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第二章 『偽りの片想い』

 ――俺が君に片想いをすればいい。


(は? え? とんでもないことを言い出したんだけど)


 本当に焦っているときはなぜか冷静になってしまうのがエルトナー家の性なのか。

 ルティはレイスに淡々と問う。


「もっと具体的に説明してくれませんか?」


「……だから俺が君に一方的に想いを寄せて、接触しながら魔力補給をすればいい。手を繋いだり、腕を組んだり、要するにイチャイチャするってことだ」


 まさかレイスの口からイチャイチャという俗っぽい言葉が出てくるとは思っていなかったため、ルティは頭を抱えるが、すぐに我に返って顔を上げる。


「あの、別に嫌というわけではないので。契約しちゃっていますから。精一杯務めますけど、その……い、イチャイチャに慣れていなくて」


 ルティは頬を赤く染めながら再びうつむく。

(余計なことまで口走った気がする)


 すると、くすっという意地悪な笑い声が聞こえた。

「へえ、それはそれは。からかい甲斐があるな」


(こ、こいつ……‼ 面白がっているな)

 ルティが顔をひきつらせると、ジェラルドが首を傾げる。


「いっそのこと両想いで恋人を演じたほうが周囲に怪しまれないのではないか?」


 王子ぃぃぃ‼ とルティは心の中で泣き叫ぶ。


(恋人同士になったら、ハグとか、その……キスとか、しなくちゃいけないでしょう⁉)

 目の前にレイスの顔面が迫ってみろ。いまのむかつく態度と相まって、いても立ってもいられずに背負い投げとかをしてしまうかもしれない。


 ルティがいらぬ想像をして悶えていると、レイスはため息をつく。


「事件が解決すれば別れなければいけないし、そんな簡単に別れたらエルトナーだけではなくて彼女の家にも迷惑がかかるだろう」

「それもそうだが……」


 確かにルティの家族がこのことを知ったら黙っていない。一応、そういったところには配慮してくれるのかと思いつつ、別れるという単語を聞いてルティの心は沈む。


(別にレイスのことは恋愛としては好きではないけど、なにこれ、かなりへこむ)


 青白い顔をして黙り込んだルティをよそに、レイスとジェラルドは話を進めていく。


「俺がエルトナーのアクロバティックな動きで『いたずら卵』から助けられた場面は多くの人が見ている。惚れる動機は十分ある」

「ふむ。確かに、あれはなかなかできないぞ。咳をしなければなおよかった」


「だろう? どう対策しても目立つなら、堂々と目立てばいい。犯人にとって予測不能なことが起きればぼろを出すかもしれないからな」

「主な監視は私がやる。お前たちは思う存分にやればいい」

「ああ、こちらからも攻めるぞ」


 そういってレイスは口角を上げ、勝気な顔をする。


「エルトナー、いやルティリエール。それでいいか?」

「は、はい」

 名前を呼ばれるだけで、胸が締め付けられるのはなぜか。ここ数十分で驚きっぱなしで、心臓がおかしくなってしまったのかもしれない。


 ルティは大きく深呼吸をして、口を開く。

「リーデロウェルさん。わたしからひとつだけ条件があります」


「なんだ」


「いくら魔力の相性がいいとはいえ、わたしの力が急に使えなくなる可能性もあります。もしくはリーデロウェルさんの体調に支障がでるかもしれない。そのときは大人に頼りましょう。場合によっては契約を破ってでも信頼できる先生方に明かしますので、そのつもりで」


「……わかっている。そのときは君の発言に従おう」

 レイスの言質も取れたことで、ルティは肩の力を抜く。


(大変なことに巻き込まれちゃったけど、これも立派な白魔導士になるための修行と考えよう)


 そう意気込んでいると、ジェラルドがローテーブルに一枚の金貨を置いた。

「よしよし、話はまとまったな。では今日の報酬だ」


 ルティが目を白黒させて金貨とジェラルドを見比べていると、「足りないか? ではもう一枚」と金貨が増えた。


「……」

 魔法騎士家の娘として育ってきたので、報酬の大切さは知っている。だが、学生が気軽に出していい金額ではない。


 受け取るべきなのか迷ったが、ルティはおそるおそる手を伸ばして金貨を掴んだ。

(レイスってほかにも無茶してそうだし、あとでお守りとかに還元しよう)


 だからといって金貨を制服のポケットに入れて学校の中を歩くのは緊張するなあ、と考えていると、遠くのほうで鐘が鳴った。


「む、二限目も終わったということは……ランチタイムだな。エルトナー、嫌いな食べ物はあるか?」

「えっと、ありませんけど」


「私が昼食を持ってこよう。レイスはいつものでいいな?」

「いつものって、校舎の食堂を使うのは今日がはじめてだぞ」

「あっはっは! ではいつものと言いそうなものを持ってこよう!」


 そういってジェラルドはソファから立ち上がると、ルティが止める間もなく部屋から出て行ってしまう。


「あの、これって不敬罪になったりしませんか?」

「……」

「ちょっと、聞いていますか?」


「はあ、本人が自発的に行った大丈夫だろう」

 すごく面倒くさそうに答えが返ってきた。しかも視線が合わない。


「護衛を兼ねて一緒にいるんですよね?」

「違う。あいつは単独行動を好む変わった王子だから」

 これ以上は聞いてくれるな、という態度だった。


 ルティは口元をひきつらせながら笑みを浮かべる。


 幼い頃から困っている人がいたら手を差し伸べなさいと言われて育ってきた。だからこそ彼らと向き合うために契約魔法を交わし、自ら退路をふさいだ。

 ただ、文句は言わせてほしい。


(なんてイヤな奴なの~~~~‼)


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