砂漠への導き
無限に続く砂の海――東の砂漠へと踏み出したリゼットとカイン。
鍵を巡る探索者同士として互いの目的を確認し合い、新たな絆が生まれた。
しかし、古代遺跡の気配はまだ遠く、鍵の力は沈黙したまま。
第4章では、灼熱の陽射しと突如巻き起こる砂嵐の中、二人が次の手がかり――遺跡入口を発見するまでの緊張と期待を描きます。
――外気に触れた瞬間、リゼットは深呼吸をひとつした。
熱を帯びた黄土が太陽光に照らされ、世界は淡い琥珀色に染まっている。
「俺はカイン・ヴァナ。王国親衛隊の元親衛士だ」
青年は低い声で名乗り、背後の廃倉庫を一瞥した。仮面の陰から零れた銀髪が、砂埃に揺れる。
「リゼット・クロノ。ギルド〈クロノス〉の見習いです」
リゼットは胸の前で鍵を抱きしめ、カインの言葉を思い出す。
「あなたも鍵を探しているのですね。私もお供させてください」
――互いの名前と目的を確かめ合い、緊張が少し和らぐ。
「東の砂漠まで一緒に行こう。そこに、次の手がかりがあるらしい」
カインが地図を差し出し、二人は肩を並べて北東を指差した。
街外れの破壊された石門をくぐり抜けると、廃墟を背にした馬車道が北東へと伸びていた。
木枠は朽ち、車輪は砂に半ば埋もれている。馬車から降りたカインは、武具を軽く調整すると、リゼットに水袋と地図を手渡した。
「書記官が用意してくれた。三日はかかるだろう」
リゼットは頷き、布袋に鍵をしっかりと仕舞い込んだ。
――二人は砂煙を巻き上げながら、乾いた大地を進む。
遠くに赤錆色の岩山がそびえ、陽炎の向こうで蜃気楼が揺れている。
馬車はギギギと音を立て、砂に足を取られながら進む。リゼットはふと鍵を確かめたが、青白い輝きは影を潜めていた。
「ここでは、まだ鍵が反応しないようね」
リゼットが呟くと、カインは肩越しに視線を送った。
「恐らく、古代施設の魔導結晶に接近しないと動かない。焦るな」
そのとき、風向きが急変し、小規模な砂嵐が巻き起こった。
馬が嘶き、馬車が大きく左右に揺れる。リゼットは反射的に鍵を胸に引き寄せたが――
「キャッ!」
視界は真っ白に――鍵は沈黙したままだった。
やがて嵐が収まると、二人の前には岩陰に埋もれた石造りの遺跡入口が姿を現した。
――そこには、リゼットの鍵と同じ刻印がはっきりと刻まれている。
「ここが…次の遺跡か?」
カインが低く呟き、剣の柄に手をかける。
リゼットはそっと鍵を取り出し、入口の扉にかざそうとした刹那――
岩壁の奥深くから、底知れぬ轟音が響き渡った。
乾いた衝撃が砂塵を震わせ、リゼットとカインは顔を見合わせる。
「…進もう」
カインの声にリゼットも小さく頷き、二人は遺跡の扉へ足を踏み出した。
ご閲読ありがとうございます!
砂嵐の合間に姿を現した古代遺跡――そこに刻まれた刻印は、まさにリゼットの鍵と同じ模様でした。
鍵はまだ反応しないまま、この先に待つ試練を予感させます。
第5章では、遺跡の扉が開き、深部へと続く未知の空間へと二人を誘います。
感想やお気付きの点があれば、ぜひお聞かせください。次回もお楽しみに!