宗教活動!
緩く波打った水色の髪を白い手がまとめる。その動きを鏡越しにサファイアの瞳が追った。
動きやすくするためにはお団子でまとめ上げるのが本当は一番都合がいい。
しかし今、『エレノア』は十六歳だ。日本で言えば高校一年生。
その頃の花子はよく髪をおさげにしていた。
ケイトの白い手が花子の髪を三つ編みに編み込んでいく。根元から編み込みをいれて編むやり方は当時の花子にはできなかったおしゃれなおさげの結い方である。
(まるで違うな……)
当然だが、かつての花子は水色の髪などではなかったし青い瞳でもない。そしてこんなに整った顔立ちはしていなかった。
ケイトは仕上げとして黒いレースのリボンを結んだ。
「いかがでしょう? お嬢様」
「ああ、上出来だよ」
社会人になってからのお団子、もといひっつめスタイルではなく高校生の頃のおさげの髪型にしたいと思った。
花子の精神年齢はやはり肉体にかなりひっぱられているのだろう。
(かわいい髪型が嬉しいとは……)
ちらり、と花子は机に置かれた本を見た。これはロランから回ってきた『交換日記』である。先ほど見た中身は、彼の昨日の昼食や天気が良かったことなど、本当に他愛もない内容がかかれていた。
そしてそのどれもがロランの不器用だが誠実さをうかがわせる文章だ。
(こんなものも楽しめるとは……)
本当に、精神年齢が退行しているに違いない。
「ところでお嬢様、服装は本当にこれでよろしいのですか?」
楽しげに交換日記をなぞる花子に、背後からケイトは呆れた顔で声をかけてきた。
「うん、いいよ」
それに花子は満足そうにうなずいてみせると座っていた椅子から立ち上がり、全身を映すことのできる姿見の前へと移動した。
そこに映る花子の姿はーー、まるで魔女のようだった。
全身真っ白のワンピースドレスは足下を覆い隠すほど長く、フレアスリーブの袖は七部丈だったが素肌を隠すように肘まである長い手袋を身につけていた。その色は当然白だ。そしてレースがあしらわれているハイネックが首まで白く覆い隠している。
その上には白い丈の長いケープをマントのように羽織っていた。花子はその『マント』をばさばさとはためかせてみせる。
大変満足である。
そこにケイトが諦めたようにため息をつきながら白いヴェールのついた帽子をかぶせてくれた。
大きなとんがり帽子のそれは、やはり魔女のようだ。
色が黒ではなく白なのが難点だが、それは仕方がない。看護師の着る制服が白いのは視覚的な効果もあるが、何より汚れを目立つようにして清潔さを維持するためなのだ。
黒では汚れが目立たず汚染に気づけないリスクがある。
「素晴らしい、完璧だ」
しかし色以外は完璧な仕上がりにほぅ、と感嘆のため息をもらした。
そう、花子は今高校一年生の年齢なのだ。
まだ厨二病を患っていてもおかしくない年齢なのである。
さて、花子は自分の服装だけではなく神官とした元盗賊達にも『制服』を与えた。
金の出所は追い出された時に身につけていた宝飾品だ。
ロランは「自分の領地の立て直しのためだから」と出資を提案してくれたが、制服に関してだけは今回は断った。
一度働きぶりをみて、それで納得してから出資をしてもらう。
そういう契約にしたからである。
というわけでまず最初の活動は元手のかからないところから手をつけていく予定である。
その活動内容はーー、
「いらっしゃい、いらっしゃーい! 相談なんでも承りますよー。女神教がなんでも解決いたしますよー」
路上の一角に露店を開く許可を得て花子はそこで呼び込みをした。そこにふらふらと吸い寄せられるようにして一人の女が近づいてくる。
「女神教……? どのような教えなのですか? わたしのことも助けてくれますか……?」
(かかったな)
花子はにやり、とヴェールの下でほくそ笑む。しかしそれはすぐにかき消し、営業スマイルをにっこりと浮かべた。
「ええ、ええ、もちろん! 女神様はどのような方にも手を差し伸べられます。何かお困りのご様子ですね。相談自体は無料ですからよければお話していってください」
「うっうっ、実は借金が膨れ上がってしまって、もうどうしたら……」
「あー、それは大変ですねー。書類あります? あーあー、高利貸しに引っかかってますねー」
やつれた様子の女性が差しだした書類を見て花子はうんうんとうなずく。書類では最初に借りた微々たる金額がとんでもない利息によりかなりの額の借金にまで膨れ上がっていた。
ちなみにロランが新しく制定した取り締まり法によるとこの利息は違法である。いわゆる俗に『トイチ』と呼ばれるような闇金融業者の利息率だ。
「おい! カカァ! 何してる!!」
その時ぼろい露店の机にすがりついて泣く女性を呼ぶ声がした。その男も服装こそすり切れているものの、活力のある様子で肩をいからせてどすどすと足音荒く駆けつけてきた。
「ただでさえ金がねぇのにこんな怪しい宗教なんかに……っ!」
「ではこちらのリースをご購入くださーい。そうすれば立ち所に問題が解決!」
花子は無視して話を勧めた。女性は元気いっぱいにうなずく。
「買います!」
「こらー!! てめぇ!」
「はーい、お買い上げありがとうございまーす! じゃあ行こうか」
「……は?」
状況についていけない男に、花子はにっこりと微笑んだ。
「その高利貸しのところに」





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