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優しいエルフのトーリさん〜怖い顔のおっさん、異世界に転生したので冒険者デビューします〜  作者: 葉月クロル


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第99話 はぐれ魔物

「オークの魔石って、こんなに大きいんだ……」


 辺りに散らばった魔石を拾っていたトーリは「魔物の強さと魔石の質が比例するとしたら、ゴブリンより何倍も強いということになりますよね。それがこんな上の階に出ちゃうんだ」とベルンに言った。


「す」


 そのオークの首をあっさり落とした普通のリスは、あどけない仕草で拾った魔石をトーリに差し出す。

 リスはとてもすばしっこいので、地面に散らばった魔石を瞬時に集めることができる。

 しかも、その姿はとても可愛らしく、見るものの心を和ませるのだ。


「オークは、本来ならば五階で初めて出るはずだ。それが三階に出るとはかなり異常なことなのだぞ」


 しゃがみ込んで、人差し指の先でリスを撫でながら、イザベルが言った。


「このような魔物をはぐれ魔物と呼ぶ。そして、はぐれ魔物が現れた時にはダンジョンに異変が起きていることが多いのだ」


 デリックも「今回はトーリがいるし、様子を見て行動しよう。四階の魔物の状態によってはいったん引き上げてシーザーと相談して、改めてダンジョンに来ることも考えている。安全第一だ」とリスを見る。


 どうやらモフモフに触りたいようだ。


 ベルンはデリックに向けて、これ見よがしに尻尾をゆっくりと振った。自分の魅力を知り尽くしているリスの前に、デリックはあっさり屈服した。


「お願い、ちょっとだけモフらせて」


「す?」


 焦らすとは、なかなか性悪なリスである。


 ベルンがデリックの肩に乗ってしまったので、イザベルはトーリに向き合った。

 

「下に降りたら、まずはトーリを加えた連携攻撃を試すべきだな」


「はい。このパーティには遠距離の担当がいないですからね。僕が入ると戦い方が違ってきますから、慣れておくべきです」


「トーリの矢を背中に受けたら最悪だからな」


「僕もなるべく声掛けをしていきますので、射線を背負わないように、常に耳をすませて戦ってください。最初は戸惑うかもしれませんが、すぐに慣れますよ」


「うむ」


 先輩パーティに対してもまったく臆せずにそのような意見を言えるトーリは、とてもダンジョン初心者には見えない。


「す、す」


『皆に動き方を教えてやろう』とドヤ顔をするリスも、とても普通のリスには見えなかった。


「可愛いな、リスの尻尾、くっそ可愛いな、ふう、ご褒美!」


 顔面を尻尾で叩かれて身悶えるデリックも、とてもリーダーには見えなかった。


 

  

 地下四階に降りたトーリと『烈風の斬撃』のメンバーは、大量のゴブリンと犬頭をした魔物のコボルトを相手に連携の確認をした。


「行くわよ。曲がり角の向こう、ゴブリンとコボルトの群れ、十以上十五以下」


「通路でそれか。大量発生しているな。よーし、やろう」


 大剣をぶんぶん降って先に行こうとするマグナムを、リシェルが「ほら、連携の練習でしょ!」と言って引き止めた。


「先に連続で矢を射ち込んで、数を減らしますか? それとも爆発で全体のダメージを狙いますか?」


「まずは爆発から試そう」


「了解です」


 トーリはデリックに答えると弓を構えながら走り出す。


「中央、爆発矢!」


 まだ連携が取れないので、角を曲がると宣言をしてから矢を放つ。

 魔物の群れの中央で爆発が起き、そこへ『烈風の斬撃』四人が突っ込む。


 刃物と拳が閃き、瞬時に魔物が倒された。


「なるほど、こんな感じなのね」


「けっこうな爆発だったな」


「弱い魔物だから、ほとんど爆発でやられていたが、なかなか有効な攻撃だ」


 トーリは『全員が前衛のパーティ……』と微妙な感じで彼らを見た。そして、弓も使えるはずのイザベルを見て『彼女を少し鍛えれば、このパーティーはもっと安定するはずです』と分析する。


「エルフの弓は、使い手の意志である程度矢の種類を変えられますからね。僕は、深く刺さり連射に向く矢と、爆発及び爆裂攻撃のための矢を使い分けているんですよ」


「そうなのか! カッコいいな!」


 イザベルがトーリを褒めたが、彼は『そうなのかって、イザベルさんも弓、できますよね?』と思って怪訝そうに彼女の顔を見た。

 すると、イザベルは悲しげに目を細めて「実は、わたしの弓は壊れてしまったのだ」と打ち明けた。


「壊れた? そんなことがあり得るんですか?」


「ああ」


 すると、パーティーメンバーも表情を曇らせた。


「イザベルの弓は、アイスドラゴンに喰われてしまい、奴の巣で発見した時には二度と溶けない氷に覆われてしまっていたんだ」


 デリックが説明した。 


「それからイザベルは拳闘士に転向したんだ」


「もともと腕力には自信があったし、他の武器はどれもしっくりこなかったからな」


 エルフの弓は、生まれた時から育てた特別な木で作った弓で、持ち主と一心同体なのだ。

 それを失ったとなると、長年育てたゲームのアカウントが消滅したようなものである。そのまま心が挫けてしまってもおかしくないのだが、彼女は拳を使って戦い続けている。


「いつか……ファイアードラゴンの火で炙って、弓を溶かせる日が来るかもしれない」


 彼女は諦めていなかった。


「火じゃなくて、炎な。干物を炙るみたいに言うな」


「イザベルが炙られる未来しか浮かばないんだけど。無茶はしないでよ」


 マグナムとシェリルに突っ込まれていたが、ふたりも反対をしない所を見ると、共にファイアードラゴンを倒しにいくつもりらしい。


(変わっているけど、すごい人ですね)


 トーリは少しイザベルを見直した。

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― 新着の感想 ―
1発から何本も分裂する矢とかで目潰しとか期待できないかな
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