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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第203話 心配するサブマス

 マリンはまったくの初心者なので、得意なことも武器も未定にして書類を提出して面接を受けた。


「おや、さっきのお嬢さんたちではないですか。冒険者に登録したんですね」


 面接用の部屋で待っていたら、やってきたのはサブマスターのロバートだった。トーリとマリンは初心者の面接にギルドのナンバーツーがやってくるなどおかしな話だと考えたので、なにも言わずにただにっこりした。

 トーリの肩に乗ったリスも「す」と可愛く首を傾げた。


「……ははは、ちょっとわざとらしかったかな?」


 トーリとマリンが笑顔のまま大きく頷いたので、ロバートも笑顔で頷いた。


「素直でいいですね。この街のギルドのサブマスターとして、トーリくんには注目していますので、もちろんそのお連れのお嬢さんのことも気にしているわけです。別に、冒険者になることを阻止しようなどとは考えていませんので、あまりお気になさらず」


「わかりました」


 トーリもマリンも、別に悪いことをしているわけではないのでさらっと流した。逆にロバートはふたりの落ち着いた対応を見て『やっぱりただの子どもたちではなさそうですね』と警戒している。


「マリンさんは、今日からGランクの冒険者になりますが、しばらくは見習いという立場になります。見習いのうちは報酬は安くなりますが、依頼が失敗しても違約金はギルドが負担しますので、自分に合いそうなものをどんどん受けてみてください。見習い期間の終了は、活動の様子からこちらが判断します」


 ロバートは冒険者ギルドについて一般的なことを説明したが、マリンはまるでゲームの中に入ったようで面白くて熱心に話を聞き、わからないことは積極的に質問したので、ロバートは『あれ?』と思った。


(朝っぱらから騒ぎを起こした問題児な割に、真面目な人物のようですね。頭も良さそうです。……まあ、あのいさかいはギランが一方的に悪かったようですけど)


 先ほどは、悪魔の化身かと思うほどに容赦なくギランを叩きのめしていたエルフの少年も、おとなしくマリンの様子を見守っている。


「それでは、良い冒険者生活を。わからないことや困ったことがあったら、相談窓口に行ってみてください」


「はい」


「面接はこれで終わりです。冒険者証を発行するので受け取り窓口の近くでお待ちください。もう依頼を受けることはできますが、どうしますか? 簡単な採取依頼もありますが……」


「マリンさんは戦闘の経験がないので、まずは身体作りから始める予定なんです。僕が面倒を見ます」


 トーリが言うと、ロバートは「……まだ小さいので、初心者なら狩りよりも採取にした方がいいと思いますが」と心配そうにマリンを見た。


「魔物狩りの方が華々しいですが、地道に採取をして安全に資金を貯めてからの方が堅実ですよ」


「いえ、早めに戦闘力を上げていこうと思っています。世の中には荒っぽい奴がたくさんいるから、自衛のためにも戦えるようになっておくべきだと思うんですよね。特に、マリンさんは可愛いから」


「それはまあ、そうですが……」


 ロバートは、ピンク色の髪をポニーテールに結った、ちょっぴり垂れ目が可愛いマリンを見てうーんとうなった。


「マリンさんは、納得しているんですか?」


「もちろんです! わたしは山の民なので、身体は小さくてももう十六歳なんです。早く強くなって、たくさん魔物を狩れるようになりたいです」


「……本人がそう考えているなら止めませんが……トーリさん、あまり無理をさせないようにね。あなたはとても強いし、戦闘のセンスがあるけれど、他の人たちも自分と同じように動けると考えたら危険ですよ?」


「マリンさんにも戦闘のセンスはあるから、大丈夫だと思うんですけど……女の子ですしね。そこは考慮します」


「わたし、がんばります!」


「す!」


 リスが『自分、しっかり見張ってます!』とロバートに向けてサムズアップした。ロバートは『このパーティで一番まともに見えるのがリスだとは……』と、不安が拭いきれなかった。




 マリンの冒険者証ができたので、ギルドの更衣室を借りて身支度をした。防具屋で買った赤いミニワンピースと黒いスパッツを身につけて、腰のホルダーには棍棒を刺すと、立派な冒険者に見える。


「あとで薬草なんかの取り方も教えますね。冒険者は狩りも採取もできた方が稼ぎが良くなります」


 マリンは稼げる冒険者を目指しているので、トーリの話に強く頷いた。


「ところで、マリンさんは部活などで武道を経験したことがありますか?」


「いえ……ないです。でも、中学の時は陸上部に入っていました」


「それなら、身体の動かし方の感覚は早くつかめそうですね。体内の魔力を、なんとなくでいいので感じ取れますか?」


「なんか、身体の中を動くものがあるなっていうのは、意識するとわかります」


「女神アメリアーナ様の加護があるから、身体強化は早く覚えられると思いますよ。それじゃあ、草原をランニングしてみましょう」


 ふたりは街から出ると、とっとこ走り出した。身体強化を極めているトーリはとても身軽でいくらでも走れるのだが、マリンはこの世界に来てからは宿屋周辺しか出歩いていない。最初はこの身体に慣れないらしく少しぎこちなかったが、しばらく走り続けているうちに魔力を回すことを覚えて、『山の民マリン』の能力が引き出されていった。


「すごい動けて楽しいです!」


「す、す」


 ポニーテールを揺らして、マリンは笑った。いつの間にかその肩にリスのベルンが乗り、楽しげにマリンを応援している。脚に魔力を回したマリンは高く飛び上がり、そのまま側転したり、見事にバク転したりした。


「すー」


 リスもびっくりだ。


「すごいですね! マリンさんはやっぱり運動神経がいいみたいです」


「子どもだから身体が軽いし、楽に動けるんですよ」


 マリンは『わたしはきっと、冒険者に向いているな』と、草原の気持ちのいい風に吹かれながら思った。


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