遺跡の扉と試練
石扉の先に広がる未知の空間――鍵と同じ刻印が示す使命の場へ、リゼットとカインは足を踏み入れる。
暗闇に浮かぶ結晶の微光と、古代語の警告文が二人を迎え、鍵の自律的な防衛機能も初めて実証された。
第5章では、迷路のような回廊を抜け、祭壇の間で鍵をかざすことで開かれる新たな通路への伏線と、そこに潜む影の脅威を描きます。
――軋む重厚な音とともに、石の扉がゆっくりと開いた。
ひんやりとした空気と湿気が、外の灼熱からリゼットとカインを包み込む。
胸元で鍵を抱きしめたリゼットは、思わず息を呑んだ。
「見て……壁の文様が、鍵と同じ刻印だわ」
ランタンの灯が照らすのは、無数に刻まれた同じ紋様の連続模様。ところどころに埋め込まれた結晶が、微かに淡い光を放っている。
「この遺跡は、鍵保持者のために作られた施設だったのかもしれない」
カインが碑文の根本に腰を屈め、風化した文字を指で辿る。
リゼットは鍵を握りしめ直し、小さな声で呟いた。
「進んでいいのかしら…“扉に相応しき者は進め”って書いてあるみたいだけど……」
砂漠の猛暑とは別種の緊張感が、肩越しに冷気を伝える。
二人は石段をゆっくりと降り、狭い回廊へ足を踏み入れた。
回廊は迷路のように入り組み、湿った床に水滴が落ちるたび、ランタンの光が壁に揺らめく。
「足元、気をつけて」
カインが短剣を軽く握りしめながら進む。
だが突如、壁の小さな孔から鋭い矢が飛び出した。
「っ!」
カインが咄嗟に背を反らせるが、リゼットは鍵を胸に押し当て――
――鍵が微かに震え、蒼白い光を放った。
その瞬間、矢はリゼットたちの前でスローモーションのように止まり、床へと落ちた。二人は息を漏らし、視線を交わす。
やがて回廊を抜けた先に開けたのは、巨大な大広間だった。
中央には石製の祭壇が鎮座し、その周囲には7本の細い水晶柱が等間隔に並んでいる。
祭壇の台座には、鍵穴らしき凹みがぽっかりと開いていた。
「ここが…試練の間か」
カインが慎重に足を踏み入れる。
リゼットは震える手で鍵を取り出し、台座の窪みにそっと近づける。
「…これでいい?」
問いかけるように鍵をかざすと、刻印がぴったりと嵌まり、祭壇全体が淡い光に包まれた。
――7本の水晶柱が一斉に発光し、部屋中に神秘的な輝きが満ちる。
光が消えると、祭壇の背後にあった石壁がゆっくりと沈み、隠された通路が現れた。
その瞬間、奥深くから金属の鳴る音が響き渡った。
通路の入り口には、無数の龕が並び、闇の中に揺れる影がちらりと見える。
「敵か、はたまた守護者か……」
カインが剣の柄に手をかける。
リゼットは胸の前で鍵を抱きしめ、小さく頷いた。
「…一緒に、行きましょう」
二人は息を合わせ、静かに闇へと足を踏み出した。
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廃遺跡で鍵が示す“相応しき者”の試練を乗り越え、祭壇の扉は新たな通路を開きました。
次回、第6章では闇に揺れる影の正体が明らかになり、二人の前に立ちはだかる守護者か敵か、その真意が問われます。
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