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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第110話 普通のミノタウロス

「……魔物たち、すごく弱いですね」


「す」


 ダンジョンの五階まで降りて来たトーリとリスのベルンは顔を見合わせた。


「ゴブリンとコボルトとオークしか出ない。しかも、みんな普通のやつだし。どうなってるのかなあ」


「す、す」


 リスは『手応えがなさすぎる』と肩をすくめた。

 トーリのマジカバンの中には、すでに千以上の魔石が入っている。トーリはダンジョンのすべての通路を通りたいゲーマーなのだ。


 前回このダンジョンに来た時には異常な事態だった。浅い階なのに、妙に装備の良い魔物や魔法が使えるかなり強い魔物が連携して襲って来た。

 今日もなんとなくそのつもりで来たのに、一階二階はゴブリンとコボルトがなんの策もなく棍棒で殴りかかってくるだけだし、五階層の魔物はがんばって一度に三十匹くらい出てくるものの、すべてノーマルタイプで連携もできていないのだ。


 群れの中に爆発矢を打ち込むと、ゴブリンやコボルトはすでに半死半生の状態であり、ふたりの使うデスウィンドマンティスの武器だと、どれも一撃でとどめが刺せてしまう。彼らが腕を振るだけで戦闘が終了してしまうのだ。


 だが、こんなに余裕があるのはトーリたちくらいなのである。

 棍棒しか持たないゴブリンでも、冒険者の命を奪うために殺意満々で襲ってくるわけだし、殴る力もけっこう強い。このダンジョンに入り始めたEランクの冒険者では、三匹を相手に戦うと少し辛くなるし、五匹に囲まれたら命を落とすかもしれない。


 まず、『ダンジョン初心者がソロで挑む』という行動自体がおかしいのだ。


「まあ、まだ浅い中の浅いところですしね。この先にはもう少し強い魔物が出ると思います」


「す」


 ゲームの世界では、初心者向けの魔物として名高いゴブリンなので、トーリは完全に侮っているが……ここでは違うのである。


 トーリが、おかしい、のである!

 ついでに、リスも、おかしい、のである!


 ふたりは気を取り直して進んだ。





「あっさり着いちゃいましたね」


「す」


 彼らはまったく苦労せずに十階のボス部屋の前に到達していた。

 一応、前回メタモルミノタウロスデビとの戦いを行った大広間には、オーク数体を含む五十を越える魔物が待ち構えていたのだが、風のように通り抜けるトーリとベルンによって、すでにすべての首が落とされた。

 オークは身体も大きく力がある、浅い層では難敵とされる魔物なのに、完全に雑魚扱いされてしまった。


「強化した武器が斬れ過ぎるからかな?」


「す」


 オークの首を刎ねるのを得意とするリスは、片手剣を軽く振りながら『かもね』と答えた。


 一分もかからずに殲滅できてしまったので、これでは魔石を拾う方が時間がかかっている。さすがに十階ともなると、革の防具や鉄の剣がドロップするので、それらも拾ってカバンにしまう。

 ダンジョンの魔物の魔石は草原や森のものよりも大きく質もいいので、高く売れるのだが、トーリの場合はドクヒョウの毒袋や毛皮、デスウィンドマンティスの鎌といった人気の素材を大量に狩ることができるので、あまり稼ぎに差が出ない。


 トーリは『がんばってダンジョンを目指したのに、なんだかパッとしませんね。やっぱり浅い層だからでしょうか』と少し不満に思う。


 彼は巨大な扉を見上げた。この先に十階層のボスがいて、倒すことができれば、広場の右側にある通路を進むと部屋があり、そこからなぜか一階に転移で行けるようになるのだ。


「ずいぶん立派な作りですけど、もしもボスが見かけ倒しだったらいくら温厚な僕もむっとしちゃいますよ?」


「す?」


 見えないなにかに圧をかけながら、トーリたちは扉を開けて中に入った。





「あっ、ミノタウロス」


「す」


 そこには身長が四メートルくらいの、巨大な牛人間がいた。手には金属製の武器、モーニングスターを持っている。

 肌は黒く、二本のツノが生えているミノタウロスは、部屋に入ってきたトーリを見て『ぶもぉーっ!』と鼻息を荒くした。

 が。


「小さいミノタウロスですね。黒毛和牛かな」


「す」


 少しがっかりした様子のトーリたちに、ミノタウロスは気を悪くして武器を構えた。目が赤く光り出す。鉄球にトゲトゲがついたものが、鎖で金属製の柄に取り付けられているモーニングスターは、凶悪な表情の魔物が持つとより一層恐ろしく見える。


「なんかぶんぶん振り回してますね。勢いをつけすぎて、ちょっとふらふらしていますから、まだ見習いのミノタウロスかもしれませんよ」


「す」


 リスがくすりと笑ったのがわかったのが、ミノタウロスは怒り出した。


 確かに、身長が八メートル近くあったメタモルミノタウロスデビと比べると、このミノタウロスは小さく見える。


 だが、ごく普通の冒険者にとっては、この十階ボスは充分に強敵なのだ。パーティーを組んでようやく倒し「やったー!」と大喜びでハイタッチしあうような魔物なのだ。


「それじゃあ、軽く攻撃して様子を見ましょうね」


「すー」


 肩のリスはトーリの背中に移動した。

 弓を構えたトーリは「シッ! シッ!」と爆発矢の二連撃をミノタウロスに打ち込んだ。

 爆発が起こり、武器をナイフに持ち替えたトーリが風のようにミノタウロスに迫る。


「すっ!」


 肩からぽんと跳んだリスが剣を一閃させて、牛の首を落とした。


『ぶ……も……?』


 信じられない、という表情をした牛の首が床を転がった。核を破壊されたミノタウロスは煙のように消え去り、大きな魔石だけが残った。


「うわあ、あっさりベルンに取られちゃいました!」


「す」


 リスはクールに笑う。


「ちょっと悔しいなあ。ボスっていうからもっと強いのかと思ってたのにー」


 トーリは魔石を拾ってマジカバンに入れる。

 ミノタウロスが倒されると、部屋の奥に宝箱が現れて、同時に転移部屋に続く短い通路が現れた。


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