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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第168話 交流してます

 カミーユは少々空気が読めない商会のボンボンにも、無邪気に懐いてくる変なエルフの少年にも動じずに、せっせと肉の串を焼いて食べさせた。

 一見他人を寄せつけないような雰囲気を持つ馬車の護衛が、ぶっきらぼうではあるが意外にも世話焼きで親切な振る舞いをしているのを見て、他の乗客たちも少しずつ距離を詰めてきた。


 そのため、トーリのテント前の空間は、立ち食いパーティーのような状態になる。


「いい大人が子どもに食料をたかるんじゃねえぞ」と、非常にまともな注意をされたので、臨時パーティーに加わった者はそれぞれ食べ物を持ち寄ってきたが、やはり一番美味しいのはトーリの提供した肉だという話になる。


「君、このお肉は旅行用に買ってきたものじゃないの? 大事に食べないと、あとで大変よ」


輝ける雄牛(シャイニング・ブル)』のリーダーである聖魔法使いのシーラは、心配して声をかけた。彼らはミカーネンの領主都市に依頼遂行のためにやって来たパーティなので、トーリのことに詳しくないようだ。


 ちなみにメンバーは、戦斧使いで、体格が良く人も良いおっさんであるブルサンと、暗い表情で「俺……忍者」と小声で自己紹介してトーリの心の琴線に触れまくった小男のファイブル、そして「わたしは闇に生きる乙女、人知れず生きる召喚魔法使いなのですわ」と、なぜか弱い魔物しか呼び出せないらしい召喚師のロワーナという個性的なメンバーだ。


 トーリは、面倒見の良いお姉さん、といった感じのシーラに「大丈夫です。僕、たくさんお肉を持ってますから!」と笑顔で答えて、「大丈夫かしらこの子……」と余計に心配されている。

 どうやら裕福なエルフの子どもが、大金をかけて旅支度をしたのだと思われているらしい。

 

 確かにトーリは裕福だが、それは冒険者の活動で稼いだお金なのだ。


「あのね、トーリくん。この旅の間はわたしたちが見てあげられるからいいけれど、世の中には他人の懐を狙う悪い人がたくさんいるの。お金を持っていることを知られないように、工夫した方がいいわ」


「そうなんですね。ミカーネンのダンジョン都市では、いい人しかいなかったから油断してました。気をつけますね!」


 悪い人を無自覚に撃退していた、というのが事実なのだが。


 シーラは「そうね。ミカーネンは領主様がとてもしっかりしているし、騎士団も立派だから治安がいいけれど、他所よそではそうでないわ。本当に、警戒心を持って行動するのよ」と、この旅の間に彼の警戒心を育ててあげようと決意したのだった。




 水場を囲んで、旅客馬車の一行のテントが立てられた。そして、トーリのテントの前にある焚き火の側で、護衛のカミーユが明け方まで夜の番をする。


「代わらなくて平気ですか?」


「ああ、相棒のアークがいるし、寝ずの番は慣れているからな。明日は宿場町に泊まるから全然平気だ。子どもはしっかりと寝ておけ」


 馭者のロッドも「わたしが早起きするから、その時にいくらか寝てもらいますよ。トーリくんは、心配しないでぐっすりお眠りなさい」と言ってくれたので、「はい、おやすみなさい」と素直にテントの中の寝袋に入った。


「す、す」


「ほ、ほ」


 リスのベルンは、魔獣フクロウ(ナイトメアオウル)のアークと『見張りをお願いしますね』『自分、夜目が利くので任せてください』と会話を交わし、剥いた木の実を渡すとテントの中に入ってきた。

 トーリがマジカバンから取り出した、籠で作ったリス用の寝床に丸くなると、ベルンはすぐに眠りについた。か弱い小動物であるリスが警戒せずに眠るということは、カミーユとアークは頼れる見張り番ということなのだ。

 というわけで、トーリも安心して熟睡したのであった。





 リスのおなかが顔の上に乗りトーリが目を覚ますと、外では人の気配がした。


「おはよう、ベルン」


「す」


 寝袋から出てテントの外に顔を出すと、火のそばに馭者のロッドがいて、寝ぼけ顔で、頭にリスを乗せているトーリに「おはよう」と挨拶をしてくれた。


「顔を洗っていらっしゃい。ボンド商会さんが朝食の材料を提供してくれたからね、一緒に朝ごはんを食べましょう」


 今朝も穏やかな笑顔のロッドだが、カミーユの話によるとかなりの腕を持つ猛者らしい。昨日、肉を焼きながらカミーユが「真の強者ってのは、外見からはわからねえもんなんだぜ。俺は強いんだとイキっている奴は、ほとんどが見掛け倒しだからな」と教えてくれた。


「ロッドは強いから、ほとんどの動物が王だと認識して、懐いたり言うことをきいたりするんだ。うちのアークも、あのおっさんには逆らうなって俺に忠告してくるんだよ、どれだけ強いのかとビビっちまうわ」


「わあ、そういうのってかっこいいですね!」


「ま、この馬車に乗れてよかったな」


「僕はもう、カミーユさんがいてくれるから、この馬車に乗れてよかったと思ってますよ」


「ったく、おめーは、そう言うことを軽々しく口にするんじゃねえよ」


 照れまくりながら肉の刺さった串をひっくり返すカミーユであった。


 そのカミーユは、夜明け前から馬車の中で仮眠を取っているらしい。


「『輝ける雄牛』の皆さんが、ご親切にも、日の出前からご自分たちが外で鍛錬するから、寝てくるようにと勧めてくれたんですよ。いい方たちですねえ」


「そうなんですね」


 トーリは『この旅客馬車のお客さんも、馭者も護衛も、みんないい人たちっていうのは、絶対に幸運の紐の力が働いてますよね』と、髪をくくる紐に触れた。

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