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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第195話 装備を買おう

「そうしたら、さっそく明日から訓練を始めましょうか。今日のうちに武器や防具を揃えてしまいましょう」


「武器は大鎌があるから、これでいいんじゃないんですか?」


「ゲームの中ならともかく、マリンさんはまだ戦闘の初心者で、身体もスキルもできていませんからね。まずは基本的なスキルを身につけて、魔物を殴れるようになってから、専門的な武器に移りましょう」


「はい、わかりました」


 マリンは素直に頷くと、トーリと共に防具屋と武器屋を巡った。


「アガマーニャの街にはたくさんのお店があるんですね。まずは長く使える防具を見繕みつくろいましょう」


 良さそうな防具屋で、あまり重さがなく様々な付与魔法がついた、しなやかな上下のセットを見つけた。とても柔らかな革とレインボーアラクネの布でできた、赤いミニ丈のワンピースに黒いスパッツは、ピンクの髪に赤い瞳をしたマリンによく似合っていたが、値段を聞いたマリンはぎょっとした。


「マリンさんは山の民だから、成長速度はゆっくりだと思うんです。今の体型に合わせて調節してもらいましょう」


「でも、トーリさん、この防具はわたしにはちょっと良すぎる気がするんですけど」


「ゲームと違ってね、現実の防具はいろいろと便利な付与魔法がかかっていないと手入れが大変なんですよ。これは防臭効果と防染効果がついていますから……臭くなりません」


「えっ?」


「剣道の防具はとても臭いって、聞いたことありませんか? 身につけていると、汗や皮脂が付いて、どうしても汚れや臭いが出てくるんですよね。僕はクリーンや浄化の魔法が使えますけれど、防具にも、あ、このおしゃれな服は高性能の防具なんですけどね、臭いがつかずに汚れも自動的に分解される魔法がかかってます。これはね、僕たち日本人には必須ですよ!」


「な、なるほど」


 毎日お風呂に入る綺麗好きな日本人の感覚では、臭い防具は耐えられない。それに、臭いが強いと魔物に感知されてしまう。


「性能はこれくらいがいいと思うんですけど、デザインは大丈夫ですか? 僕はおしゃれのセンスには自信がないんですよね」


「可愛い防具だと思います。あれ? 防具に可愛さを求めちゃいけないのかな?」


「毎日のように身につけるものだから、性能はもちろん気に入ることも大切ですよ」


 というわけで、試着して細かいサイズ調整をしてもらい、マリンの防具が決まった。


「あとは、振りやすい棍棒を探しましょう」


「棍棒を?」


「魔物を鎌で切るのはテクニックがいるでしょう? だから、まずは扱いが簡単な棍棒で武器に慣れて、安定して狩りができる実力をつけます。それから専門的なスキルを身につけていきましょう」


「わかりました」


 今度は初心者向けの武器屋で、いくつかの棍棒を振ってみる。


「これにします」


 マリンは初心者には重さのある棍棒を選んだ。山の民は女の子でも力持ちなのだ。今日はマジカバンを持ってきているので、武器も防具もカバンにしまった。


「このマジカバンは本当に便利ですよね」


「そうですね。荷物を気にしないで戦えるのは助かります。冒険者はお金を貯めて、少しずつ大きなマジカバンを買っていくんですよ」


「わたしたちは容量無限で時間停止の、一番高性能なマジカバンですね。女神様の加護がついているから、盗難にも遭わずに済むし」


「鑑定とアイテムボックスは冒険に必須ですよね」

 

 そんな会話をしながら商店街を歩いていると、人ごみの中からよからぬことを考えた者がマジカバンに手を出そうとしたが、即座に天罰をくらって落雷で髪をちりちりにしていた。道端に倒れて気を失っている間に、逆に財布を盗られてしまう者もいた。踏んだり蹴ったりだが、悪事を働いた罰なので仕方がない。


「ただいま。留守にしてすみません」


 マリンが食堂にいたジムに声をかけた。


「おう、お帰り。気にしなくていい、夜の分の仕込みも終わっているし、エリーものんびりしているところだ」


「そうよー、マリンは真面目だから全力でお手伝いするけれど、もうちょっと力を抜いた方がいいわよ」


 椅子に腰かけて休憩していたエリーが笑いながら言った。


「エリーは抜きすぎだがな」


「お父さん、仕事っていうのは大事なポイントを押さえることが大切なのよ。無駄に全力を出せばいいってもんじゃないわ」


「知った風な口をきいてやがるぜ」


「ふふふ」


 なんだかんだ言い合っても仲良し親子である。


 トーリはジムに袋を差し出すと「これ、お土産です。途中で寄ったお店で買ってきました。なかなか美味しいお菓子ですよ」と言った。


「あら、もしかして『妖精の足跡』のお菓子かな? だとしたら嬉しいな」


 エリーはマリンが頷くのを見て「やった!」と喜んだ。


「バターのいい風味がして、なんともいい味なのよね。お父さん、ちょっといただこうよ」


「そうだな。少し休憩にして茶でも飲むか。こんなにたくさん、悪いな」


 どうやら人気のお店だったようだ。


「マリン、美味しいものを食べてきたの?」


「うん」


「いいなあ。トーリくん、今度はわたしも連れて行ってよ」


「いいですよ。この街の美味しいお店を教えてください」


「わー、楽しみ」


 ジムはエリーに「おい、子どもにたかるんじゃない」と注意した。

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