ってるんですよね!」


 とある多次元のポケットから出すように、トーリは「みーがーわーりーのーひーもー」と言いながら、多すぎてモップの先のようになった紐の束を取り出してみせた。


「ミカーネンのダンジョンで、周回しながら魔物狩りマラソンをしたんですよ。そうしたら、やればやるほどドロップ率が上昇するのか、面白いように手に入ったんです。これを使った特訓は、短時間でスキルが生えるからおすすめなんですけど、ゴリさんとヨロさんは興味があるかなあ」


「いや、いい。その話を詳しく聞かない方がいいと、俺の勘が囁いてくる」


「僕も遠慮しておくよ」


「えー、いい話なのになあ」


 Dランクともなると、危険察知のスキルが仕事をするようである。

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