表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

130/240

第127話 効果は抜群

「ジェム、ロッテの動きを気にして。敵も味方も同時に視界に入れる!」


「きゃあっ!」


 シャルロッテの脇がトーリのナイフで容赦なく斬り裂かれた。


「『アクアヒール』はい、くっついた。しっかり連携を意識して、そら、味方を斬ったら駄目でしょう!」


「ぎゃあっ!」


 ジェームズの背中にシャルロッテの剣が刺さった。


「やだ、お兄様、ごめんなさい!」


 刃先が抜かれると同時にトーリの回復魔法が飛ぶ。


「『アクアヒール』はい、大丈夫。ジェムは身体強化を切らないよー、このまま続けて! まずは被弾しないこと、それから攻撃を成功させる」


「はいっ!」


「はいったーい!」


 シャルロッテの腕にトーリの蹴りが当たる。


「『アクアヒール』止まらないで!」


「すみません!」


 汗だくになりながら、ジェームズとシャルロッテはトーリの指示を頭に入れて、身体を追いつかせようとする。


 トーリは貴族の子女を『ジェム』『ロッテ』と略して呼び、『暁の道』のメンバーに対するのと同じように、真剣を使って遠慮のない指導をしていた。


「ジェムは身体強化を忘れないで、気を抜かずに剣の先まで魔力で覆うんですよ」


「はいっ」


「いたっ」


「『アクアヒール』ロッテは止まらないで」


「はい!」


 トーリが繰り出す容赦ない攻撃に対応しようとがんばるジェームズとシャルロッテだったが、トーリに一撃を入れるどころではなく、全身を斬られて折られて大変なことになっていた。


 だが、そこにすかさず飛んでくる『アクアヒール』のおかげで即座に全快し、攻撃は止まることなく襲いかかる。


 そんなふたりの奮闘を、顔色も変えずに見守るのが騎士ラジュールだ。


「これは騎士団の『地獄の特訓』よりも酷い」


「す」


「これほど人間性に欠けた訓練を始めて見たが、明らかにふたりの動きが良くなってきている。効果はあるようだ」


「す、す」


「ああ、治せばいいという考え方が恐ろしいな」


「すー」


「ここまでやられると、かえって清々しいか。おまえもクールな考え方をするリスだな」


「す」


 ラジュールと肩に乗ったリスは、ボコボコにされるふたりをのんびり眺めていた。


 ミカーネン伯爵は「わたしも混ぜてくれないかなあ」ととても羨ましそうに見学をし、伯爵夫人は「あらまあ、痛そうね」と呟きながらも「がんばれー」と小さく手を振って応援する。


「優れた冒険者というのは、これほどまで凄まじい努力を重ねているのですね。知りませんでしたよ」


 アシュリー・バートンがラジュールに言ったが、騎士は『違う。トーリがおかしいのだ』と思う。だが、口には出さず目を細めるだけだった。


 怪我は治るし出血もしないから体力も尽きない。

 こうして延々と続けられた特訓に、ふたりの精神が狂気にむしばまれてしまいそうになったころ、トーリがようやく「はい、このくらいにしておきましょう」と言ってナイフを収めた。


「あ、ありがとう、ございました」


「これは、キツかったな。トーリくん、ありがとう」


 ふたりはへたり込みそうになるのを堪えて、トーリに礼を言う。


「よくがんばりましたね。最後の方は、痛みをかなりコントロールできていたと思いますよ」


「痛みのコントロール?」


 トーリはジェームズの問いに頷いた。


「攻撃を受けると痛いです。痛みというのは身体の異常を知らせる大切なものですが、魔物と対峙している時には不必要なんです。痛みで動きを止めたら、その先にあるのは死ですからね。怪我や毒状態は回復魔法で治せますが、死んだらそこでおしまいなんですよ。人生にはリセットボタンがありませんからね、やり直しはできないんです」


 トーリは「だから、戦いの途中は痛みを無視してください」と恐ろしいことを言った。


「痛くても、回避する、後退する、これらを速やかに行なって、適宜魔法か回復薬で治して、戦いに復帰できるように状態を整えましょう。できなかったらそこで人生終了です。ふたりの様子から、途中から『痛覚軽減』の特殊技能スキルが生えてきたと考えられますね。鑑定してもよければ、僕が見ますけど、秘密にしておきたいなら後で確認するといいですよ」


特殊技能スキルを、こんな短時間で? なるほど、そう言われてみると……」


 思い当たる節があるようで、ジェームズとシャルロッテは顔を見合わせて頷く。


「トーリくん、鑑定をお願いします」


「トーリさん、わたしもお願いします」


 トーリは「わかりました」と笑顔で引き受けた。


「今日、新しく身につけた特殊技能スキルという条件で、鑑定してみますね」


 それを聞いた、鑑定ができるマルガレーテ夫人は『そんなに詳細に設定できるのですか?』と驚く。


「……あれ?」


「駄目だったのか」


「いえ、『痛覚軽減』は出ているんですけどね」


 トーリは不思議そうに言った。


「どうしてだか『精神耐性』も生えているんですよね……シャルロッテ様もだ。ふたりとも、今日なにか変わったことをやりましたか? これって虐待を受けたり尋常じゃないストレスにさらされると生えるスキルなんだけどなあ……」


 首をひねるトーリを、彼以外の者たちは『そりゃあ生えるよね』という目で見たのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ