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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第132話 効率がいいと思うけど

 トーリはいつものように早めにダンジョンから上がったので、冒険者ギルドに顔を出すと、そのまま銀の鹿亭に戻った。


「ただいまー」


「お帰りなさい、トーリお兄ちゃん」


 看板幼女のロナが「お疲れしゃまなのでした」とねぎらってくれる。

 

「ロナちゃんは今日もたくさんお手伝いをして偉いね。はい、お土産をどうぞ」


「うわあ、コリスクッキー! これ、美味しくて大好きなの。お兄ちゃん、ありがとう」


「どういたしまして」


 トーリは「可愛いなあ」と、喜ぶロナの頭を撫でた。


「そうそう、ロナちゃんのお父さんにも美味しいお土産があるんだよ。ジョナサンさーん、お肉を取ってきたけど、夕食に料理してもらえますか?」


「おう、なんの肉だ?」


 夕飯の仕込みをしていたジョナサンが、厨房から顔を出した。


「キングオークからドロップした霜降り肉ですよ」


「そいつはずいぶんと高級品だな! よっしゃ、今夜はステーキにするか」


 ロナが「美味しいステーキなの? 今夜はステーキなの?」と興奮して飛び上がっている。トーリが食材を持ってくると、ジョナサンがとびきり美味しいメニューに調理してくれるのだ。


「焼けたのをマジカバンにしまっておきたいから、お皿に乗せて何枚かお願いしますね」


「よしきた」


 トーリは旅立ちに備えて、少しずつ食料をカバンに貯めているのだ。ジョナサンにはあらかじめ皿を渡してあるので、そこに料理を多めに作って載せてもらっている。


 トーリはいつも調理の手間賃を払おうとするのだが、なかなか手に入らない食材を持ってきてくれるのだからと言って、ジョナサンは受け取らなかった。

 それに、霜降り肉のステーキのような美味しい料理を自分たちも食べられるから、それが手間賃以上になるらしい。


「この前この町に来たかと思ったら、もうキングオークを倒せるようになったんだなあ。たいしたもんだ」


 小鬼のゴブリンや犬鬼のコボルトは倒せても、身体が大きく力も強いオークを倒すのに苦労する冒険者も多いのだ。特に、ソロで倒すのは難しい。


 それを、リスのベルンがいるとはいえ、トーリは弓とハンティングナイフを上手く使い分けて、オークがひきいる群れを危なげなく倒してしまう。

 彼は身体能力の高さだけではなく、長年のゲーム人生でつちかった適切な戦略を用いる力や、あらかじめ魔物の特性を学んでおく勤勉さなど、優れたものを多く持っているのだ。


 彼は「コツをつかんで経験を積めば、安全に魔物を倒せるようになりますからね」とにこやかに言った。


「トーリは何事にも真面目に取り組んでいるからな。まだちっこいのに偉いな」


「ちっこくはないですよ。そのうち『暁の道』も本格的にダンジョンに潜るでしょうから、これからも食材に困ることはないと思います。『暁の道』はこのダンジョン都市でやっていくつもりのようですからね」


「そうだな、マーキーたちもがんばっているようだ。いい冒険者が定住してくれるのはありがたい」


 トーリと共に初心者講習を受け、トーリ流訓練法で実力の底上げをしたマーキー、ギド、アルバート、そしてジェシカの四人パーティは、順調にランクを上げてきている。

 彼らもこの銀の鹿亭を常宿にしているので、草原や森で狩って来た魔物の肉を持ち込むこともある。

 ジョナサンの人柄もあって、銀の鹿亭は冒険者の厚意でかなり助かっていた。


「おまえ、あいつらに地獄のような特訓をしたんだって? 見ていた冒険者から噂を聞いたが、全身がボロボロになるわ毒を何度も喰らうわで、とんでもない訓練だったそうじゃないか」


「そうかな?」


「す?」


 トーリとリスは首をひねった。


「僕がいれば、回復し放題ですからね。怪我を恐れずにあれくらい徹底してやると、力が伸びるのが速いんですよ。命さえあれば全部治せるから全然問題ないんですけど、なぜか評判が悪くて」


 それはそうだろう。『死ななければ治せるからなんでもアリ』などという訓練は、まともな神経の持ち主では到底受け入れられないものである。

 そこを、ぎゃあぎゃあ文句を言いながらも勢いでこなしてしまうあたりが、トーリも『暁の道』のメンバーも子どもなのだろう。


『暁の道』の大躍進の陰には常軌を逸した努力があることを、この町の冒険者たちは皆知っている。

 だから、子どもだからと言って彼らを馬鹿にするものはいない。


 少なくとも、まともな神経を持つ大人にはなかなかチャレンジできないようなことを、数々こなして力をつけてきたのだ。マーキーたちは呆れ半分、尊敬半分といった目で見られていた。


「痛覚耐性とか毒耐性とか物理耐性とか、たくさん特殊技能スキルが身につくから防御力も格段にアップするし、お得な訓練なのになあ」


 トーリは間違っている。それは決してお得ではない。


 なんでだろうと不思議そうな顔をしているエルフに、ジョナサンは「おまえの常識は非常識だってことを、いい加減に認めた方がいいんじゃねえか? 喜んでついてくるのはイザベラくらいだろう。あれも変なエルフだからなあ」と言った。


「えー、イザベラさんと一緒にしないでくださいよ」


「す」


 エルフとリスが抗議した。


 ジョナサンは『いや、変態度で言ったら同じレベルだろ』と心の中で呟いた。




 そして、あまり遠くない未来。


「モンスターハウスっていう面白い部屋があるから、今日は片っ端からクリアしていこうよ。タイムアタックって楽しいよね」という過酷な狩りに連れて行かれ、悲鳴をあげながらがんばる『暁の道』の子どもたちの姿が冒険者たちに目撃されるのであった。

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