おっさんは畑を耕したい。
「異世界に転移した44歳のおじさん・花村亮」のS級冒険者としての物語(2000字程度)です。スローライフへの憧れとチート能力を織り交ぜた物語です。
花村亮、44歳。かつては都内の建設会社で現場監督をしていたが、ある日、目を覚ますと森の中に立っていた。
「……また異世界かよ。漫画だけの話かと思ってたのに」
しかし、驚く間もなく、頭の中に語りかける声が響いた。
──【転移者認定完了。ユニークスキル:五行掌握(木・火・土・鉄・水)を付与します】。
「……え、なんかチート臭くない?」
気づけば、手のひらから水が湧き、土が隆起し、木が芽吹いた。火花を散らせば小さな炎を操れ、指先を弾けば鋼鉄が剣となって現れる。
戦う力には困らなかった。
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町に降り立った花村は、冒険者ギルドでスキルを見せ、あっという間に実力を認められる。だが、彼は名声に興味がない。
「……いや、俺もう社畜卒業したし。命かけて戦うより、野菜育ててのんびり生きたいわ」
そう語った花村の夢は、スローライフ。畑付きの古民家を買い、村の片隅で野菜を育てて、日々のんびり暮らすことだった。
しかし――現実はそう甘くない。
「花村さん!また山賊が出ました!助けてください!」
「今度はダンジョンが暴走して村に魔物が!出動願います!」
頼られる。やたら頼られる。なぜなら彼は、S級冒険者。他の冒険者では歯が立たないような魔物も、彼にかかれば朝飯前だった。
「ちょっと畑だけ耕させてくれぇ……!」
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それでも花村はあきらめない。
朝は早起きして畑を耕し、土を魔力で肥沃にし、水を適度に撒く。種を蒔けば、木属性の魔力で一晩で芽吹く。
「よし、今日のトマトも甘いな」
火属性で炙ったトマトを塩で食べながら、彼は満足げに笑う。
「こいつを村の子どもたちに食べさせたら、目の色変わるだろうな」
実際、花村の育てる野菜は、どれも絶品だった。自然の五行を自在に操り、完璧なバランスで育てるから当然だ。
そのうち、村人の間ではこう呼ばれるようになった。
「野菜の神様」。
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ある日、大規模な魔族の侵攻が起きた。王都の騎士団すら押され、国が滅ぶかという事態。
だが、花村は言った。
「……まぁ、めんどくさいけど、行くか。畑が焼かれたら泣けるしな」
彼は一人で戦場に立ち、地を隆起させ、川をせき止め、火柱を上げて魔族の軍勢を一掃した。
鉄を操り、槍を飛ばし、森の木を動かして敵を呑み込んだ。
「……はぁ。腰にくるな。明日は休みにしてぇ」
彼の力を見た兵士たちは言葉を失った。
「まさか、あの畑のおじさんが……」
その日以降、花村の名は国中に知れ渡り、彼は正式に「S級冒険者」に認定された。
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だが、花村はその後も変わらない。称号も賞金も受け取らず、黙って村に戻った。
「今日もいい天気だな……ナスがよく育ってる」
その背中は、誰よりも頼もしく、そして自由だった。
村の子どもたちが花村の家に遊びに来ると、彼はいつも笑顔で言う。
「腹減ったか?うちのトマトは甘いぞ」
こうして、異世界でS級冒険者になったおじさんは――
今日も畑を耕しながら、スローライフを夢見て暮らしている。
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「強くて、優しくて、うまい野菜を作る」
異世界最強のおじさんは、そんな日常を守りけている。
初投稿です。
優しく見守りください。