夜明けの門を照らす光の試練
深紅の雲海を越え、黄金に輝く古都の輪郭を目の当たりにしたリゼットとカイン。
だが目指すは壮麗な景色に隠された「夜明けの門」――かつて光を乱用した者たちを戒めるために建てられた場所であり、太陽の真価を証明せねば先へ進めない試練の舞台でもある。
第12章では、二人が太陽神殿の司祭に迎えられ、光の核を用いて「春・夏・秋・冬」の四季を映す日輪の石盤を調和させる謎解きに挑戦します。光を巡るパズルを解き、真の夜明けを呼び起こすその先に、太陽の宮殿が待ち受けています。
――浮遊島を後にした二人は、再び結晶の橋を渡り、赤く染まり始めた雲海の向こうに姿を現す古都を見つめていた。
朝陽はちょうど地平線から顔を出し、黄金色の光が城壁と尖塔を照らし始める。まるで世界が新たな一日を迎えるかのように、空は淡い桃色から深い金色へとグラデーションを描いていた。
リゼットは胸に抱えた光の核をそっと押し当て、橋の先端に視線を戻した。
「…これが、夜明けの門?」 震える声を上げる彼女に、カインは優しく手を差し伸べた。リゼットはその手を強く握り返し、一瞬目を閉じてから、そっと頷いて言った。
「怖いけど…一緒ならきっと――」
カインは微笑を浮かべ、「ああ、僕は最初から君がここまで辿り着けると信じてた」とそっと囁いた。
霞む朝陽が雲海をオレンジ色に染め、結晶柱には橙色の光が反射してゆらゆらと揺れる。雲海の向こうに浮かぶ古都の輪郭は、まるで約束された試練の舞台を示しているかのようだった。二人は互いに微笑み合い、橋を進んだ。
――やがて、城壁の前に立つと、リゼットは息を呑んだ。
黄金色の縁取りが施された高い城壁がそびえ、その上部には太陽の紋章が刻まれている。両翼には二本組の巨大な太陽像が輝き、門柱を挟む形でまばゆい光を放っていた。
城門前の広場には巨大な円形の石盤が埋め込まれ、夜明けの光を受けてわずかに輝いている。その周囲には、小さな太陽結晶の欠片が散らばり、朝露のようにきらきらと光を湛えていた。
リゼットはカインの手をしっかり握り返し、震える声でつぶやいた。
「これが…夜明けの門なんだね」
カインは地図を広げ、門前に描かれた紋章と照らし合わせて確認しながら答えた。
「そうだ。この門をくぐれば、太陽の神殿まで続く道が開かれるはずだ。準備はいいか?」
リゼットは深呼吸をし、一瞬だけ目を閉じた。
「ええ、行こう。一緒なら大丈夫」
カインは微笑み、リゼットの手を強く握って頷いた。
――城門をくぐると、二人を迎えたのは荘厳な空間だった。
黄金の縁取りを施された高い城壁の内側には、両翼に太陽像を飾った柱がそびえ、朝陽を反射してまばゆい光を放っている。門柱を挟む太陽像の目は、まるで二人の決意をじっと見守っているかのようだった。
入場口付近には大きな日輪を模した円形の石板が数枚並び、それぞれが朝陽を受けて淡く温かな輝きを放っている。その光は、まるで神殿全体が「夜明け」を待ち望んでいるかのようだった。
リゼットは一歩進み、石板の上にそっと足を乗せた。踏みしめた瞬間、「きしっ」とかすかな音が鳴り、光がその足跡に沿って反射した。
「見て…この神殿、まるで生きているみたい」
そのとき、背後から白衣の司祭がゆっくりと歩み出した。顔には金色の刺繍が施された仮面をつけ、長い杖を手にしている。杖の先端に刻まれた太陽紋章が、まばゆい光を放ちながら彼を照らしているようだった。
司祭は静かに杖を掲げ、低い声で告げた。
「光の核を携えし者よ、夜明けの門を開かんとするならば、太陽の試練に心を晒すべし。かつて光の力を乱用し、この地を闇に沈めし者あり。ゆえに太陽の真価を知る心こそ、真の守護者たる資格を示すのだ」
リゼットは胸の光の核をぎゅっと握りしめ、覚悟を込めて答えた。
「私は、鍵と光の核を使い、この世界に真の光をもたらしたい。そのためにここまで来ました」
カインはそっとリゼットの背中を抱き寄せ、「俺たちの使命はここから先も変わらない。君を、君の光を信じてる」と囁いた。
司祭はゆっくり頷き、杖を地面に突き立てた。
「汝らを太陽神殿に導こう。ついて来るがよい」
二人は心をひとつにし、司祭の後を追って門内へと進んでいった。
――太陽神殿の中庭に足を踏み入れると、中央には巨大な日輪模様の石盤が据えられていた。
石盤の表面には複数の凹凸があり、太陽光を集める鏡や凹面が配置されている。周囲には四つの柱が立ち、それぞれに「春」「夏」「秋」「冬」を象形文字で表した紋様が刻まれていた。太陽の四季を象徴するこれらの柱は、古の保持者たちが自然の調和を尊んだ証のように感じられた。
司祭は杖を軽く叩きつけて言った。
「汝らの使命は、光の核を用いて、この日輪を夜明けの光で照らすこと。四季を織りなす光を調和させねば門は開かれぬ」
リゼットはそっと光の核を取り出し、凹面に光を当てようと試みた。しかし第一の鏡へ向けた瞬間、核から放たれる白光は鏡面で乱反射し、「きらきら」という小さな歪んだ光の音を響かせた。
「うまくいかない…!」
リゼットの焦る声に、カインは石盤の象形文字を指差して助言した。
「待って。春、新芽…夏、太陽…秋、実り…冬、休息…光の核をそれぞれの柱に当てる角度を変えればいいんじゃないか?」
リゼットは深呼吸し、うなずいてから光の核を回転させた。まず春を示す柱の前に核をかざし、淡い緑色の光を注ぎ込む。その瞬間、石盤の該当部分から「かつん」とかすかな振動が伝わり、周囲の影が一瞬だけ緑色に染まったように感じられた。
次にカインは「夏」を示す柱へ光を向けた。白金の光がまるで太陽そのもののように眩くなり、「ごーっ」という轟音とともに石盤全体が微かに震えた。その衝撃で遠くの松明の炎が揺れ、まるで生きた太陽の息吹が神殿を満たしたかのようだった。
リゼットは続いて「秋」を示す柱へ光を当てた。黄金色の光が豊穣を象徴するかのように石盤に広がり、「ざらざら」という砂粒を踏むような音が周囲にこだまし、凹面がまばゆく輝き出した。すると石盤の中央から「ぐらり」と震えが走り、細かな砂埃が舞い上がった。
最後に冬を示す柱では、リゼットは光の核をゆっくりと静止させ、柔らかな青白い光を注ぎ込んだ。
青白い光は凍てつく空気を思わせるほど冷たく透明で、「しゅうう…」という静かな音とともに石盤に氷の結晶のような模様を浮かび上がらせた。それはまるで時が止まったかのように神殿内が一瞬凍りついたようだった。
――四つの光が日輪模様の中心で完璧に収束した瞬間、石盤が「ドンッ」と轟音を立てて震え、中央から放たれる光の柱が天井を突き破るように伸びていった。
聖歌のような調べが背後遠くで響き渡り、太陽神殿の扉が「バキッ」という重い音を伴って開かれた。その先には、外の門へ続く階段が姿を現し、「ザーッ」という風の音とともに空間は眩い光に満たされた。
司祭は微笑みを浮かべ、「汝らの調和した光は、真の夜明けを導く。門は開かれた。行け、次なる試練は太陽の宮殿で待つ」と優しく告げた。
リゼットは光の核を胸に抱えながら深く礼をした。
「ありがとうございます、司祭様」
カインはリゼットの背を軽くたたき、「やったな。次はあの宮殿だ」と囁いた。
二人は階段へと向かって歩み出すと、石盤の周囲にちらばっていた小さな太陽結晶が一斉に微かに輝きを増し、「きらきら」と星が瞬くような音を立てた。
――階段を上ると、空間はさらに明るさを増し、黄金の階段が雲海の向こうへと続いていた。階段の手すりには小さな太陽結晶が連なり、まるで夜空の星座のように淡く揺れて光を放っている。小さな太陽結晶に触れると、「ほんのり」と温かさが手のひらに伝わり、その温もりが希望を呼び起こした。
階段の最上部から見下ろすと、赤く燃える空を背景にそびえる太陽の宮殿が姿を現した。黄金の尖塔が朝日に照らされ、まるで世界の中心に鎮座するかのように輝いている。
リゼットはこれまでの試練をすべて思い返した。霧の谷で見た双子の幻影、氷の精霊との戦い、影を抱きしめて光の核を得たあの日――それらすべてが、この朝日の宮殿へと導いたのだと胸が熱くなる。
「…光の宮殿が、見えた。ここで待ち受ける試練を乗り越えて、私は本当に世界を照らす力を手に入れられる」
カインは真剣な眼差しで頷き、リゼットの手を強く握りしめた。
「そうだ。共に光を紡ぎ続けよう」
背景には宮殿の門前で光を受ける司祭の背中が小さく浮かび、その姿は二人を新たな試練へと見送っているかのようだった。
リゼットは鍵と光の核をしっかり握りしめ、「行きましょう。夜明けの門を越えて、太陽の宮殿へ」と力強く宣言した。
カインも頷き、「ああ、どんな試練が来ても、君と乗り越える」と応じた。
――雲海の広がる空の彼方に、黄金の宮殿がひときわ輝きを増している。まるで世界を照らすために二人を待っているかのように。
ご閲読ありがとうございました!
リゼットは光の核とカインの支えを得て、太陽の四季を写す試練を乗り越えました。四つの季節を司る光を正しく配し、日輪が天を貫く瞬間――夜明けの門はその役目を果たし、次なる舞台「太陽の宮殿」への道を開きました。
次章では、赤く燃える空を背にそびえる宮殿での更なる試練が始まります。リゼットとカインはどんな運命を切り拓くのか――ぜひご期待ください!




