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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第115話 酷いよアダムさん

「視察の日は七日後で、来るのはアルバート・ミカーネン伯爵と懐刀ふところがたなのアシュリー・バートン内政事務官、そしてジェームズ様とシャルロッテ様の四人だ」


「七日後とは貴族が関わるにしてはずいぶん急な話ですね」


 冒険者ギルド主催の『エルフでもわかる常識講座』(以前は『猿でもわかる』だったのだが、トーリの抗議で改名されていた。だが余計に失礼な感じになった)の初級と中級を受けたトーリは、この世界についての知識をそこそこ身につけていた。

 そのため、貴族についてもそこそこ理解している。


「しかも、伯爵本人も来るんですか? 内政事務官まで引き連れて? それはあまり普通のことではない……ですよね?」


「ああ、よく学んだな。さすがにダンジョンには潜らないが、奴は……じゃなくて、伯爵本人もなかなかの剣の使い手だぞ。あいつの獲物は片手剣だ。攻撃にスピードがあって、その点はトーリとタイプが一緒だな。貴族だから剣筋が綺麗なんだが、実際に現場に出てそこそこ場慣れしているからお坊っちゃん武芸とは……いや、そんなことはいいんだが、そういう人物だから異変が起きた場所をその目で見たいという気持ちがあるのだろう。なんだ?」


「シーザーさん、突っ込んでもいいかな? さっきからちょいちょい敬語に無理があるんですけど、それはシーザーさんが敬語が苦手だからですか? それとも、もしかするとミカーネン伯爵とは個人的にお知り合いだったりします?」


「なっ、なんでそんなことを?」


 目に見えてうろたえるシーザーをトーリはじとっと見た。


「まさか……伯爵と仲良しさん?」


「ちげえよ! おまえ、さっきから変なことを言ってるが、そんなに俺の交友関係が気になるのか? 俺のことが好きなのか?」


「うん、好き」


「す」


 エルフとリスが素直に頷いたので、シーザーはなぜか赤くなり、それから青くなった。

 アダムはというと、やはり青くなり「シーザーさん、それはよくない、子ども相手によくないですねえっ!」とギルマスの肩を激しく揺さぶった。

 頭をぐらんぐらんさせるシーザーに、トーリは淡々と説明する。


「僕はこの町に来て、生まれて初めて友達ができたんです。最初の友達はラジュールさんで、その次がシーザーさんだから、僕の中では特別なんです」


「特別な友達……」


 無垢なるエルフの言葉に、シーザーはじーんとしてしまった。


『こいつの過去になにがあったのかは知らねえが、妙に孤独感があるんだよな……友達のひとりもいなかったのかよ』


 優しい目になってしまう。

 やはりシーザーは見かけによらずいい人であった。


 日本にいた時には、人生を通してひとりも友達がいなかったトーリは、『友達』という存在にとても執着していた。


 ちなみにリスの「す」の方は、まあ、お付き合いだ。

 トーリを害する者でないならいいんじゃないの、このでっかい男は自分のことを可愛いと褒めてくれるし、悪いやつではないな、というスタンスである。


「……あー、友達! はいはい、友達ですか、ああよかったー、冒険者ギルドが終了するかと思ったー」


 そう言うアダムの顔色が元に戻っていた。誤解が解けてほっとしたらしい。


「ったりめえだろ! おまえ、なにを想像したんだ」


「僕は悪くありません、誤解を招く言動を導いたシーザーさんが悪いんです。友情、素敵ですね。トーリくんはミカーネンにやってきてから友達がたくさんできたんですか?」


「はい、できました」


「僕も友達になれるかな?」


「もちろんです! 嬉しいなあ」


 無邪気に喜ぶトーリと、絶対おなかになにかを隠しているアダムを見て、シーザーはため息をついたのであった。ものすごくわかりやすいトーリと違って、大人の世界はなかなか複雑なようである。


「で、もしこの依頼を受けるなら、というか受けるしかないんだがな、明日の午後に顔合わせをしたいと言っている」


「顔合わせ……やっぱり伯爵様だし、得体の知れない冒険者を身辺に置くわけにはいかないから、調査するってことなのかな。圧迫面接されたら嫌だな、絶対やり返しちゃう。それなら冒険者なんて雇わないで護衛の騎士だけでいいのに。いや、伯爵の立場として冒険者ギルドの顔を立てなければならないとか? 駆け出しの僕なんかを指名したのは、思い通りかつ適当に扱えると考えたからかも。うへー、もう面倒くさいなあ」


「おまえなあ、もうちょっと言い方をなんとかしろよ」


「今のはひとりごとですよ。なんで僕なんでしょうね、もっと名が知れた功績のある冒険者はたくさんいるのに」


「そこはあれだ、おそらくトーリは目をつけられたんだろう」


 シーザーがそう言いながらアダムをちらっと見たが、サブマスターはにこやかにトーリを見るだけだった。


「目を? なんでですか?」


 シーザーは真顔で「おまえ、それはウケ狙いで言ってんのか? それともまったく自覚がないのか?」と尋ねた。


「僕がミカーネン伯爵にとって役に立つと思われたってこと? でも、たかだかEランクになりたての僕のことをどうして知ったんでしょうね……」


 トーリはアダムの表情に胡散臭うさんくさいものを感じていた。彼は危険を察知する能力に長けているのだ。


「アダムさん、もしかすると余計なことを伯爵に言いました?」


「えっ、なんのことかな?」


「やっぱり犯人だった! 酷いよ、友達を売るなんて! アダムさんがそんな人だなんて知らなかった!」


「す!」


 エルフとリスが傷ついた表情でアダムを見つめたので、彼は両手を振りながら「いや、僕たちはさっき友達になったばかりだよね? 話をしたのもさっきが初めてだよね?」と言い訳をした。


「僕について、どんなことを伯爵に知らせたんですか?」


「それはちょっと……」


「もうバレたんだから、全部話してください。友達でしょ?」


「いやでも僕は副マスターだから、いくら友達でも業務で知った情報を漏らすわけには……」


「僕の情報を漏らしたくせに! 友達のことなのに! 酷い!」


「うわあ、このエルフは面倒くさい奴だった」


「今、僕のことを面倒くさいって言った! 酷い! 今晩はアダムさんちに泊まって、本当の面倒くささを教えることにします! 友達だからいいですよね!」


「す!」


 ふん、と鼻息を荒くするトーリとリスを見て、アダムは「勘弁してくださいよお、シーザーさん、なんとかして」と困り顔になったが「そいつを自業自得って言うんだ」とスルーされて、結局、ミカーネン伯爵に伝えたトーリについての内容を説明する羽目になった。


 ペースを崩されてぐったりするスパイ兼(サブ)マスのアダムを見て、シーザーは『くくっ、あいつのあの顔、笑えるな。子どもだからって甘く見るからだ』と内心で楽しんだ。

 やっぱりふたりは本当に仲が悪いのかもしれない。

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