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8月28日 ・・・◎◎◎◎◎◎ ユニバ①


     × × ×     

 

 みんなで出掛ける時は、それぞれがやりたいことをあらかじめ言っておくと良いらしいぞ。

 庄司晶しょうじあきらの提案が罠であることは明白だった。こいつとは3年以上の付き合いだ。バカのくせにもっともらしい台詞を吐く時には何かしらの思惑が潜んでいる。

 僕は桜島さくらじま線に揺られながら「対策」を講じた。窓の外が古びたコンテナヤードからホテル街に変わっていく。


 福島駅から直通列車で約10分ほど。

 僕たちはユニバーサルシティ駅に降り立った。

 幼少期から何度も来ているはずなのに、特徴的な街並みが気分を高揚させてくれる。アメリカンに誇張された看板類、新作映画の広告、洋画が元ネタの海鮮レストラン。

 開園間もない時間帯だけに通路はお客さんであふれかえっていた。海外から来た家族連れが多い印象を受ける。

 学校指定のシャツを光らせた中高生の姿も目立つ。面白いことに僕たち3人もその中に含まれている。


 モスバーガーの前あたりで石生いしゅうが「ハイ」と手を挙げた。


「あたしは塩味のポップコーンを所望します!」

「キャラメルじゃねえのか」「キャラメルじゃないんだ」

「たまには良いでしょ~?」


 思わず庄司と2人でツッコミを入れてしまったが、彼女のはちきれそうな笑顔に吹き飛ばされた。

 融通無碍ゆうずうむげ、天真爛漫な彼女の魅力は周りの目も惹いてしまっており、許されるなら鞄の中に隠したくなる。


 もっとも頭の良い彼女のことだ。何も考えずに気分で定番を外したというより、彼女なりに「やりたいこと」の幅を広げようとしてくれたのかもしれない。

 こういう時って、何となく定番を追ってしまいがちだから。


 続いて庄司が勢いよく手を挙げた。


「じゃあオレは……待ち時間に『ito』やろうぜ!」

「おおお。庄司君ったら。尾藤びとうさんに借りてきたんだ~」


 庄司がショルダーバッグから取り出した手のひらサイズの箱には、タイトルの他に青空と虹が描かれていた。

 ゲームの内容はさておき。こいつにしては意外にも普通の提案だった。

 てっきり3人で手を繋いで歩きたいとか、水辺のスタントショーでずぶ濡れになってほしいとか、邪念混じりの妄言をぶつけてくるものと思い込んでいた。

 僕は少し反省する。男のくせに自意識過剰だったかもしれない。


 やがて目の前に大きなゲートが見えてきた。薄黄色の門柱の向こうには地球儀のモニュメントが佇んでいる。

 ユニバ。正式名称は『ユニコーン・アンド・バーバリアン・スタジオ・ジャパン』(USJ)。言わずと知れた映画のテーマパークだ。

 世界中で大ヒットしたハリウッド作品を中心に、映画の制作技術を生かした独特のアトラクションを楽しむことができる。

 中には日本のテレビゲームをモチーフにしたエリアも存在する。


 僕はさっそくチケット売り場に向かい、女の子になってしまった時に発生した万札を元手に1日券を手に入れる。


「え……蒼芝あおしばって年パス持ってたよな」

「よくよく考えたらさ。今の姿だと出入口の顔認証を突破できないよ」

「あっ」


 言い出しっぺの庄司が少し申し訳なさそうな顔をしてくる。別にこいつのせいではない。

 ユニバの年間パスポートには本人確認のために顔認証システムが使用されており、係員がチケットの使いまわしやなりすましを監視している。

 いっそ仮装コスプレで女の子の格好してますと言い張っても良かったが、一歩間違うと面倒なことになりそうだった。


 ともあれパークの中には入れた。あとは遊ぶだけだ。頭上の巨大なアーケードの上をジェットコースターが走り抜けていく。にわかに気分が高揚していく。


「ねえねえ。小野君は何やりたいの。石生に教えて?」


 石生がポップコーンの屋台に並びながら訊ねてくる。彼女は早くも『ねがい』を果たそうとしていた。

 僕は少し考えてから答えた。


「みんなで写真撮りたい、かな」


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