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ようこそ 国立あげは学院 魔法科へ  作者: 北虎田ユウジ
6/6

6話

 「お待たせいたしました、ハニースフレパンケーキとストロベリーパフェでございます。コーヒーがなくなりましたらお申し付けください。では、ごゆっくり。」


 「わぁ~~~…!!」



 下戸(おりと)ツマキ君と出会った次の日、私はトワ先輩と約束通りカフェで待ち合わせ、目の前のスイーツに目を輝かせる。

 昨日の力の制御に対する悩みも、ツマキ君からのいたずらに対する憤りも、次の日になるといくらか収まったので、今この瞬間の楽しみを妨げるものはない。それに一度は、街のお店に寄りたかったし。

 コーヒーを一口すすってスイーツを出迎える準備をする。本来、姫赤イロハはコーヒーはあまり飲めない方なのだが、ここのコーヒーは不思議と飲みやすく、後味もかなり良い。ここにも職人の技が活きているのか…!



 「「では、いただきま~す!」」



 トワ先輩と共に、熱々のパンケーキにナイフを入れ、やや大きめな一口を頬張った。



 「!!!」


 「どうかしましたか(ふもふもふもふも)もしかして火傷でも(ふもふもふもふもふ)しちゃいましたか(もふもふもふもふ)?」



 イロハに電流が走る。

 今日この日まで、私は自炊ばかりでこうして外食をすること自体なかった。

 食材はこの街のものではあれど、自分の料理だから、良い味になりやすい、程度のものとしか捉えてなかった。

 しかし店の料理を食べた今、ありありと伝わる…!



 「… … … 美味すぎる…!」



 私だって一度は料理を志していた身。それなりに舌は肥えている方だと思っている。

 でも、ここまでスフレをクリーミーに仕上げたものは食べたことがない。ふわふわな舌触りで、時間と共にしおれていくのが普通のはず…

 きっと、少し置いたところでめちゃくちゃ美味しい。その上で、できたてをさらに美味しくしてくる、この罪のようなパンケーキを前に……



 「あら~イロハちゃん、肩まで落としちゃって…その様子だと大分衝撃を受けたみたいですね~」



 それはそうだ。私だって料理に対して手を抜いてるつもりはない。なかった。

 でもこんなに美味しいものを味わってしまったら…感動と同時に自信を失うでしょ…自分の志がいかに甘かったか。

 食材自体、同じあげは町である以上、品質の問題でもないというのが、余計にグサリとくる。



 「…トワ先輩。プロを目指す人達って、ホントにすごいんですね…」


 「そうですよ~?あげは町の店はどこもすごいですから!楽しむだけじゃなく、学べることもいっぱいあると思いますよ?」



 複雑な気持ちになりつつも、パンケーキを食べる手は止まらない。むしろ加速していく。

 これから食べるパフェがとても恐ろしい。そしていつの間にか、あれだけ大きかったパンケーキと、冷静さと口直し目的へと役目が変わっていたコーヒーはなくなっていた。



 「…すみませんトワ先輩。コーヒーおかわりします……」


 「あら、ペースが速い!私は大丈夫なので、イロハちゃんの分だけで大丈夫ですよ~」



 私は呼び鈴を鳴らした。私の中のゴングが鳴ったような気分だ。


 コーヒーの注文をすると、気のせいなのか、ウェイトレスの目つきが若干険しくなった様子で次のテーブルの方へ。…そんなに私、変だったかなぁ。



 「ふふっ、イロハちゃんが食べてるところ、表情がコロコロ変わって見ていて楽しいです~ こっちまでニコニコしちゃう!」


 「ちょっ、トワ先輩~!」



 いけない!完全に取り乱しちゃってる!

 混乱している頭を冷やすべく、私は冷たい水を口にした。一息ついてから、スプーンを手に取り、ホイップを一口掬う。

 トワ先輩はというと、幸せそうな表情をしながら同様にパフェを頬張っていた。パンケーキと合わせても私より食べ進んでいる。勝手なイメージで、トワ先輩はマイペースにゆっくり食べる人なのかなって思ったけど、案外そうでもないのかな…?


 もはや半ば恐る恐るといった感じで、私も一口食べた。

 口にしたのはホイップだけだ。なのにそれはアイスのように、溶けるかのように味わいが変わっていく。ホイップのはずなのに……



 「イロハちゃん、幸せそうな表情してますね~」


 「そうですかぁ~?」



 きっとそうなのだろう。

 私の目まぐるしい思考とは裏腹に、でてくる声は気の抜けたようなものになっている。



 「お待たせいたしました。コーヒーのおかわりでございます。」


 「ありがとうございます~」



 置かれたコーヒーに早速手にとり、一口すする。熱さなんてこの際、我に返る糧にしてしまおう。



 「……あれ?このコーヒー、味が違う…同じものを頼んだような…」



 さっきより苦みと濃さが強い。そのお陰で無事に我に返った私は、ウェイターに目を向ける…あれ?ウェイターじゃなさそう…



 「よく気が付いたね。だが豆は同じものさ。大層幸せそうに食べるキミの為に、少々淹れ方を変えさせてもらったよ。」


 「あ…あぁ!長崎(ながさき)さん!?ここのオーナーしてたんですか!?」



 初めてゲコ退治に向かった際、私はそこにいた人たちの名前を憶えてから帰った。

 この長崎さんは、私が役目を負った際に、最初に声を掛けてくれた壮年の男性だった。まさかカフェのオーナーだったとは…!



 「その眼を見ればわかる。料理と向き合う料理人の側面が。一度は志したんじゃないか?」


 「そんなにわかりやすかったですか?アハハ…はい、それなりに夢見てました…」


 「個人的なお礼として振舞ったわけじゃない。どんな客も満足させるのが仕事だからな。その一環で…キミには一度、本業(シェフ)としての本気を見せたくなった。」


 「うぅ…正直完敗です。ここまで差を見せられると、菩提樹も料理人って言わなかったのも納得というか…そもそもまだ聞けてないけども。」



 もちろん、努力をすれば近づくんだとは思う。普通の店もきっと構えられるだろう。でもここはあげは町。人の心を動かすに値するような腕にならないと卒業できない、厳しい町だ。

 改めて、自分の料理に対する、発想とメンタルの差を痛感した。



 「長崎さん。幸いなことにイロハちゃんの御言葉は、彼女が魔法少女に一度はなれた以上別にあるはずなので~ イロハちゃん、落ち込んでるみたいですけど…」


 「ああ、イロハならもっと適任があるだろうさ。現にイロハのあの時の姿勢は、少なからず()()()()()()。気を落とすな。料理も学んでおいてまったく無駄にはならないからな!」



 心を……そうか。私ってば、難しく考えすぎてたみたい。

 私も経緯はどうあれ、御言葉を賜ってる身だ。それはトワ先輩やヤエ先輩のような、人の心を動かせる力…

 私にもあるのかな…いや、きっとある!少なくとも、この学院にいる以上、精一杯頑張らないと!



 「長崎さん…私、自分の道を、心を動かせるような道を頑張って探ってみます!あ、もちろん料理も学ばせてもらいますよ!」


 「ハハッ、流石は若い子だ!料理の話はともかく、イロハがいつか大きな存在になるのを、陰ながら応援するとしよう。」



 そういうと長崎さんはキビキビと厨房へと戻っていった。



 「…トワ先輩。やっぱりすごいですね、この町!学ぶべきことが色んなところにあって…」


 「…それはですね、イロハちゃんがと~っても勤勉だからですよ~私も見習わないと、ですね!」


 「いやぁ~それほどでも…それにしても、こんなことならヤエ先輩も誘っておけばよかったです!」


 「ヤエ先輩はいつもお忙しそうですからね~ 私も何度かお誘いしましたが、何かしら用事が入っているようで…」


 「そっかぁ…よ~し、予定とか色々探ってみよう!ヤエ先輩、3年生でしたよね?卒業する前に絶対誘ってやるんだから!」


 「イロハちゃんは行動力もありますよね~」



 そういいながらトワ先輩は並行して食べ進めていたパンケーキとパフェ、その最後の一口を…

 …あろうことか、パフェの生クリームをパンケーキに乗せるなんて!!!



 「ちょちょちょ、トワ先輩!?なんてことしてるんですか!ずるい~~~!私もやりたかった~!」


 「ふっふっふ。あげてもいいですが、また次の機会にでも~ 今度はヤエ先輩も誘って、リベンジしましょうね~」



 心なしか、トワ先輩の穏やかな顔つきが少し真剣になっているような気がした。私が来る前は2人で魔法少女してたのを考えると、1年も誘えずじまいなのか…きっと私以上に気持ちは強いんだろうな…

 ふと、穏やかな風がなびいたような感覚に襲われる。おかしいな、ここ、室内なのに…

 力を扱えた頃と同じ風…この思いが何か関わっているのだろうか…



 「…決めた。ヤエ先輩も誘って、三人で街を練り歩く!魔法少女の思い出、たくさん作りたいし!」


 「私も張り切らないとですね~ 後輩ちゃんが頑張ってるんですから!」



 トワ先輩との絆がまたひとつ深まったような気がした。

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