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「すまない、俺がよこしまな気持ちを抱いてしまった為こんなことに」

「気にしてない、半分はわたしのせいだから」



 魔術学校の、とある魔術準備室。

 怪しげな標本と不気味な触媒が陳列された中の片隅で、デアガルド公爵家令息アインとハルツ男爵家令嬢ミーミルは、それぞれに自分を責めていた。



「いや、惚れ薬に頼ろうってのが男らしくなかった。今さらだけど告白させてくれミーミル、俺はおまえが好きだ。愛してる」

「はぁ、そうでしたか。意外でした、アインが惚れ薬の注文などと、誰に興味を持ったのかと思ってみれば、まさか想い人が私だなんて」

「どうだろう、返事をくれないか」

「ほんと、今さらですねぇ。私がこんな姿になってからそんなことを言われましても」

「……すまん」

「こんな小さくなってからじゃ、返事のしようもありません」



 ――小さくなってから。

 そう、よく見ればアインの手のひらの上には小さい女の子が乗っていた。

 短く元気そうなボブの金髪に深い碧眼。

 アイン同様、紺に金刺繍の学生服に身を包んだ女の子、ミーミルだった。



「ほんとすまない!」

「気にしてない、惚れ薬の調合を間違えて小人薬にしてしまったのは私なので」



 余人に迷惑が掛からなかっただけ僥倖です、ミーミルは淡々と胸を撫でおろす。


 一週間前、幼馴染であるアインに惚れ薬の調合を頼まれたミーミルは、学年トップの魔術知識を活かして魔術薬「惚れ薬」を作り上げた。

 そう、「作り上げた」のだ。

 ミーミル印のスペシャルブレンド薬剤に魔術の要素を一つまみ、効果を強烈にした惚れ薬を作り上げた「はず」だった。



「偶然とはいえ人が小人になる薬を開発してしまうとは。おおお、自らの才能が恐ろしい」

「俺は普通の『惚れ薬』を頼んだだけなのに。そんな実験ばかりするから狂乱錬金術師マッドアルケミストとか陰口叩かれるんだ!」

「おや、惚れ薬なぞに頼ろうとした卑劣漢がなにか言ってますね」

「うぐっ」

「はてさて本当に反省しているのでしょうか」



 アインの手のひらの上でわざとらしく首を傾げてみせるミーミル。

 着衣も一緒に小さくなっているのは魔術の為せる業か。


 ともあれ小人になってしまったことは困る。

 教師にバレたら勝手な実験をしたと怒られるし、ミーミルの両親にバレたら気の弱い母など卒倒してしまうかもしれない。


 そこでアインはミーミルが幼馴染であることを理由として、『彼女にしばらく住み込みで家庭教師をお願いした』ということにした。

 なにせ彼女は学年一の成績、ミーミルの両親も「公爵家令息がそうおっしゃるのでしたら」と納得してくれたようだ。



「一週間後には大豊祭だ、さすがにそれには出席しないと不味いだろうな」

「そうですね、大豊祭では私が学業優秀賞で表彰される予定ですから。それまでに元の姿へ戻れてないと出席キャンセル。私はどこの学閥からも総スカンを受けることになって破滅です」

「よしどうにかしよう! 幾らでも協力するから俺になんでも申し付けてくれ!」

「当然のことを恩着せがましく言わないでくださいアイン。半分は貴方のせいなんですからね?」

「うぐっ」



 かくして元の姿へと戻れるまでの間、ミーミルの住処はアインの学生服胸ポッケの中となったのであった。



☆☆☆



「はい、ページめくってくださいアイン」



 アインの学生服胸ポッケから胸上を覗かせたミーミルが、宿主に指示を送る。

 昼下がり、学校の魔術図書室。

 ミーミルは凄い速度でアインに書物のページをめくらせていた。



「なにかわかったか?」

「わかりました。どうやら私のスペシャルブレンドは、偶然にも呪い属性の魔術薬になっていたようです」

「つまり?」

「この系統は呪いを解く為に、特定の行動がカギになっていることが多いようです。そのキーアクションがわかれば簡単に元の姿に戻れます」

「なんだ簡単そうじゃないか。やろうぜそのキーアクションとやらを」

「最後まで聞いてください。そういうところですアイン、貴方の成績が悪い原因は」



 今はそれ関係ないだろ! とアインがやや大きな声で反問した。

 図書室に声が響いてしまって、周囲の生徒たちがアインに注目する。ミーミルは慌てて胸ポケットの中に引っ込んだ。



「ホントそういうところ。禁書を開いているのに目立ってどうするんですか」

「わ、悪い」



 胸ポケットの中からくぐもった声でミーミルが言う。

 今二人が見ている本は、禁書庫からこっそり持ち出した物だったのだ。



「で、ですね。残念ながらキーアクションがわからないのです、だから今回の場合は強引に解呪することになると思います」

「解呪、だと……?」

「そう、解呪です」



 アインですら知っている。解呪とは高位の呪術師が力技で強引に呪いを破砕する高等技術だった。

 一介の学生である自分たちにそれが可能なのだろうか。アインは息を呑んだ。



「そうと決まれば解呪の文献が読みたいですね。アイン、また禁書庫に行って『悪役令嬢ジョゼリンの

日記』という本を持ってきてください。彼女が確か解呪のスペシャリストでした」

「ま、また行かなきゃならないのか!?」

「なんでも申し付けてくれって言いましたよね」

「言ったけど!」



 アインが公爵家令息の立場を利用して、またこっそり禁書庫から本を持ってきた。

 その結果わかったのは、解呪には手に入れづらい希少な触媒が必要ということだった。


 火山に住むレギテ龍の鱗、魔の森に生えるクルド草の新鮮な汁、クルクル鳥の卵の殻。

 どれも入手が困難だ。

 胸ポケットから胸上を覗かせていたミーミルが、真顔になった。



「……硬質の象徴レギテ龍の鱗、解毒の象徴クルド草の汁、あとは誕生の象徴であるクルクル鳥の卵の殻、ですか」



 諦めたように首を振り、



「これは無理ですね。諦めましょう」

「え!?」

「入手難度が高い触媒ばかり、とてもじゃないけど一週間で揃えられるものじゃないですもの。小人のまま大豊祭に出て、お説教を受けて解呪を乞います」

「そ、それはダメだ!」

「なぜですか?」

「いや、その……! だって勝手な実験は学校でのご法度だ、学校の教えをないがしろにしている! それはそれで、ミーミルの評価に影を落とすことにならないか!?」

「それはそうですが」

「無理と決めつける前にやってみよう。俺に考えがあるんだ」


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