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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第166話 可愛い相棒

「おっと、そろそろ俺の相棒も呼び戻すか」


 トーリの肩に戻ったリスを優しく見てから、カミーユがそんなことを言い出した。


「カミーユさんに相棒がいるんですか? さっきソロって言ってたのに……」


「ははっ、こいつは人じゃねえ相棒だ」


 カミーユは胸元から銀色の笛を取り出すと、息を吹き込んだ。

 空気が通る音だけする。鳴らない笛のようだ。


 トーリは『もしかして、人間の可聴域を超える音が出ているのかな』と、犬笛のことを思い出した。犬笛は犬に聞こえて人には聞こえない音が出るという笛だ。

 犬笛の存在を知った幼い桃李は、音のならない口笛を吹いた。しゅー、しゅー、というその音が聞こえたなら、彼の顔が気にならない自分だけの友達が現れるのではないかと、期待をしたものだ……。


 彼のせつない気持ちを感じ取ったリスは、小さな手で彼の頬を撫でた。


「この笛からは特殊な音が出て、うちの相棒だけに聞こえるんだ」


「『だけ』ってことは、もしかして魔道具ですか?」


「おそらくな。うちの家に伝わっている笛なんだが、俺が使うまでは誰も使い道がわからなかったといういわく付きのものだ」


「ロマンがありますね」


「ロマンか。面白いことを言うな」


 カミーユがそう言いながら左手を上げると、空から焦茶色の物体が落ちてきて、ぶつかる直前で減速するとちょこんと乗った。かなり大きなモフモフした毛玉にしか見えない。


「わあ、驚いた!」


「す!」


 エルフとリスは、身体が焦茶でお腹がクリーム色の、モフモフした塊を見た。モフモフすぎて顔がよくわからないのでじっと見つめていると、ビー玉のようなふたつの目がぱちりと開いたので、また「わあ」「す」と言った。

 体長が七十センチほどあるモフモフは、ベルンをちらりと見てからまた目を閉じた。


「この子はなんていう鳥なんですか?」


 鳥、ですよね?

 謎の毛玉を見ながらトーリは思った。


「こいつはナイトメアオウルという、魔鳥だ。卵の時から育てたから俺に懐いていて、なんとなく意思の疎通ができる」


 孤独な子どもだったカミーユは、親鳥を失って森の中に転がっていた魔鳥の卵を拾って育てて、初めての友人を得たのである。


「魔鳥……」


 トーリは迷いの森で空に連れて行ってくれた、親切なスクランブルバードを思い出した。年月を経たら、このナイトメアオウルも言葉を使えるようになるかもしれない。


 焦茶のモフモフはよちよちと歩いて、カミーユの左肩に収まってから、もう一度リスを見た。


「す……?」


 ベルンは『こやつはなにがしたいのだろうか?』と、ナイトメアオウルを見返しながら少し悩んだ。


「こいつは魔物とは違うからな、そこんとこは間違えないでくれよ。ちゃんと従魔契約もできているから人を襲ったりすることもない」


「わかりました。名前はなんていうんですか?」


「アークだ」


「アーク、よろしくお願いします。僕はエルフの冒険者で、カミーユさんと友達になったトーリって言います。この子は僕の相棒の、リスのベルンです」


「す、す」


 ベルンは『よろしくね』と言って、木の実を差し出した。


「ほ?」


「す」


 フクロウの魔鳥と普通のリスは『申し訳ないけれど、むいてもらえますか?』『かまいませんよ、お待ちなさい』という会話をしたらしく、ベルンは木の実の堅い殻を割って中身を渡した。


「ほ、ほ」


ナイトメアオウルは『お手間かけてくださりありがとうございます』とむいた木の実を受け取って、美味しそうに食べた。

 これでふたりは仲良しだ。


「カミーユさん、従魔契約ってなんですか?」


「相棒になるぞ、とか、家族になるぞ、みたいな両者の合意による契約だ。特に作法はないらしいが、俺たちの場合は、そら、俺の左手の甲に小さな鳥の足跡がついているだろう? アークの腹の、羽毛に埋もれた所にも付いている。これは契約の証で、こいつと付き合っているうちに自然に現れたものだぜ」


「意思によるテイムとは違うんですね」


「ああ。強制ではないからな」


 トーリとベルンは、アークのモフモフをかき分けて、契約の証を見せてもらった。


「す……」


 どうやらリスは、とても羨ましくなってしまったようで、トーリの左手にしがみつくと手のひらでぴちぴちと手の甲を叩き出した。手形が現れるのを期待しているようだが、リスに叩かれても可愛いだけだった。


「ねえベルン。ベルンは魔獣じゃないからね。普通のリスには従魔契約はできないと思うんだよ」


「す」


「諦めたらそこで負けだって言うけどさー、ベルンの手を痛めちゃうよ?」


「す」


「契約なんてなくても、僕たちは心で繋がっているから大丈夫だよ」


「す?」


「本当だってば! だって、僕とベルンは家族も同然の仲じゃないの」


「す……」


 ベルンは肩まで戻ってくると、ふわふわしたちっちゃな頭をトーリの頬にすりっとした。


「もう、ベルンは可愛いなあ」


「す?」


「もちろんだよ! 僕はね、この世で一番可愛い生き物はリスだと思うし、この世で一番可愛いリスはベルンだと思っているんだからね!」


「す、す」


「あははは、くすぐったいなあ」


 エルフとリスのいちゃいちゃを見ていたカミーユとアークは「おまえら、従魔契約をしている俺たちよりもずっと意思の疎通ができてるじゃねえか。そいつ、絶対普通のリスじゃねえよな」「ほ、ほ、ほ」と呟いた。

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