第20話 家庭教師の日がやってきた
第20話 家庭教師の日がやってきた
今日は王城の中庭に来ていた。授与式の時に国王より直接賜った、家庭教師をする為である
第1王子は8歳…剣術指南を、第1王女は7歳…魔法訓練を頼まれていて王子にはキャシーさんが付き、王女にはマリアさんが付いた
2人とも10歳になれば、剣術学校と魔法学校に行くのだが、2人がアフロディーテに憧れを持っていた事と、王族が模範を示すべき、との国王の想いがあり、このような形になった
2人はさすが王族と言うべきか…この歳にして基本的な事はできており、実戦も想定した授業になった
かあさんはというと、授与式の日にすっかり仲良くなった、同郷の国王と5歳の第2王子、4歳の第2王女と見学しながら、雑談するのが仕事みたいだ
「ねぇねぇ…おばさん強いの?」
上の2人は8歳と7歳とはいえ、言葉使いも振る舞いもすっかり大人のような貫禄を見せているが、したの2人はまだ作法の授業は受けてないらしい
「ん?おばさん?どうだろうね」
「こら…お前たち、おばさんは失礼だろ」
「なんて呼べばいいのー?」
「そうね…しのぶちゃんとお呼びなさい」
「きゃはは…しのぶちゃんだー!」
「しのぶさん…良いのですか?」
「私はおばさんでもいいんですよ。近い歳の冒険者に言われると、たまにぶちっと音がするだけで」
国王も日本の話をするのは楽しいらしく、35年前に35歳で亡くなった国王とのジェネレーションギャップはかなりあった。それでも理解できる人、という事だけで日頃の激務から少し解放されて、穏やかな気持ちになれる。と喜んでいた
「ねぇねぇ…しのぶちゃんはこんなに丸いのに何ができるの?」
「そうだね…お兄さんとお姉さんの授業が終わったらなんでも見せてあげるわよ」
「大した事はできないでしょ?」
「これこれ失礼ですよ!あなた達!はじめまして、しのぶ様…カトリーヌ・フランデルと申します」
「しのぶ様またお会いしましたね」
王妃様と護衛の騎士隊長が来た
「第2王子殿下…第2王女殿下…しのぶ様はとてもお強いのですよ。騎士団隊長の私よりも」
「えー!しのぶちゃんが?うそだー!」
「はっはっはっ…お前達!それくらいにしなさい」
「すみませんね。余程しのぶさんの事が気に入ったみたいで」
「いいんですよ。子供のうちはこれくらいで」
「しのぶ様は気さくで素敵な方ですね…陛下が昨日からソワソワと、楽しみにしておられた理由がよくわかります」
「お前までなんだよ」
「ふっふっふっ♪」
「お疲れ様でした!」
「ありがとうございました!」
「はーい!ここまでお疲れ様!」
「ありがとうございました!」
第1王子と第1王女の授業が終わり近づいて来た
「王子殿下!王女殿下!お疲れ様でした」
「相手は先生だからと遠慮せずに、不思議に感じた事は遠慮なく質問してくださいね。剣術のスタイルも魔法のスタイルも人それぞれで良いのだから」
「はい!しのぶ様ありがとうございます」
「キャシーちゃんはまだいける?」
「師匠!大丈夫です」
「下の2人がさあ、丸い熊さんがどんなか?みたいらしいのよ。少しだけ付き合って」
これは演武である。キャシーさんにはブーストをかけ、かあさんが攻撃する順番を予め打ち合わせした
木剣同士の打ち合い、右前方、左後方、左前方、右後方、前から振り下ろし、最後に背中を押す
マリアちゃん合図を「よーい!はじめ!」打ち合わせ通り、瞬間移動で開始場所から間近に迫り、攻撃したら戻る、を繰り返した
「すっげー!かっけー!」下の2人は大騒ぎしている
「ねぇねぇ!魔法は?」
魔法は少し遊びをとりいれ、威力も熱もない火の玉を、庭の半分を覆うような大きさにして空に打ち上げたり、訓練用のカカシが着てる、鉄の鎧に向かって人差し指を突き出し、高威力と高熱の小さな玉を作り「パシュ!」と貫通させて見せた
「しのぶちゃん凄い!すごーい!」
「しのぶちゃんかっけー!」
欲しいおもちゃを手に入れたみたいに、目を輝かせて喜んでいた
「ねぇねぇ…私も大きくなったら出来る?」
「同じ事ができるかどうかはわからないけど、第2王女殿下には第2王女殿下にしかできないことが見つかるとおもいますよ」
「ほんと!がんばるー!」
「いやはや、今日はありがとうございました」
家庭教師を終えたかあさん達は国王と騎士隊長と少し話がしたいと申し出た。地下下水道通路の1件である
オーガが王城の真下に迫っていた事を告げ、住民の安全を考えるなら、南西の下水道通路出口で警備をするか、他のなんらかの方法で魔物が入れないようにするか。警備をつけるスタイルを取るなら、王城側にもあえて進入路を作り、警備をしながら、いざと言う時の為の避難通路として確保するか。など効率と安全と色々提案しておいた
早速、王室と騎士団との合同会議で考えようと、日程調整に入っていた
3人はまた来週!と告げ帰りについた
「王子殿下と王女殿下はどうだった?」
「王子殿下はとても筋が良かったですよ。多分…これまでも訓練してると思います」
「そうですね…王女殿下も7歳とは思えない魔力量で既に得意な分野は理解しておられるようでした」
「さすがだね!それなら私達は私達が教えられる事を、丁寧に教えれるだけだね」
「アフロディーテさーん!子供と握手してあげてください」
「お!お嬢さん達?もう店じまいするから、売れ残りで悪いが持っていきな!」
静かに王都を歩ける時は無い。妬みややっかみも多いのだろうけど、かあさんはこれでも最強の一角を担っている。せいぜい小さい声で陰口を言う程度である
「これからどうしようかしらね」
「何がですか?」
「冒険者として魔物を討伐するのは良いにしても、簡単な物は私達が手を出すべきじゃないと思うし」
「そうですね…他のパーティが手を出さないもの。となると時間があまりそうですね」
「のんびりするのも良い事だけど…落ち着かないし」
「では、こういうのはどうですか?アフロディーテ新人冒険者研修」
「そうなる?1番やりたくないんだけどなぁ」
「駆け出しの冒険者が、無理をしないように簡単なクエストから、ちゃんとした経験を積ませる事が大事ですし…私もそうでしたが、キャシーもしのぶさんと行動を共にして実感したと思いますけど…剣術学校、魔法学校をトップクラスで卒業しても実戦では役に立てないと言う事です」
「後者は特に、半端に自信があるものだから、無理をして早くに命を落とします。私達の同級生にもたくさんいます」
「だけど…そういう人達は研修しても来ないんじゃないかい?」
「多分…殺到しますよ。そういう人達は噂がどの程度ほんとなのか、自分の目で見たいと思うでしょう」
「そうですよ師匠!アフロディーテにしかできません!」
「どんな形でやるんだい?」
「それはギルドとの打ち合わせになりますが…しのぶさん!冒険者を鍛える事も街に大きく貢献する事になりますよ」
「確かにそうだけどさぁ!そうだけどさぁー!」
少し油断して不幸が重なれば、命を落とす事が日常の冒険者である。講習をする事で変な自信をつけてしまい、悪い結果を生まないか危惧しているのである
「まだ早いかなぁ…それはもう少し考えさせて」
「わかりました!」
「いつもごめんね。しばらくは難しいクエストを選んでこなそう!」
第21話 行方不明の少女を探せ!に続く




