第3話 はやく、晩ごはん作らなきゃ
第3話 はやく、晩ごはん作らなきゃ
「しのぶさん!強いんですね!」
「女はね…一生懸命に家族を守ってるうちに強くなるのよ。毎日、朝からお弁当の用意をして、子供を起こして、掃除して洗濯して買い物して…気がついたら夜ごはんを作る時間になって、気の利いた言葉をかけてもらえるわけでもなく…それでも文句言わずに頑張っているうちに………」
「強くなるのよーーー!!!」吠えた
「あの…しのぶさん?私が言っているのはそういう強いじゃなくて…」
「それよりしのぶさん…話が途中でしたが…さっき倒した魔物は見た事ないんですよね?」
「あんな生き物はしらないねぇ」
「色々と話が噛み合いませんでしたし…」
「これはきっとしのぶさんは異世界からの来訪者なのですよ!」
「あぁなるほど…異世界なのかぁ…そっかそっかー!異世界ねぇ…ってなんじゃこりゃー!」
「子供の頃再放送で見た刑事ドラマの刑事が撃たれて死ぬシーン並に叫んだわ!ちなみにオリジナルはなんじゃこりゃって静かに言ってたけど」
「困ったわねぇ…」
「どうされました?」
「はやく、晩ごはん作らないと生意気だけど…ふっとした拍子に、おかあさん!おかあさん!ってどこにでも着いてきてた時を思い出させてくれる可愛い息子がお腹すかしてるし…あんまり遅くなるととうさんが心配するわ」
か、かあさん!泣いていいかな…俺の事をそんな風に思っていてくれたなんて…
(これを最後にするが息子つよしは現代の地球に暮らしている。便宜上、解説と昔話をナレーションする時に息子になるのである)
「マリアちゃん!どうやったら帰れるの!?」
「たまに異世界からの来訪者があるって話は聞いた事がありますけど…みなさん普通に暮らしてらっしゃる様子ですし…帰る方法があるのは聞いた事がありませんね」
「そういえば…さっき助けた親子も耳としっぽがあったわね」
「あの家族は犬耳族でしたね」
「私が生活してた世界にはそんな人間居なかったから…その異世界って所なのだろうけど…せめて電話は繋がったりしないの?公衆電話ない?」
「電話ってなんですか?」
「受話器ってのがあってね…番号を押せば遠くの人に繋がって話が出来るのよ」
「そういった魔道具を研究している人がいる。という噂は耳にした事はありますが…そんな便利な道具は無いですよ」
「困ったねー。家族に連絡も取れなければ、お金も無いのに…もう日が暮れて来たし…」
「しのぶさんは生命の恩人です。今度は私が助ける番ですね♪」
「とりあえず、今日は冒険者ギルドに泊まってください。お金は、さっき倒したオークの討伐報酬とオークの素材を買い取りますので2ヶ月くらいなら心配なく暮らせますよ」
「そんな…冒険者ギルドって言っても…知らない世界なのに、どうしていいか?わからないわよ」
「しのぶさん!安心してください。私…マリアは冒険者ギルドの職員です♪身分証も発行出来ますので…とりあえず、生活は出来ますよ。それにギルド図書館がありますから…異世界転移についてなにかわかるかもしれませんよ!」
「そうなのね…それならお世話になろうかしら…ごめんね…迷惑かけて…」
「しのぶさん!とんでもないですよ…タチの悪い冒険者から助けて頂きましたし、オークの時はしのぶさんが助けてくれなかったら…亡くなっていたかもしれません。これくらいお易い御用と言うか…させてください!」
「あら…やっぱりあなたいい子ね。それじゃ遠慮なくお邪魔するわね。ありがとうね」
「ここが冒険者ギルドです!まずしのぶさんの登録をして…食事も出来ますから。私もご一緒しますから、少しだけ待っていてくださいね。それでは、こちらにご記入を…」
「あら…やっぱり見た事もない文字ね。普通に話は出来るのに…」
「それでは…順番に口頭で説明しますね。慌てなくて構いません!ひとつひとつ書いて行きましょう…」
一方その頃、日本の高橋家では…
「かあさーん!かあさーん!」
「すみません…うちのしのぶ見かけませんでしたか?どなたか見てませんか?」
とうさんは近所をまわり、俺は辺りの道路を路地や人の家の裏まで探し回っていた
「つよし!そっちはどうだ!なんか手掛かりは無かったか?」
「なんもないよ…とうさんの方は?」
「いつも一緒にいる奥さんとかに聞いて見たが誰も知らなかったよ。ともかくとうさんはもう一度警察に相談に行くから家に戻って!もし帰って来たら連絡してくれ!」
「あぁ…わかったよ」
家の中が冷たい…いつ、どこから帰っても元気におかえりー!って迎えてくれるかあさんが居なくなった。15歳になったつよしだが、遠い記憶の中に微かに覚えている。赤ん坊の時に母の姿が見えなくて悲しい気持ちになったような…そんな気持ちになっていた。家に着くと念の為、家中を探した。何度も同じ所も探して回った…
「やっぱり居ないか…そうだ、自転車を取りに行かなきゃ…」
「とうさんよっぽど慌ててたんだな。買い物かごも財布もそのまま置いてあるじゃん…」
近付き…自転車を起こすと一瞬だけ、うっすらとサークルのように丸く光った気がした…地面からしのぶの声が聞こえたような気がして、慌てて耳を近ずけた「異世界の食べ物も結構いけるわねぇ…」微かに聞こえたような気がした声も…すぐに消えた
「まさかなぁ…」
俺も高校生になったけど…かあさんが居なくて動揺してるんだな。かあさんが誰かと話してるような声だったけど…
「まさかなぁ…はぁ…帰ろ…かあさん…急に居なくなると寂しいよぉ…」
重たい足取りで自転車に乗り…いつも見る母親の買い物かごと財布を何度も見ては悲しくなるつよしだった
第4話 なんにしても仕事はしなきゃね!に続く