第8話 ランクアップ!
第8話 ランクアップ!
キャシーさんと、かあさんはランチに向かっていた。スライムのおかげか?はたまたビネガーのおかげか?どっちにしても良い稼ぎだったのもあり、贅沢しようと提案したかあさんの意見に従い、キャシーさんは貴族街に近い高級レストランに向かっていた。
遠くから勢いよく馬車が走ってくる!小さな女の子が道の真ん中に居るにも関わらずスピードを落とす気配がない…
「あぶない!」
咄嗟にかあさんは女の子を抱き上げ反対側まで避難した。馬車は何事もなかったように通過する…
「お嬢ちゃん怖くなかったかい?怪我はないかい?」
「うん!大丈夫!」
「道路で遊んだらあぶないからね…気をつけなさい」
「はーい!」
「さっきの馬車はなんだい?」
「男爵家の馬車でしたね」
「この街は、子供が遊んでいても馬車が優先なのかい?」
「そうですね…優先かどうかといえば、馬車が優先です。跳ねられて馬車が遅れると、罪に問われる場合もあります」
「そんなにお貴族様は偉いのかい?」
「そこは、何を基準に考えるか?と言う話になりますが…王都に住む貴族の大半は国家運営の為に奔走しています。例えばこれから王城で貴族会議が開かれる予定になっていたとすれば…その邪魔をした。と言う見解が一般的になります」
「しのぶさんの仰る事も理解できます。ただフランデル王国という封建社会では子供の命よりも国務が優先されます」
「その見方もわからなくはないけど…少し馬車のスピードを弱めた所でなにも変わりはしないだろうに」
「そうですね…ですがこの国ではそう言った発言すら問題になる場合があります」
「まったく…わからなくはないけどさ。いやな社会だねぇ…」
「申し訳ありません。私も軽い命など無いと思っていますが…社会の仕組みとしてはそうなっています」
「マリアちゃんやキャシーちゃんの家はどうなんだい?」
「私の家は騎士爵家、マリアの家は伯爵家です」
「私の家はマリアの家に仕えた家柄で、マリアの家のおかげで出世した感じです。だから子供の時に遊んだ時はマリア様と呼んでいましたよ」
「なるほどね…階級社会ってのはそれほど、きっちりしていて、色々と大変なんだね」
「あ、着きました。このお店です!ランチだと金貨1枚くらいになるらしいですけど…ここで良いですか?」
「いいじゃん…けちけちしないで入りましょ!」
店に入るなり目に飛び込んで来た…大きなテーブルが10台程の、店内の一番目立つ場所に偉そうにしている人物がいる…かあさんはキャシーさんの話をちゃんと理解していた。かあさん自身も社会の荒波で努力し続けた末に、理屈や気持ちではどうにもできない事があるという事も…
しかしその上で…身分の上の者が良くなれば社会が良くなると言う考えも好きじゃなかった。自らに甘え、自滅した事も社会のせいにする輩もたくさんいる事を知っていたからだ
今の姿からは想像もできないが…キレ者のかあさんだからこそ、なんともやり切れない気持ちになったまま着席した
2人はおすすめのコースを注文し…どんな料理が出てくるか?楽しみに待っていた
さっきのテーブルから声が聞こえる
「おい!ホールマネージャーを呼べ!」
「はい!いかがなさいましたか?」
「わしはこの店の常連だが…最近は冒険者風情も店に入れるようになったのか!」
「大変申し訳ありません!以後気をつけます」
キャシーさんの立場もある。いつもなら「ぶっち!」な所だろうが、聞こえないフリをした。それでも我慢出来なくて店員を呼んだ
「すみません…冒険者風情がお邪魔しちゃって…せめてものお詫びに一番高いワインを頂けますか?」
「かしこまりました。それですと金貨12枚になりますがよろしいですか?」
「はい!それで…あ!あと…ホールスタッフの方と厨房の方と今、全部で何人いらっしゃいますか?」
「いまは、お昼時ですので12名おります」
「そうですか…わかりました」
身分に対しては、お金を使った所でどうにもならない事はよくわかっていた。ましてや大声で嫌味を言った所で、逆に店からも不愉快な貴族からも品位を問われる事は目に見えていた。ただそれでもかあさんは、余計な小言を言われたお店の事は可哀想に思えて…せめてお金でも使おうと気を回したのだった
ワインが来た
「こちらがご注文の品でございます」
ソムリエがワインを注ぐ…そこへ
「本日はご来店ありがとうございます。これは私からの、わずかばかりの来店記念です。独自の製法で作ったスモークチーズです。お口に合うかわかりませんがお召し上がりください」
かあさんの気持ちを察知したホールマネージャーさんからの粋なはからいだった
「キャシーちゃん!美味しそうね!頂こう!」
「はい!」
「美味しいねー!」
「はい!私こんなに美味しいワインもチーズも初めてです!これだけで幸せな気持ちになります!」
どうにも気に入らないのか…やつもしつこい
「おい!こちらにはチーズは無いのか?早く持ってこい!もうこんな店に来ないぞ!」
流石にここまで言われては…階級がなんだ!と立ち上がりたくなる…うんうん!もう我慢しなくていいんじゃないの!かあさん。キャシーさんも覚悟を決める!
ダダダダダダッ!
「はぁ!お待たせしました!」
「え?マリアちゃん!どうしたの?」
かあさんにランクアップの報告がしたくて、半休をとってこの店に来ていた。ランチ♪ランチ♪とはしゃぐかあさんに、少しでも満足してもらいたくて、キャシーさんがマリアさんに、良いお店がないか…相談した結果この店に来ていたのだ。
かあさんが一番高いワインをと注文した時には到着していて…不穏な空気を察知してマリアさんは少し成り行きを見守っていたのだ。
そして2人にウィンクしたかと思うと
「これはこれはボーデッヒご子爵様…あちらにいる冒険者の方や店から失礼がありましたか?」
「なんだ!小娘!」
と言った所で気が付く…
「こ、これは、マイスター伯爵令嬢…本日はなぜこのような場所に…」
「このような場所とは聞きづてなりませんね。ここはお父様がとても大切にお使いになってるお店ですよ。確か…ボーデッヒ子爵様もお父様に連れられて来たのではなかったですか?」
「子爵家としてのあのような態度…後ほどお父様に報告しておきますね!それではごきげんよう!」
「お、お嬢様…待ってください!私は決してそのような横暴な態度を取った訳では無いのです」
「なにもそんな事は申しておりませんよ。ただ…先ほど私は…子爵様から、なんだ!小娘!と罵られました…それはさすがに放置する事はできませんね!我がマイスター伯爵家にとっての大事です!」
「いえ…申し訳ありませんでした。何卒穏便に…」
ため息をひとつつき
「ボーデッヒ子爵様…私もお父様に告げ口する程、子供では無いですよ…ただ貴族が国の大事を担っているように…冒険者の方々は命がけで街を守り、庶民と呼ばれる方々も労働力など様々な形で国を守っておられます」
「お父様は毎日のように貴族だからと偉くなってはダメだ…民衆あっての我々だという事を忘れるなとおっしゃいます」
「食事の席が階級の下の方々と同じになったくらいの事で騒ぎ立てるのはやめませんか?」
「はい…心得ました。お嬢様!私はこれにて失礼いたします!」
子爵は逃げ去りマリアさんは席に着いた。かあさんとキャシーさんは、満開に咲き誇ったひまわりのように顔を綻ばせ、胸を弾ませた
「大丈夫かい!マリアちゃん!迷惑にはなってないかい?」
「大丈夫ですよ。それより聞きましたよ!ホールマネージャーさんから…なんで冒険者が来店してるんだ!ってクレームを付けられて、謝っている姿を見て…一番高いワインを注文されたって」
「まあ…ここに来る前もちょっとあったのよ。合わせ技でなんか憤ってしまってね」
「それよりランクアップおめでとうございます!しのぶさんEランクに昇格です!夜は呼ぶってキャシーに聞いていましたので…昼から休みにして来ちゃいました!」
「ですので…私も飲んじゃいます。その金貨12枚もする一番高いワインってのを注いでください!マネージャーさーん!私にも同じコースを!」
女三人よれば姦しい…他に客が居なくなった店内は高級レストランと言うよりも、ギルドの酒場と化していた。そんな中かあさんは、早く日本に帰りたいと嘆くよりも…帰れるようになる日まで、この街に少しでも役立とうと決意するのだった
第9話 生きる決意と装備の購入に続く