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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第193話 もうひとりの仲間

 女神像の前でふたりが目をつぶると、すぐにいつもの『女神専用空間』についた。


「アメリアーナ様、こんにちは」


「旅行をしていてご無沙汰をしてしまいました。申し訳ありません」


 並んで白いソファーに腰かけたマリンとトーリは、目の前に笑顔で座る調和の女神アメリアーナに挨拶をする。


「こんにちは。マリンは元気そうですね。トーリの旅の様子はこちらから拝見していましたよ。良い出会いに恵まれた旅だったようですね」


「はい。友達と一緒に狩りができて、とても楽しかったです」


 アメリアーナは満足そうに微笑んだ。


「今回もたくさんのお土産をありがとうございました。トーリさんの果物は本当に美味しくて、神々一同喜んでいただいておりますわ」


「それはよかったです。アメリアーナ様にいただいた幸運の紐の力で、たくさんの友達と出会うことができて、果物も迷いの森の友達にもらったんです」


「よかったですね。この街でもきっと、友達と一緒に楽しく狩りができますよ」


「はい、楽しみです!」


 にこにこするトーリを見て、マリンは少し胸が痛んだ。

 ゲーム内で同じクランに所属していた、毎日チャットをしたり冒険をしたりと楽しく遊んでいたマリンに会えて、トーリはまたパーティを組んで狩りができると期待していたのかもしれない。

 

(赤い大鎌を見て、嬉しそうな顔をしていたし……わたしが魔物を狩りたくないと言ったら、トーリさんを傷つけてしまうんじゃないかな)


 マリンは心優しい少女であった。


(でも、実際に魔物を倒すのは怖い気がする。生き物ではないけれど、殺すわけだし。襲われたら怪我をするし、なにより怖いし……)


 そんなことを考えている間に、トーリはアメリアーナと楽しそうに経験したことを話している。


(試しに、うんと弱い魔物を狩らせてもらおうかな? すごく怖くなったらすぐに帰らせてもらえるように頼んでおけば、きっと大丈夫)


 女神は、マリンの内心の葛藤を見抜いているので、優しい視線で彼女を見守った。


「あっ、そういえば、ツトムンさんに会いにきたんです」


 マリンがそう言うと、美しい女神は頷いた。


「呼んでありますからもうすぐ来るはずです。ツトムンさんはかなりお忙しいので……」


「終わったー、終わりました! アメリアーナ様、無事にエンディングロール……じゃなくて、魔王討伐エンドに行けますよ、ああ長かった……って、トーリさん! わあ、トーリさんだ!」


「ツトムンさん?」


 突然現れたのは、白い『神様コスチューム』を着たツトムンであった。青いつんつんヘアに黒縁眼鏡をかけた彼は、頭の上に天使の輪っかをつけていた。


「それは……なんのコスプレですか?」


「いえ、これはコスプレではなくて仕事着なんですよ。トーリさん、お久しぶりですね。マリンさんにお会いした時に、いずれトーリさんにもお会いできるのではないかと期待していたのですが……いやはや、懐かしくて涙が出そうですよ。『お人好し同盟』で毎晩のように暴れ回っていたあの時間は、僕にとっての宝物でしたよ。ああ、トーリさんだーめちゃくちゃ嬉しいなー」


 ツトムンはほろほろと流した涙を袖で拭い、「すみません、最近歳のせいか妙に涙もろくなってしまって」と笑った。


「いやだなあ、ツトムンさんはまだ二十代じゃないですか。そんなことを言ったら、もう三十九のおっさんの僕なんてどうしたらいいか……」


「あっ、いえ、違うんですよ」


 アメリアーナの隣に躊躇いなく座ったツトムンは、片手を振りながら言った。


「実は僕、五十二歳で死んで、こっちに来たんですよね」


「ええっ?」


「あれから大学を卒業して就職して、独身のまま社畜生活をしていたんですが、無理がたたって倒れてしまいましてね。そこをアメリアーナ様にスカウトしていただいたんです」


「スカウト、ですか」


「はい。畏れ多くも神の末席に入れていただきまして、アメリアーナ様の補佐を行っています」


「神って……え、待って。ツトムンさんは、黒いもやもやとは関係なく亡くなって、しかも神様になったんですか?」


「そうなんですよ。神様って言うとなんかたいそうなものに思えますが、要するに運営側に来たってことですね」


「運営? 転生したら運営だった件?」


「あははは、そんな感じで、世界の調和を保つお手伝いをしています」


 まさか、クランメンバーが神様になっていたとは。

 トーリは唖然とし、マリンは「ねー、びっくりですよね」と頷いた。


「ツトムンさんのおかげで、だいぶ世界の調和が取れてきました。状況が落ち着いているので、近々、わたしは皆さんの言う『黒いもやもや』の始末に行こうと考えておりますのよ」


「黒いもやもやは、まだ残っているんですか?」


「ええ、マリンさんのところに出たアレが、かなりタチが悪くて調伏しきれていないのです。今は姿をひそめているのですが、このまま放置しておくとなにをしでかすかわかりませんからね」


「僕は『おり』って呼んでいるんですけれどね。コンピューターと違って現実に存在する生き物は思念というエネルギーを持っているんですよ。その思念から生まれたよどみとか悪意とか、そういうものが集まって突然変異して、意思のようなものを持つ存在になります。で、そいつが悪さをするんですよ」


 女神は憂いを帯びた表情で言った。


「ええ、善なる意思しか持たない人間はいませんから、これは仕方のないことなのです。地球の各地で『黒いもやもや』が湧いて、なるべく早く消していきたいのですが、わたしが力を振るうと調和が乱れるため、とても慎重に調伏していかなければならなくて……」


「たとえばですね、アメリアーナ様が『澱』を消そうとしてデコピンすると、その反動で東京都が消滅しますよ」


「ええーっ!」


「それは恐ろしすぎます」


 マリンとトーリは、改めて神々の力の強さに驚いた。

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