表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/35

第15話 未熟な魔法使い

「……あれ?」


 意識を取り戻したトーリは、自分の声がいつもよりも高いことに戸惑い、目に入った天井が自宅でないことに気づき、そしてエルフのトーリとして転生したことを思い出した。

 彼の胸にはリスが座り、木の実をかじっていた。トーリの顔をちらっと見て「す」と鳴き、あとはまるっと無視である。心配していたのかしていなかったのか、まったくわからない。


「気分はどうですか?」


 声をかけられて、トーリは一瞬顔を隠しそうになった。

 そして、今は端正な顔のエルフになったことを改めて思い出し『もう顔を見られても大丈夫なんだ』と力を抜いた。


「あ、はい、さほど悪くないです」


 白い服を着た若い女性が、トーリが横たわるベッドの側に座っていた。そして「小さな治療師さん、お疲れ様でしたね」と微笑んだ。


「わたしは治療師のモリーといいます」


「僕はエルフのトーリです。冒険者の見習いです。でも、僕はどうしてしまったんですか? 毒にやられた人は、治りましたか?」


「あなたが治療した患者は冒険者のダンという人ですよ。安心してください、わたしの治療も行ったので、数日安静にしていれば後遺症もなく治るはずです」


「それはよかったです」


「あなたが適切な処置をしたからですよ。体内に入った毒まで見事に処理しましたね。あれほどの重症ならば、通常なら半月はベッドから起き上がれなくなってもおかしくありませんでしたし、後遺症が残る可能性もありました。素晴らしい腕前です。ただね、治療のために無理をしたのはあまり褒められませんよ」


 女性はちょっぴり怖い顔でトーリを叱った。


「もしかして、重い怪我人を治療したのは、初めてなのではありませんか? 慣れていないのに回復魔法を連発したせいで、あなたの身体に負荷がかかってしまったのです。いわゆる『魔力負け』ですね。エルフなので、人とは違って大気中の魔力を制限なく取り込める体質でしょう?」


「あ、そうですね」


 トーリはゲームの設定を思い出した。人間は体内に魔力を貯めて魔法を使うのだが、エルフは周囲の魔力を吸い込み、身体に通して使うのだ。


「エルフは、わたしたちのような魔力欠乏状態にならない代わりに、急に魔力にさらされた身体が悲鳴をあげて、今日のように倒れてしまうのですよ。魔法の才能があるのだから、きちんとした指導を受けながら練度をあげていかないと、魔力に身体が破壊されて魔法を使用できなくなります」


 魔法が使えなくなったらとても困るので、トーリは震え上がった。


「せっかく魔法が使えるようになったのに、それは困ります!」


「そうですね、これからは気をつけましょうね。少しずつ慣らしていけば問題ないでしょう。でも、トーリさんががんばったおかげで、ひとりの冒険者が引退せずに活動を続けられるようになったのです。とても偉かったですね」


 優しそうなお姉さんに褒められて、トーリは嬉しそうに笑った。


「トーリさんが良ければ、治療院のお手伝いの依頼を受けてみませんか? 週に一度でも経験を積んでいけば、回復系の魔法がスムーズに使えるようになるでしょう。もちろん、魔力への耐性もつきますよ。冒険者の仕事をする時にもきっと役立つことと思います」


「お誘いをありがとうございます」


「よろしければ検討してみてくださいね。いつでもお待ちしています」


 治療師のモリーは最後にトーリの体調をチェックすると「問題なさそうなので、ギルドマスターに報告して帰ります。お大事になさってね」と部屋を出て行った。


「優しくて親切な治療師さんでした。ベルン、さっきは僕の身体を心配して止めてくれたんですね。ありがとうございました。君は本当に賢いリスですね」


 リスはトーリに向かってサムズアップをしながら「すっ!」と力強く鳴いた。


「トーリー、大丈夫かあー」


 気の抜けた声でそう言いながら、ギルドマスターのシーザーが入ってきた。


「モリーに、ガキンチョに無理させるんじゃねえって叱られちまったぜ」


 もちろん、もっと上品な言葉で注意したのだが。


「それはお気の毒です。僕はすっかり元気になりましたから、もう大丈夫ですよ」


「おう。男にはな、無理を承知で踏ん張らなきゃなんねえ時があるのよ。トーリはダンの人生を救った。見習い冒険者として立派なスタートを切ったな。今回の治療は依頼扱いにしておいたから、帰りに報酬を貰っていけよ」


「いいんですか?」


「冒険者がしてはならないことは、信頼を裏切ることとタダ働きをすることだ。どっちも真っ当に働く仲間に迷惑をかけるからな。覚えておけよ」


「はい」


 ベッドの上に起き上がり、トーリは頷いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ