5話
あげは学院に入学して以来、初めてやってきたゲコ退治。
その結果は私に、魔法少女になれる可能性を示してくれた。
街の皆がくれた温かい風と、ヤエ先輩が言う象徴の具現化……
これらを元に、私の中に眠る力を探るしかない。頑張っていくぞ!
ーイロハの日記 1ー
「はーい、これでおしまいでーす」
トワ先輩の穏やかな声が、思案に耽っている私を我に返らせる。
あげは学院に入学してから2回目のゲコ退治。
ヤエ先輩の言う通り、まだ力がなんなのか把握しきれずにいた私は、前回のような力を出せずにいた。
というものの、後にその話を聞きつけたトワ先輩からの提案により、僻地のゲコ退治をすることになったからだ。感覚が覚えているうちに確かめた方が公平だろうという、トワ先輩なりの配慮だった。
時はゲコとの遭遇までさかのぼる。
あげは町の中心部は一個の都市のような賑わいを見せているが、それでも海を渡る人工都市だ。
僻地…つまるところ町の端まで足を運べば、ここが船上であることを思い出すくらいに、そこは機械的な景色と海が広がっている。
「ゲコはこういった場所にもあらわれることがあります。でも、サイズも小さいのが多いですし、おとなしい場合が多いので、退治の優先度は低いですね~」
「あの、海をじっと眺めてるヤツがゲコですか…?なんか黄昏てません?」
「ふふ、なんだか水辺が恋しいようにみえちゃいますよね。でも私たちは魔法少女ですから。しっかり退治してあげないとですね~」
トワ先輩の言葉に少し引っ掛かりを覚えつつ、退治までの間、私はあの時の力を出せずに現在に至っているわけだ。うーん、周りに人がいないと力がでないのかなぁ…
「ハイ!それでは戻って【まじかる☆お悩み解決さ〜くる】の方をすすめちゃいましょう~」
「トワ先輩、そのサークル名なんとかしてもらえませんか…ってあれ?」
「イロハちゃん、どうかしましたか?」
「向こう側に誰か人がいる…ちょっと様子を見てきても良いですか?」
「あら?本当ですね~ 私はひっそりしてますので、怪しかったらすぐに呼んでくださいね。流石に町のはずれで一人にするわけにはいきませんから。」
「すみません!すぐに済ませてきます!」
私は速足で海を眺めている人のもとへ駆け寄った。向こうもこちらに気付いたのか、やや萎縮気味に身構えている様子だ。
「…ねぇ、こんなところでなにしてるの?学院の生徒…だよね?多分。」
「違う。」
見事なまでの即答だった。
しかし、そうであってもやはりおかしい。あげは町に住む人は皆、学院の生徒か卒業生、プロの道を歩んでいるベテランさんのみのはずだ。仮に学院の生徒じゃなくても、こうして僻地で佇んでいる時間も理由もないはずである。
「…ちょっと隣失礼するね。」
私は見た感じ同級生の少年の隣に座る。彼と同じ景色を見ていると、今日のうまくいかなかった日を静かにまとめられるような、そんな気持ちになる。
「…なんだか心配なんだよね。この学院生活って厳しいからさ。うまくいってない人もいるのかなぁとか考えちゃうわけ。」
「だから学生じゃないってば。キミこそ何者なのさ。」
「私は、姫赤イロハ。キミは?」
「……下戸ツマキ」
「…ツマキ君さ、ここにいるからには、菩提樹から御言葉、言われたでしょ?なんだった?」
「…ああ、そう言えばそうだったな…」
「一応演奏だったよ。」
「演奏?いいじゃんいいじゃん!きっとこれからどんどん上手くなっていくんだね。」
「…でも本当は、作曲がしたい。それなのに、御言葉ってやつひとつで体力のない僕に重たい楽器や肺活トレーニング、行進までさせられて…」
「ついて行くのが大変?」
「ああ。体力も全然つかないし、身にならないからやる気も出ない。」
私はツマキ君の境遇を一つ一つ聞いていく。
そう言えば他の生徒が御言葉についてどう思ったかまでは、あの時は考えられなかったな。あまりにも自分のことで手一杯すぎて…
でも、御言葉はその人に眠る、最も輝く才能を提示していくのであって、本人の意思が関係ないことは他でもない私がその身で味わっている。きっと他にも同じ思いをしている人が、私やツマキ君以外にも…
「楽器を使って作曲とかはダメなの?」
「手間でしょ。確かに楽器で鳴らす音の方が質は良い。けどそこに拘り始めたらキリがないよ。ただでさえ、打ち込みの方が効率的な世の中になってるのに。」
「あー…あんまり専門的なことはわかんないけどさ。せっかく色々充実してる環境だからさ、もっと活用したっていいんじゃない?」
ツマキ君の頬がぷくっと膨らむ。どうやらそういう問題じゃないみたいだ…まったく、もっと素直になればいいのに…
「…僕は頼らない。これは自分だけの問題だから。モークンがいればそれでいい。」
「モークン?」
そう言うと、ツマキ君は懐に抱えていたものをそっと取り出す。
「… … …」
「ヒイイイィィィ!!!」
特にぶつかったわけでもなく、私は吹き飛ばされたかのようにツマキ君から離れる。
だって当然じゃないか!誰だって同じ反応するって!
取り出したものが、野球ボールくらいあるでっかいカエルだったらさぁ!
「イロハ…驚きすぎでしょ。そこまで嫌いなこと、ある?」
「ありますぅー!やめてよね!女の子にそういうことするの!!」
「人の気も知らないで…モークンも可哀想だね。」
「ブォーン」
結構距離をとったつもりなのに、汽笛みたいな音がこれ以上近づくなと言わんばかりに鳴り響く!
なんだあのカエルは!!
「もぉー!とにかく!一人で抱え込んじゃダメだからね!いつか仕返ししてやるからなー!」
半ば負け惜しみのような雰囲気で私はその場を後にした。
「…一人じゃないさ。モークンがいればそれでいい。」
「… … …」
… … …
「はぁ~~~~~~……」
「イロハちゃん、おつかれさま。幸せが逃げてっちゃいましたね~」
「ブーブー!下戸ツマキ…この学院にも手のかかる子はいるもんなんですね!」
「あら、ツマキ君だったんですね?」
「トワ先輩、知ってるんですか?」
「私も一度、【まじかる☆お悩み解決さ〜くる】で一度相談を受けてますから~ ただ中々解決しなくて…ずっとアプリに残っちゃってるんです。」
「トワ先輩がてこずるんだからそりゃ厄介か…ん?やっぱり学生なんです?」
「もちろん。あまり出席してないので、ちょっと心配ですね~」
やっぱり嘘だったか…いや、サボったら学院の生徒って胸張って言えなくなるのかな…?うーん、気難しいヤツ!
「…トワ先輩。サークル活動終えたら、どっかカフェにでも寄りましょう!スイーツないとやってられないです!」
「まぁ!それでしたら、明日が土曜日なのでその日でどうでしょう~ 流石に制服で寄るわけにもいかないですし…」
「わかりました!!やった~!高校生活らしくなってきたぞー!」
「ふふっ、楽しみにしていますね♪」




