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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第14話 エルフの治療

「今日は休んで、明日から活動するといい。宿は決めたのか?」


「まだです。まずは買取り所に行って、お金を用意しないと……」


 マジカバンの中にある果物を換金しないと、トーリは一文無しなのである。


 と、その時、ギルドの扉が開いて外の喧騒が聞こえた。飛び込んで来たのは、身体に血が付着した若者だ。

 シーザーの表情が険しくなった。


 若者は総合受付に座るギルドマスターに向かって叫んだ。


「頼む、ギルマス、助けてくれ!」


「ガルダじゃねえか、どうした?」


 シーザーは素早く立ち上がって、ガルダとともに外へと歩きながら尋ねる。


「ダンが魔物の毒にやられた! あと、傷も酷いんだ」


 どうやら仲間が怪我をしたらしい。ガルダと呼ばれた男はその場にいる冒険者に向かってすがるように声をかけた。


「誰か、上級毒消しを持っているやつはいないか? このままだと治療院までもたないかもしれないんだ」


「そんな高い薬を持ってるやつはそういないぞ。ダンはどこにいる?」


「外の馬車の荷台に」


 シーザーが飛び出し、トーリもなんとなく後に続く。意外に身軽らしく、ギルマスの大きな身体が荷台に飛び上がると、軋む音がした。


「ダン、大丈夫か? おい、治療師はもう呼んだのか?」


「さっきティムが走った」


 そう言ってガルダも荷台に乗る。


「ダン、傷を見せてみろ。なるほど、強力な毒にやられたな……トーリ、こっちに来い」


「えっ、はい」


 トーリは戸惑いながらも馬車の荷台を覗き込む。


(血だらけ……)


 シーザーは「気分が悪くなったら言えよ」と言って、片手でトーリを荷台に引っ張り上げた。そこには、胸当てを切り裂かれた若い男性冒険者が、唇を紫色にして横たわっていた。ヒューヒューと変な音を立てて呼吸をしている。


「ギルマス、なんとかならねえか? ダン、しっかりしろ!」


 ガルダが心配そうに荷台を覗き込んでいる。


「トーリ、やってみろ。おまえは見習いだからギルドがケツを持つ」


「わかりました」


 修羅場に動じないエルフの少年は、この若者を治療することを決意する。まったくの初心者だが、湖で精霊に治癒魔法を授けられたのだ、ここで使わなければ男がすたる。

 彼はシーザーに「服も防具も取ってください」と指示を出した。


「ここ、水浸しにしてもいいですか?」


 ガルダは「かまわん!」と叫んだ。


「傷を洗います。薄まった毒が流れ出るので触らないでください。『アクア』」


 トーリの指先から水が溢れ出て、ぱっくり開いた傷を洗い流す。痛むのか、ダンがうめき声をあげるが、構わず洗い続ける。彼はかなりの水流で一分ほど傷を洗浄してから、水を止めた。


「付着していた毒はもう洗い落とせたでしょう。次は傷からしみ込んだ毒を分解します」


 トーリは右手のひらを傷口に向けて、魔力を集中するイメージで唱えた。


「『浄化』……効果がいまひとつですね、これでは不充分です。ええと……キュア? 水の魔法だから『アクアキュア』……これが当たりみたいです、うん、『アクアキュア』『アクアキュア』」


 傷口が光るのを見て、トーリは頷く。先ほど毒に侵されていた時には、筋肉がぐずぐずと溶けかけていたが、もう綺麗なピンク色になっていた。


「毒は無くなりました。あとは傷口を塞いでいけばいいと思います。『アクアヒール』『アクアヒール』『アクアヒール』『アクアヒール』『アクアヒール』」


 トーリが早口言葉のように唱えると、少しずつ、でも確実に傷口が閉じていく。


「『アクアヒール』『アクアヒール』『アクアヒール』『アクア……』」


 おとなしく肩にいたリスが「す」と言って、『アクアヒール』を連発するトーリの口を塞いだ。


「ベルン、邪魔をしないで……あれ……」


 トーリの全身から力が抜け、そのまま倒れ込む。


「倒れるまでやるな……といっても、まだ加減がわからねえのか」


 シーザーはトーリの身体を横抱きにすると、荷台の外にいた冒険者に渡した。


「あ……なに?」


 まだ意識はあるようで、トーリがシーザーに「どうして?」と尋ねた。


「魔法を連発したせいだろうが。これからは限界ってもんを覚えとけよ。交戦中に倒れたら、そのままあの世行きになっちまう」


「なるほど……ベルン、止めてくれて、ありがと……」


 そのままトーリは意識を失った。


「こいつは限界だ、奥の部屋で休ませてやれ」


「わかった。こんな子どもががんばってくれたのか……」


 ガルダは真っ白な顔で目をつぶるトーリに「助かった、ありがとう」と呟いた。


「ギルマスーっ、治療師を連れて来たーっ」


 若い女性が若者に背負われてやって来た。背中から降りた彼女はこのような事態には慣れているらしく、冷静に「怪我人はどこですか?」と尋ねる。


「この荷台の上だ、頼む」


「わかりました。毒ですよね……あら、もう解毒済みなんですか。傷も綺麗で、あとは塞げばいいだけだわ。これは驚くほどいい治療ですね」


 治療師の女性は「こんな腕を持つ冒険者がいたかしら」と怪訝な表情をしたが、すぐに『ライトヒール』を唱えた。

 こうしてダンは救われたのであった。

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